理解者
気になっていた質問。それを言うと、アリスは固まってしまい、部屋に静寂が訪れる。
「……ふぇ⁉」
そして、質問を徐々に理解したのか、アリスは顔を真っ赤にして驚いた。
……何を驚くことがあるのだろうか? 別に、普通の質問だろうに。
「ど、どう思ってるって……それ、聞いちゃう⁉」
「聞いちゃう」
だって、気になるんだもん。
「で、でも……恥ずかしいし……ま、まだ心の準備が……っ!」
どう見ているか答えるのに、心の準備なんているのだろうか? まさか、いい歳にもなって「おじいちゃん」って思っているのが、恥ずかしいとかなのだろうか?
「別に、恥ずかしがることじゃないぞ? 俺は別に、何を言われても問題ないからな」
「私が問題あるの!」
「そ、そうか……」
必死な彼女の顔に、俺は思わず背中を逸らしてしまう。
そ、そこまでこの話が恥ずかしがることだったとは……。俺は全然恥ずかしくないのだが、これも前世の年齢が関係しているのか?
「ど、どうして……急にこんな話をし始めたの?」
指をもじもじさせながら、おずおずといった感じで俺に尋ねる。
「どうしてって、言われてもなー。ただ、前世の年齢もあるから、お前にとって俺はどんな風に見えるんだろうなぁ、って思っただけだが? 例えば、おじいちゃんなのか、お父さんなのか」
「……あ、そっちなのかぁ」
「……そっちって、どっち?」
「……なんでもないよ」
なにか思い違いをしていたのか、アリスは僅かに顔を逸らした。
……一体、なんの話だと思ったのか?
「……それで、結局どういう風に思ってるんだ? やっぱり、おじいちゃん?」
「別に、そんな風には思ってないかなー。魔王だったころのクロちゃんも若そうな容姿してたし、今は同年代の男の子として思ってる————まぁ、確かにクロちゃんは同年代の子と比べて大人びて見えるけど、前世の年齢はそこまで感じられないかな」
「そんなもんかね……」
「そうそう! まぁ、私はほとんど勇者だったころと年齢が変ってないし、赤ちゃんからやり直したとしても、結局は子供だったから————クロちゃんとは考え方が違うかもね」
そう言い終わると、少しアリスは寂しそうな表情をする。
……きっと、俺と考え方が違う————というよりは、改めて俺との違いを意識してしまったのだろう。
アリスのすべてを分かってやれるのは、今は俺しかいない。
前世を知っている人は、きっと俺達だけだ。他人に話しても、妄想の延長線上の話だと思ってしまい、受け入れてくれないだろう。
同じ境遇。だからこそ、彼女の本当の理解者になれるのは俺しかいない。
その俺との壁を感じてしまったからこそ、少し寂しく感じたのだろう。
「まぁ、考え方は違うと思うが————」
俺は胸にもたれかかっている彼女の頭を優しく撫でる。
「————俺はお前の理解者だからな。多少の考え方の違いなんて、気にする必要もないだろ」
俺達は理解者なんだ。敵だからと言って嫌われていたあの時とは違い、互いのことを一番理解できる存在。
アリスの理解者が俺しかいないように、俺の理解者はアリスしかいない。
そんな唯一の存在の少しの考え方のズレなんて、気にする必要も全くないのだ。
「そうだよね……」
納得してくれたのか、アリスは甘えるように俺の胸に顔を埋めた。
……本当に、アリスはよく甘えてくるよなぁ。
「魔王だからって、悪い人だと思ったのに————実は優しくて、かっこよくて、頼りにもなって、面倒見が良くて、困っている人がいたら見捨てれない人……ふふっ、魔王らしくないね」
「もう俺は魔王じゃないって」
魔王じゃないからと言って、性格や己の芯まで現世で変えるつもりもないが。
「そんな素敵な人が、私の理解者……」
彼女は、そんな呟きを残し、俺の胸で黙りこくってしまった。
しかし、まぁ……こんな真正面から褒められると、なんかこそばゆいものを感じるよな。
「理解者だからと言って、俺に対する評価が高すぎやしないかねぇ……」
前世では忌み嫌い合う存在だったというのに、今ではこの懐かれよう————世の中、不思議なことが多いものよの。
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