聖女と買い物(2)
それから、俺達は電車を降り、隣町のショッピングモールまで辿り着いた。
中は平日であるにも関わらずごった返しており、繁盛しているんだなと思わせる。
そんな中、俺達はゆっくりと買い物をしていた。
取り急ぎ必ず必要なものは先に購入し、後は歩きながら欲しいものを揃えていく、その方がいいと話し合った上での行動だった。
「それにしても、本当にお金を出して貰っていいのですか……? 私はこの世界の物価は分かりませんが、それでも大層な金額だと思うのですが……」
「かまわねぇよ」
「し、しかしですね……」
「だから気にするなって言ってんだろ。全部俺の為なんだ」
そう、これは必要投資。ここでセシリアが気兼ねなく生活することが出来れば、アリスも気兼ねなく友達がいる日常を謳歌してくれるだろう。
さすれば! アリスはいつも以上に笑顔になるに違いない!
それを見て、俺は幸せ! 全ては俺に直結する!
「ふふっ、随分と傲慢で優しい魔王ですね」
俺が内心高らかに叫んでいると、隣で可愛らしくセシリアが笑った。
……初めて、俺に対して彼女が笑った気がする。
昨日までは俺に対して威圧的ない態度をとっていたのに、今の彼女は少し違う。
「優しいはともかく、傲慢なのは確かだろうよ」
その事はあえて突っ込まず、平然と会話を進めた。
「ですが、私は一方的に施しを受けるつもりはありません。それが魔王だからという訳ではなく、人間だろうと、私は平等に仮は返します」
そう言って、彼女は懐から小さな袋を取り出す。
「この世界で使えるか分かりませんが……」
そして、その袋を俺に手渡してきた。俺はそれを受け取り、紐を解くと、中には色鮮やかに輝く鉱石が入っていた。
「……これ、向こうの世界ではかなり高価なものだろ?」
レジストダイヤ。向こうの世界ではそう呼ばれている。
限られた場所で限られた量しか入手できないことから、界隈では高値で取引されているはず。
魔族側でも、この鉱石は流通しており、金貨や宝石よりも価値があるとされていた。
「向こうでは、これだけあれば屋敷一つは余裕で買えます」
「屋敷⁉」
俺は驚きのあまり袋を落としそうになってしまう。
た、高値なのは分かっていたが……この小さな袋に入るぐらいしかないレジストダイヤで屋敷が買えるのか……。
「受け取れんわ!」
流石に高すぎる。そんなもの、入り用なものを買っただけで、あまりにも釣り合っていない。
俺はその袋を突き返すようにセシリアに渡す。
「いえ、受け取ってください。私は この世界ではこれしか持ち合わせがないのですから」
そう言って、セシリアも俺に袋を突き返した。
「持ち合わせがなくても受け取れるか!」
俺も再び突き返す。
「いいから受け取ってください! 私は恩を返したいんです!」
「だから返さなくてもいいって言ってんだろ⁉」
互いが押し付け合うように袋を譲らない。
この鉱石の価値を知っていても尚、こうして押し付けあっているのは、多分俺達ぐらいなものだろう。
「強情な魔王ですね⁉」
「強情なのはお前も同じだろ⁉」
『『『ゴホン!!!』』』
「「ッ⁉」」
俺達がショッピングモールの往来でいがみ合っていると、周囲から大量の咳払いが聞こえてきた。
その音に肩を震わせ、周囲を見渡してみると、大勢の人達が俺達をいぶしんだ目で見ている。
「この争いは一旦家に持ち帰ろう……」
「そうですね……その意見に賛成です……」
俺達は周囲に頭を下げると、早々とした足取りでその場から離れる。
その際、顔が赤くなってしまったのは、仕方ないと思う。
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