初めての邂逅


 〜一年前〜


「お母さん、今日から海外赴任でロシア行くから」


「……は?」


 自宅のリビングで、突如実の母親から言われた衝撃な一言。そのおかげで、驚きのあまり変な声が出てしまった。


「だから、ロシアよロシア」


「行先はどうでもいいんだよ馬鹿野郎」


 いや、行先も大事なんだけどね? 今聞きたいのはそこじゃねぇんだよ?


「……トゥデイって言ったか、マイマザー?」


「トゥデイって言ったわ、マイサン」


「……はぁ」


 俺は母親の発言に溜息をつきながら、頭を抱える。

 ……どうして、この人は海外赴任という大事なことを前もってでは無く、当日に言うのだろうか?

 報連相って言葉を知らないのかね?


「……しょうがない。母さん、俺のパスポート知らない? 早く俺も支度しないといけないし」


「……我が息子ながら、適応能力が高すぎてお母さん困ってるわ」


 困るんなら言うなボケ。こちとら、実の母親が大事なことを当日に言ってくるから困っとるんじゃ。


「でも、支度なんてしなくていいわよ? あんたは残るんだから」


「……お母さん、僕を捨てる気なんだね」


「その通りよ」


「ねぇ、それは俺のボケに対するボケ返しだよな? 本気で言ってるんじゃないよ

な?」


「…………」


「無言やめてくんない!?」


 本気で捨てようとしてるわけじゃないよね!? 違うよね!?


「……まぁ、それはさておき」


「さておくな。こちとら親子の縁が切れそうで焦ってんだ」


「あんたを連れていくのは無理なのよ、色々と。お母さんとお父さんは会社が貸してくれる家に住むんだけど、関係者以外住めないし」


「家族って関係者に含まれないの?」


「含まれないのよねぇ〜。それに、今更転校手続きとか面倒臭いし」


「母親が息子の事に面倒臭がるな。もうちょっと頑張れ」


 確かに面倒だとは思うけどさ……もうちょっと、息子の為に頑張ろうって気が持てないのかね?


「それに、我が息子にはお願いしたいことがあるし」


「……お願い?」


「そうそう、お願い。実はね————」


 ピーンポン♪


 母さんが話している最中、不意に玄関のチャイムの音が聞こえた。


「あ、来たみたいね!」


「来たって誰が————」


 そして、母さんは俺の言葉なんか無視して、椅子から立ち上がり玄関へと向かった。

 ……実の息子に対する扱いがぞんざいに扱いじゃない? 一度家族で真剣に話し合いたいものだ。

 家族の対応に不満を抱きながらも、俺は母さんの後を追うべく、立ち上がり玄関へと向かった。


「はいはーい♪」


 楽しそうな声で、母さんが玄関の扉を開ける。そして、ゆっくりと玄関扉が開かれると————


「……おぉ」


 そこに現れたのは、緊張した顔つきで体をモジモジさせている少女。腰まで伸びているサラリとした銀髪に整いすぎた可愛いらしい顔。薄い白のワンピースが少女の可愛らしさをより一層引き立て、まるで天使を連想させるほど、魅力的に見えた。


「よく来たわね! アリスちゃん!」


「……ん? アリス?」


 その言葉を聞いて、何か引っかかる。その名前はどこか聞いたことあるような気もするし、よくよく見ればこの少女は誰かと凄く似ているような……。


「は、初めまして! 椎名アリスです! 今日からお世話に―――――」

 

 緊張した声で挨拶を始めた途中、何故か少女は俺の方を見て固まった。

 ……ん? 俺の顔に何かついてんのか? ははーん、さては俺の美貌にあてられてしまった――――


「まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁおぉぉぉぉぉぉぉぉうっ!!」


「ちょっ!? いきなり何!?」


 ――――訳でもなく、おもむろにアリスと名乗る少女は鈍器を取り出し、俺に向

かって思いっきり殴りかかってくる。


 ――――思い出したわ。


 こいつ、勇者だ。


「やめっ、やめろ勇者!? その鈍器をしまえって! っていうかどこから取り出した、その鈍器!?」


 俺は振り下ろそうとする鈍器を両手で必死に掴み、必死に抵抗する。


 くそぅ! 前の俺だったら防御壁張ってこんな、鈍器鼻で笑って守れるのに!


「うるさいよっ! ここで会ったが百年目! 私がここでみんなの分も合わせて倒す!」


「マイマザー、助けて! なんか出会い頭に俺襲われてるんだけど!?」


「あらあら、初めて会うのに仲良いわね〜」


「この状況見て、仲良さげに見える!?」


 現在進行形で襲われてるんですけど!? しかも、初対面じゃないし! 敵同士だったし! 何回も会ってるんですけど!

 だから、仲良くなんてないんです! なので、見てないで助けて! このままじゃ、玄関が血で汚れちゃうんですけど!


「紹介するわね〜。この子は椎名アリスちゃん。お母さんとお父さんの取引先の娘さんで、ロシアと日本のハーフさんなのです!」


 しかし、そんな俺の想いも届かないのか、母さんは呑気に自己紹介をしながらこちらを見ていた。


「現世の紹介をありがとうっ! できるならゆっくりとその紹介を聞きたかった!」


「ね? 可愛い子でしょ?」


「か、かわっ⁉」


「照れるな勇者!」


「まぁ、でも良かったわ。これから一緒に住むんですもの。仲が良くなくちゃね~」






「……は?」

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