面接!アリスに告白したいなら!
少し前に話したと思うが、アリスはこの学校で一、二を争う程の美少女だ。
校内を歩いているだけで、男女問わず視線を集めてしまい、その可愛さ故、密かにファンクラブまであるほど。会員総数ざっと百人以上————すごいな、アリス。
当然、うちのクラスの男子は大半が加入しており、毎日アリスを観察しているみたいだ。
そんな人気者のアリスは常日頃から男達のターゲットになっており、いずれは己の恋人になってもらう為、日夜好感度アップに勤しんでいる。
……俺にはよく分からない感情だ。
好感度アップには会話をし、好みを把握し、男を磨く————そんなことをしているなのだとか。
そして、己の中で期待値が高くなった瞬間、伝説の『告白』へとフェーズを移行する。
今までアリスが告白された回数は、入学してから三桁は超えているらしい。
それほどまでに、アリスに好意を寄せる男は多く、今彼女に彼氏がいないことから、その告白の成功率はかなり低いことが伺える。
それでも、この想いを伝えずにはいられない。アリスに彼女になってもらいたい————そんな男達の気持ちが、難攻不落だと分かっていて尚突き進ませる理由なのだろう。
……少し、男としてかっこいいと思ってしまうな。
そんな中、最近では少しづつだが、その告白の仕方が変わった。
普通に告白しても無理なのか、自分の匙加減ではよく分からないのか————どんな理由かは知らんが、やり方が変わってきた。
これは、そんな変わってきたやり方の一幕。
「では、次の人」
「はい!」
現在放課後。俺は教室の隅で一人、テーブルに肘をついて書類に目を通す。
「二年B組、佐藤哲也です! よろしくお願いします!」
そして、俺が座っていいる場所から少し離れた場所で、佐藤と名乗る男が一礼する。
……ふむ、元気があってよろしい。
「では、お座り下さい」
「失礼します!」
俺が促すと、佐藤くんは緊張した様子で着席する。
「早速ですが、今回アリスに告白をしたい————ということですが、その動機は何ですか?」
「はい! 僕が椎名さんに告白したいと思った動機は二つあります! まず一つ目ですが————」
ちょっとした面接。傍から見れば、この光景はそんな風に見えるだろう。
俺が面接官、相手が受験生。そんな構図が作り出されているのには理由がある。
この受験生は皆『アリスに告白をしようと考えている』人達。
最近では、何故かそのまま告白しに行くのではなく、俺に話を聞いてもらってから告白しに行くようになった。
なんでも「悔しいが、椎名さんを一番よく知っているのは黒崎だからな……っ! お前が『告白をしてもいい』と思えなければ、フラれるだけだ……っ!」と、言うことらしい。
そのセリフを言った男子は終始唇を噛み締め、血の涙を流していたが、正直そんなに業腹なら俺に頼むな、と思った。
————がしかし。
この話には魅力的な部分があった。
俺自身、恋愛なんぞに興味はないが、アリスのこととなれば話は別だ。
アリスに、変な男が寄って来るなんて言語道断。
せめて、俺の目で判断し、しっかりと隣に並ぶに相応しい男ではないと、アリスの寵愛は受けさせられん。
……こんな事言っている俺って、本格的に親だよなぁ。
「————以上二つの理由から、私は椎名さんが好きになり、告白をしようと思いました」
「……ありがとうございます」
俺は佐藤くんの話の要点をまとめ、メモ帳に記していく。
そして、じっくりと検討した後、佐藤くんに己の見解と結果を告げる。
「今回、あなたがどういう理由で告白をしようとしているのかは充分に伝わりました」
「あ、ありがとうございますっ!」
「がしかし、あなたの言葉はどれも抽象的なものばかり。もっと具体性をもってアピールしないと、アリスはあなたの気持ちを理解してくれません。それに、あなたが幸せになりたい為にアリスと付き合いたいなんて言語道断。あなたのことは二の次でいいんです。一番幸せにならないといけないのはアリスなんです。そこを履き違えているあなたは————とてもアリスに告白させることはできません」
「そ、そうですか……」
俺が思い思いの意見を言うと、男は項垂れるように気落ちする。
「……ですが」
「ッ⁉」
俺が言葉を続けると、佐藤くんは勢いよく顔を上げた。
「あなたは好意が大きすぎて空回りしているように思えました。独りよがりではなく、相手の事を踏まえた考えをすれば、あなたは告白するに相応しい男になるでしょう」
佐藤くんは少しばかり言葉に詰まると、最後は勢いよく頭を下げた。
「あ、ありがとうございますっ!」
自分の中で何かが分かったのか、沈んだ雰囲気は消え、凛々しい顔で教室から出ていった。
……フッ、いい顔つきになったじゃねぇか。
アリスを堕とせるかは別の話だが、少しはマシな男になっただろう。
俺は彼の背中を見て、不思議とそんなことを思った。
「では、次の人————」
「……ねぇ」
俺が次の受験者————もとい、告白に踏み切ろうとする男子を呼ぼうとすると、不意に後ろから声をかけられる。
振り向くと、そこにはハイライトの消えた目でこちらを見ているアリスがいた。
「ど、どしたよアリス?」
……すごく怖い。どうしてそんなに怒っているの? 俺、何か悪いことした?
「……クロちゃんは、何をしているのかな? かな?」
気の所為か、ひぐらしの鳴く声が聞こえた気がした。
「今な……アリスの隣に立つに相応しい男を選定して————」
「そんなことしなくていいんだよ」
すまない、男子達よ。君達の努力は『そんなこと』で済まされてしまった。
「私、そんなことお願いしてないよね? 本当に、私の気持ちに気づいてないの? それとも、知ってた上でこんな事してるのかな?」
「……すみませんでした」
アリスが何を言っているか理解できなかったが、本能的に土下座。ここは潔く謝っておいた方がいいと、そう思ってしまった。
「……帰ろ」
「……かしこまりました」
アリスは不機嫌そうに身を翻すと、そのまま教室を出ていった。
俺も、後に控えている男達にジェスチャーで謝ると、アリスの後を追うようにカバンを持って教室を出た。
……ヤバいなぁ。久しぶりにアリスがあんなに怒ってしまった。
これは、帰りに何か買っておかないと、機嫌が良くなりそうにない。
でも、なんで怒っているかさっぱり分かんないんだよなぁ。
「……はぁ」
人間の気持ちはよく分からない。というよりは、女の子の気持ちが分からない。
その事に、魔王である俺はため息をつくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます