聖女と買い物①
「クロちゃん……本当に行かないの?」
次の日。玄関前でアリスが寂しそうに口にする。
ちゃんと朝起きれたアリスは本日も学校に行くため、制服を身に纏っていた。
「あぁ……俺はこいつの日用品とか色々買いに行かんといけないしな」
「こいつって言い方やめていただけませんか? 私はセシリアって名前があるのですから」
隣では不服そうにする聖女————もとい、セシリアが昨日と同じ白装束姿で立っている。
「なら私も————」
「アリスは成績悪いだろ? こっちは任せて学校に行ってこい」
今日は金曜日。いつもなら俺もアリスと一緒に制服を着て学校に行くのだが、今日は休みをとることにした。
「別に、一日ぐらいは大丈夫なのですが……」
「それはダメだ。アリスがいない間に色々と教えたり揃えたりしておかないと、アリスが心置き無くお前と過ごせないだろ」
「……あなたは、アリスに対して過保護過ぎではありませんか?」
安心しろ。俺も最近思っている。
「クロちゃんがわ、私の為に……」
「アリスも大概魔王に対しての扱いが凄いですね……」
顔を赤くするアリスを見て、呆れるセシリア。
……パーティー時代も、こんなやり取りが多かったのかね?
「それじゃあ、行ってくる! クロちゃん、セシリアちゃんのことお願いね!」
アリスはそう言って、元気よく手を振り、学校へと向かう。
「おう、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいませ」
そして、俺達も小さく手を振って、学校に行くアリスを見送った。
「……さて、アリスも出かけたし、俺達も準備するか」
アリスがいなくなると、俺は玄関から背を向ける。
「……準備? どこか出かけるのですか?」
「そうだな……さすがに、その格好のままこの世界で過ごす訳にはいかないからな。日用品を買いに行くついでに、セシリアの私服も揃えようと思う」
「こ、この格好は、ここではおかしいですか……」
今時、白装束の修道服もどきはコスプレにしか思えん。
一緒に歩くのは流石の俺でも恥ずかしい。
「今日はアリスの服でも借りるか」
少し遠いが、隣町のショッピングモールなら大体は揃うだろう。
今日のところは、アリスの私服を着て出かけてもらうしかない
「じゃあ、俺はアリスの部屋から適当に服を持ってくるから、それを今日は着てくれ」
「あなたの前でですか⁉ こ、この変態っ!」
聖女は顔を真っ赤にし、己の体を抱きしめる。
「……なんでそうなる」
俺がいつ俺の前で着替えろって言ったんだよ?
お前の耳は俺を悪者にしないといけない病にでもかかっているのか?
「……まぁ、いい。さっさと着替えて、早く出かけるぞ。今日は色々と時間がかかるんだからさ」
♦♦♦
「この前は日が沈んでいましたからよく分かりませんでしたけど……この世界の技
術は凄まじいですね……」
電車に揺られながら、デニムに白いシャツを着た少女が感嘆とした言葉を漏らした。
「だろ? 俺も記憶を取り戻した時には驚いたよ」
俺の場合は、まだこの世界で過ごしてきた記憶があるから、驚きこそあったものの、大して違和感を抱くことは無かった。
しかし、彼女からしてみれば全てが未知に見えてしまうだろう。
「この乗り物なんて向こうにはありませんでした……!こんな速さで走っていけるなんて……それに、揺れがあまりないので酔うこともなさそうですし……」
平日ということもあり、通勤ラッシュを避けた時間帯で乗った俺達の周りにはほとんど乗客がいない。
それが幸いしたのか、電車内をぺたぺたと興味気に触っているセシリアを迷惑に思う人はいなかった。
「おいおい、あまりはしゃぎ回るな」
「し、しかしですね! この乗り物には大変興味があります!」
そんな目を輝かせないでも……なんか、セシリアも子供っぽい。
好奇心旺盛なところや、はしゃぎ回る様など————どこかアリスと似ているような気がする。
もっと落ち着いた奴だと思っていたんだけどな……。
「後で説明してやるから、とりあえず今は落ち着いてくれ。転げたりしたら危ないだろ?」
「転げたりなんかしませんよ。このデンシャたる乗り物は揺れが少ないですし、私も戦闘経験は積んできましたから————きゃっ」
すると、突然車体が大きく揺れ、立っていたセシリアの体がバランスを崩した。
俺は立ち上がり、セシリアが転ぶ前にその体を優しく抱き止める。
「……何か言うことは?」
「……すみませんでした」
恥ずかしかったからなのか、聖女は顔を思いっきり赤くして、大人しく椅子に座った。
「興奮するのは分かるがな、落ち着いてくれないと、見ているこっちがソワソワしてしまう」
「……はい、本当にすみませんでした」
そんなにしゅんとしなくてもなぁ……。別に怒っているわけでもないし。
「でも、この世界の文明はかなり進んでいるのですね……街中では馬車も使わないで進んでいる乗り物もありましたし、この服も、大変着心地がいいです」
そう言って、セシリアはシャツを伸ばしたり触ったりする。
そのおかげで、身長的にも見下ろす形になってしまう俺の視線からは、彼女の鎖骨から下の肌がチラチラと見えてしまう。
少しばかり顔が熱くなってしまったので、俺は思わず視線を逸らした。
「……私達の世界とは、大分違うのですね」
いきなりもの鬱げに呟いた彼女の言葉は、どこか不思議と心の中の残った。
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