俺、実はすごいおじいちゃんなんです
実は、俺とアリスは前世の影響を現世で受けているのではないかと思っている。
この世界には俺が調べた限り魔力なんてものは存在せず、魔王時代に使えた魔術が現世では使えていない。アリスも、前世では魔術こそ使っていなかったが、聖剣もなく、勇者の加護も消えているので、身体能力的には本当に普通の少女となんら変わりもない。
しかし……しかしだ。
身体的なもの以外は、かなり影響を受けているのではないかと思っている。
例えば、度胸。
俺もアリスもそうだが、向こうにいた時は幾度の戦場を乗り越えてきた。時には弱い相手だろうと剣を振りかざし、強い相手には臆することなく立ち向かった。
そして、記憶。
これは未だに鮮明に残っている。アリスは分からないが、俺が前世の記憶を思い出したのは小学六年生の頃。学校の帰り道を歩いていて、不注意で電柱にぶつかったところ、急に前世の記憶が蘇った。初めは「あ、これ夢なんだぁ」と思っていたのだが、徐々に本物なんだと思い始めた。
この前世の記憶は、かなり現実に影響を与えていると思う。文化の違いやら、世界観はすっかりこの世界に慣れてしまったが、年齢的な問題はどうしても拭いきれない。
アニメやラノベの異世界転生者が「前世は年老いていたが、今は身体年齢と同じくらいの精神年齢だよ」と言っていたが、そんなことはないと思う。
口調は年相応だが、周りを見る目が全然違うんだよなぁ。
前世の俺————享年二百十五歳。
こんなに歳取った俺が、十七歳の少年として振舞えと言うのが無理な話である。
前世でも少女だったアリスはともかく、俺は完全におじいちゃんなのだ。見た目こそ歳老いていなかったが、精神的にはぬぐい切れないほどのご高齢。
だからなのか————
「あ! クロちゃんダメだって! そこでボムは使っちゃダメだよ!」
テレビ画面に向かって、アリスはコントローラー片手に俺にダメだしする。
学校も終わり、部屋着に着替えた俺達は夕飯までの間、一緒に家でTVゲームをしていた。白を基調としたフリルのついた部屋着は、彼女の明るさと相俟って可愛らしさを表現している。
アリスは足を伸ばし、俺の腹を背もたれ代わりに、コントローラーをいじりながらゲームをしていた。恰好を客観的に見れば、胡坐をかいている俺の間にアリスが座っているように見えるだろう。
彼女の仄かないい香りが俺の鼻をくすぐる。天使のような美少女が近くにいる……この状況は紛れもなく男子達の憧れなのだろう。
しかし、俺には一切の興奮も何もなかった。
(これも、記憶の影響なのかねぇ……?)
年があまりにも違うからか、もしくは種族が違ったからか————どちらにせよ、この美少女が密着しているという状況に、何も感じない。
「ねぇ、聞いてるの⁉」
「あ、あぁ……聞いているぞ」
どちらかと言うと、娘か孫を見ているよう。異性としてではなく、可愛い我が子を見ているような————そんな風に感じるのだ。
では逆に、アリスはどう思っているのだろうか? おじいちゃん? お父さん? それとも、同級生の他人と思っているのか?
俺は視線を下に動かし、俺の顔を見上げているアリスを見る。
(少なくとも、敵としては見ていないだろうな……)
俺とアリスは敵同士。互いに恨みや目的を持って、倒さんとした宿敵。そんな彼女が、こんなに無防備に俺に密着している。敵だと思っているなら、こんな事しないだろう。
俺も、前世の記憶が残っているとはいえ、勇者であるアリスを恨んだりしていない。
たくさんの部下を失った。同胞が、彼女の手によって殺された————でも、それでも俺は恨んだりしていない。だって————
(それは、こいつも同じだろうからな……)
初めて会った時は、単に前世に興味がなかったから。でも、今こうして彼女と過ごしているうちに、アリスが好き好んで殺傷していたとは思えない。
優しくて、明るくて、律儀で、そして……争いを最も好まない少女。命を大切にし、すべての事柄に感謝と誠意を向けれる強い女の子。きっと勇者として、背負っているものがあったからこそ、俺達に挑んできたんだろう。
……おっと、話が逸れたな。昔のことは、今は忘れよう。
それより、彼女は俺の事をどういう風に見ているのか? それが気になるのだ。
「なぁ、アリス……」
「ん?」
話を聞いていなかったからなのか、少し不満げに頬を膨らませているアリスに尋ねる。
「アリスって、俺のことどう思ってる?」
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