新学期!そして転校生

 暦的には夏が終わった今日。

 重たい足と意外に軽いアリスを連れて俺は学校へと向かった。


 新学期にもなり、普段通りアリスと別れて登校しようと思った俺は玄関を開けようとしたのだが、アリスに「もう一緒に行ってもいいじゃん!」って言われたので、こうして今日は一緒に登校。

 周りの目が突き刺さったが、魔王たる俺に怖いものなんてーーーーなくはなかった。


 少し男子の視線が怖かった。魔王でも思わず萎縮してしまうほどに。


「おはよー!」


「はよー」


 そして、ホームルームギリギリに学校に到着。

 教室のドアを開けた俺達は久しぶりに会ったクラスメイトに朝の挨拶をした。


「おはよ!アリスちゃんに黒崎くん!」


「朝から仲良いね〜」


「イチャイチャしてて羨ましいよ!」


「ち、違うよぉ!私とクロちゃんはまだそう言う関係じゃないよ!」


 アリスの友達の女の子達から挨拶を返される。

 少しからかいを含めたその挨拶に、アリスは顔を真っ赤にして慌てて否定した。


(そんな慌てる事じゃないのになぁ……)


 別に周囲がなんと言おうと、所詮は戯言だと言うのに、どうしてアリスは真に受けるんだろうか?


「はいはい、早く席につけよアリス」


「むぅ〜〜〜〜〜!」


 そろそろホームルームが始まる。

 だから俺はアリスに座るよう促したのだが、何故か頬を膨らませてしまった。

 ……一体何が不満なのだろうか?


 疑問に思いつつも、とりあえずアリスの頭を撫でておく。

 すると、アリスは「ふへへへっ」と、顔をふにゃけさせたので、とりあえずは大丈夫なようだ。


「クロちゃんも早く座りなよ〜!」


 そう言って、アリスは一転して笑顔で己の席に座りに行った。

 ……いや、感情の起伏激しすぎない?


「まぁ、いいけどさ……」


 少し腑に落ちない部分もありつつ、俺は仕方ないので席に座る。

 窓際一番後ろの席は俺のマイポジション。

 黒板目の前の席に座るアリスのサラリとした銀髪がよく見える。


「よーし、お前ら席に着けー」


 教室の開閉音と共に、気だるそうな中年男性の声が聞こえた。

 いつもながらに覇気のない顔の先生は、少しやつれているような気がする。


「ーーーーという訳で転校生だ」


「「「「「…………」」」」」


 何がというわけなんだろう?

 いきなり前置きもなかったような気がするのだが?


 ほら見ろ。クラスメイト達も「は?」みたいな顔をしてるじゃないか。


「入ってこーい」


 なんて雑な先生なのだろう?

 職務怠慢も甚だしいな、おい。いつか教育委員会に突っ込まれないか心配だ。


 そんな気の抜けた掛け声と共に、教室のドアが開かれた。


「「「「「おぉぉぉ…………」」」」」


 そんな声が教室中から聞こえてくる。


 サラリとした金髪、長いまつ毛、この世界の人とは思えない整った顔立ち、きめ細かな白い肌。

 そんな絵に書いたような美少女が、ゆっくりとドアを開いて現れたのだ。


 そりゃ、クラスメイトからそんな声が上がるのは仕方ない。

 俺も、初めて立場関係なく見ることがあれば、そんな反応をしていただろうから。


 だけど、俺は驚かないしそんな反応をすることも無い。

 何故ならーーーー


「椎名セリアです。よろしくお願いいたしますね」


「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」


 我が家に住む聖女が、正しくその転校生なのだから。



 ♦♦♦



 教室中から現実に戻ったクラスメイト達の歓喜の声が上がる。

 それは一重に、我がクラスに見るも美しい花がもう一輪咲いたから。


「彼女は……その、なんだ?一応……椎名の妹、ということになっている」


 ごめんなさい先生。そんなにたどたどしいのは俺の作った設定がおかしいからですよね。

 母さん……ありがとう。


「はいはーい!質問です!」


 そして、セシリアーーーーセリアを見るや、一人の男子が勢いよく手を挙げた。


「おう、どうした?」


「髪の色が違うけど、本当に姉妹ですか!?」


 ご最もな質問に、魔王絶賛困り中。

 そりゃそうだ。いくら姉妹とはいえ、髪の色が姉妹で違う訳が無い。


 よっぽど拗れた理由がない限り、セリアの髪はアリスと同じ銀髪のはず。


 ど、どうしましょうかね?


「姉妹だから!」


 俺が対応に困っていると、いきなりアリスは立ち上がった。

 しかも、答えにもなっていない答えを乗せて。


「いや、でも普通は髪の色一緒じゃね?」


「姉妹だから!」


「そ、それはそうだと思うがーーーー」


「姉妹だから!」


「あのーーーー」


「姉妹だから!」


「な、なんでもないっす……」


 アリスの答えに、腑に落ちずも席に座る男子。

 いや、口裏を合わせてくれってお願いはしたけどさ……?

 力技過ぎない?流石脳筋勇者である。


「アリス……?あまり他の方を困らせてしまってはーーーー」


 その無理ある対応に、困惑するセリア。


「お姉ちゃん!」


「そ、それは設定でーーーー」


「お姉ちゃん!」


「だからーーーー」


「お姉ちゃん!」


「……うぅ」


 凄い、味方にもあの力技を使うなんて。

 なんと言うありがた迷惑。そこまで口裏を合わして欲しいなんて願ってなかったのに。


 アリスの猛攻を受け、セリアは苦い顔をして考え込み、やがて頬をこれでもかと赤くし、そしてーーーー


「お、お姉ちゃん……」


「あぁぁぁぁもうっ!本当に可愛い妹だよぉぉぉぉぉっ!」


 恥ずかしながら、ついに言ったその言葉。

 そのセリフに胸打たれたのか、アリスはセリアの体に抱き着いて頬ずりし始めた。


 ……というか、かつての仲間にお姉ちゃんって言わせる勇者って何なのよ?


「……はぁ。この先大丈夫かね?」


 俺はそんな光景を見て、先が思いやられるのであった。

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