閑話~前世の終わり~
煌びやかな室内には、中央を跨ぐように赤い絨毯が敷かれている。天井は吹き抜けており、この世界独特の赤い月が良く見えていた。周りには装飾類も、置物も一切なく、神々とした腰掛ける椅子のみ。
そんな部屋に今、終わりを迎えるための最後の邂逅が行われていた。
「はぁぁぁぁっ!」
装備も何もなし。勇者と名乗る少女は溢れんばかりの輝きを放つ剣一つで、俺に向かって切りつけてくる。
「………」
俺はそれに対して、片手を捻り、剣をを横に受け流す。
「まだです!」
そして、背後から魔力が集まるのを感じる。賢者と名乗る少年が、己の魔力を注ぎ込み、炎炎たる塊を生み出していた。
回避————なんてことはしない。
魔王たるもの、どんな時でも人間相手に退くことなどあってはいけないのだ。
ならばこそ、ここは己の魔術で防御壁を張るしか————
「させませんっ!」
聖女の魔力が、俺の魔術行使を妨害する。古今東西、魔族の弱点は聖なる物。それを生み出す彼女の魔力は、魔王たる俺の魔術を妨害するのには充分だった。
「くらぇぇぇぇぇぇっ」
目の前に炎炎とした塊がいっぱいに広がる。防御壁を張れなかった俺は、無防備にその攻撃を受けてしまった。
自軍劣勢、最終局面。人間側の侵攻により、我が魔王軍は壊滅状態。部下の多くを失った。
そして————その壊滅させた人間軍の主力が魔王軍の長であるこの俺の元まで辿り着いた。
あぁ……負けてしまうのか。抗えないものには逆らうべきではなかったのか? ただ、俺達は魔族の平和の為に立ち上がっていただけだというのに————
「やぁぁぁぁっ!」
「はぁぁぁぁっ!」
「くらえぇぇぇっ!」
俺の魔力はほぼゼロ。体力も底をつきかけており、損傷した部位を再生することが出来ない。
勇者達の猛攻を一身に受け、さらに俺の体は損傷していく。痛い。痛みで泣いてしまいそうだ。
魔王なんて————やっぱり、俺の柄じゃなかったのかもな……。
勇者の一振の聖剣が、俺の胸に突き刺さった。
聖剣の聖なる光が、徐々に俺の体を蝕む。俺はやがて、この剣により命燃え尽きるだろう。
「どうだ、魔王!」
勇者の顔が目の前に映る。
「あぁ……」
彼女達は正しく脅威だった。何度も何度も、俺の元まで現れては、立ち上がり、挑みかかってきた。
賞賛だ。最後の最後で、彼女達の諦めない不屈の心が、俺に勝ったんだ。
————だが、
「むぐっ⁉」
俺は最後の力を振り絞り、勇者の首を掴む。
……この戦争は、人間側の勝ちだ。でも、いつか俺の部下————魔族がきっと立ち上がり、再び平和な国を取り戻してくれるに違いない。
ならば、その為の大きな障害は、ここで潰しておかなくてはならない。
「……好きだよ、俺の可愛い同胞」
己の心臓を起点に残り全ての魔力を集める。負荷がかかりすぎた俺の心臓は決壊し、暴走する。
そうすれば、俺諸共、勇者を道連れに逝けるだろう。
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!」
「アリスを離してください!」
賢者と聖女の叫びが聞こえてくる。必死に俺の手を離そうと魔力を集めるが、蓄積された疲労によって、上手く練り込めていない。
「悪いな勇者……共に逝こうか」
戦争とはいえ、やはり命をこの手で摘み取るのは胸が痛い。
……この勇者だって、聖剣に選ばれただけの、ただの少女なのにな。
けど、それでも俺は魔族の為、己の命と引き換えに、この少女を殺さなければならない。
賢者と聖女の叫びを無視して、俺の魔力が暴走を始める。
「……?」
最後、己が命が消える直前、俺は勇者の顔を見て少し不思議に思った。
何故なら————
「よかった……」
彼女は、心底満足そうに笑っていたからだ。
そして、激しい爆発音と共に、俺の命は輝きを失った。
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