二十六章
「この塔が宇宙で爆発ってなんなんですか? すぐに地球に戻ってくださいよ!」
僕たちは半透明になっている琴理さんに詰めよった。ガクエンレンゴクはすごい速さで宇宙に飛び出したようだ。塔の窓の外はすでに宇宙空間だ。はるか下には青い惑星、地球が見える。
「……申し訳ありませんが、それはもう、無理のようですわ。『滅びの花』に制御システムを完全に支配されていますから、地球への帰還も爆発の中止も不可能なのです」
琴理さんは苦渋の表情で言った。
「でも、どうして『滅びの花』ってそんなことさせてるのかしら? 『滅びの花』って植物でしょう? 地球から離れて宇宙で学校と一緒に爆発するなんて、自殺行為じゃないですか?」
「いいえ、峰崎さん。『滅びの花』は、その程度のことではとうてい死滅しませんわ。このまま、このガクエンレンゴクが宇宙空間で爆発するとしても、死滅するのはガクエンレンゴクのみ。『滅びの花』はそこに残るのです。そして、ヤツは再び地球に帰ることでしょう。そう、無傷の地球を養分とするために――」
なんてことだ! このままだと僕たち学校と一緒に宇宙で爆死しちゃうぞ! そして、その後すぐに地球も「滅びの花」で消されちゃうんだって! うわああん、最悪すぎる未来だよ!
「……絶望するのは早いですわ、勇者部のみなさん」
と、琴理さんが言った瞬間だった。僕らの足元に、それぞれの制服が現れた。
「ガクエンレンゴクは、その全ての力を最終プログラムに注いでいる状態です。もう中断はできません。わたくしやクソお兄様のオブジェクトもすでに削除済みですし、わたくしにできることは、みなさんにこれを差し上げることぐらいですわ……」
「僕たちに戦えってことですか?」
「はい。この塔が爆発する前に『滅びの花』本体を倒すのです。もはやそれ以外にわたくしたちが勝つ方法はありませんわ」
そこで、僕の目の前の床から、一本の剣が飛び出してきた。両刃の、かなり立派な剣だ。その刀身は、凛とした鋭い光を帯びている。
「あ、これ、もしかして、伝説の剣ですか? あの木刀がまた進化したんですよね?」
「そうですね。伝説の剣というより……伝説の剣(もうひとがんばり)といったところでしょうか」
「もうひとがんばり? なんでまたそんな……」
「吾朗さん達の伝説は、これから作られるということですわ」
琴理さんはにっこり笑った。
まあ、確かに、ここで「地球を救う」という伝説を作っておかないと、僕たち後がないよな……。
そう、迷ったり考えたりしてる暇はない。爆発まであと三時間もないんだ!
「わかりました!」
僕たちはうなずき、制服に着替えた。制服の胸には、もちろん、しっかりエンブレムがついていた。
「で、『滅びの花』の本体って、いったいどこにあるんですか?」
着替え終わったところで、僕たちは改めて琴理さんに尋ねた。
「それは、この塔の最上階になりますわ」
なんだと! 外観は一瞬しか見られなかったけど、この塔ってかなり高かったぞ! 三十階建ての高層ビルぐらいの高さ? そのてっぺんまで行けって、なにそれ?
「なお、念のため申し上げておきますと、みなさんのいるところはこの塔の最下層にあたります」
さ、最下層か……。
「最上階まではいくつか層になっています。さながら、植物の茎のような構造ですわ。中が空洞になっており、上に行くためのエレベーターはおろか、階段など、とうていございません」
うわ、エレベーターも階段もなしですって!
「したがって、みなさんが上に向かうということは、各階層の境目を破壊しながら上に飛び上がっていくという形になります。しかしそこで一つ注意しておきたいことがありまして、宇宙空間というのは無重力と決まっていますが、それはそれ、ガクエンレンゴクは地球人のみなさんが中で快適に過ごせるように、万が一宇宙空間に出た場合は、地球と同じ1Gの疑似重力場を発生させるようになっています。みなさんの足元に向けて。これは残念ながら制御システムを乗っ取られている今はどうしようもないことでして、したがって、無重力ジャーンプ☆で、一瞬で上まで行くようなことはできないのですよ」
「はあ……」
とりあえず、いろいろめんどくさいということはよくわかった!
「あ、重力のことなら、ロロ、なんとかできるよ?」
と、ロロ先輩が手を叩いた。
「ここを無重力にして、みんなで上に行くんだよね? かんたんだよ」
おお、そういえば、そんな能力だったっけ、この子!
「じゃあ、さっそくお願いします、ロロちゃん先輩!」
「うん! ロロにまかせて!」
ロロ先輩はにっこり笑うと、
ようだった……。
「……あれ?」
無重力タイムはちっともこなかった。ロロ先輩も不思議そうに首をかしげている。
「おそらく、一之宮ロロさんの
琴理さんは暗い顔で首を振った。
つまり、ロロ先輩の能力、地球を離れたここじゃ全く意味ないってことか? そんなあ、貴重な戦力が……。
「ごめんね、みんな。ロロ、ここじゃ、全然役に立てないみたい」
「イインダヨ! ロロたんは俺たちといてくれるだけで、イインダヨ!」
クマが光の速さでフォローを入れてきた。相変わらずぶれないロリクマだ……。
「でも、一之宮先輩の
花澄ちゃんは天井を見上げた。塔の内側は白で統一されており、天井も同じだった。窓の外から見える景色からして、宇宙船に乗っているような気持ちだ。まあ、実際、そんなようなものだけれど。
と、そのとき、にわかに、めりめりっと音が聞こえてきた。
なんだろう。耳を澄ませると、それは上から聞こえてくるようだ。そして、次第にそれは大きくなっていき――やがて、
ばりばりっ!
そんな音とともに、いきなり僕らの真上の天井が割れ、大きな黒い竜が現れた!
「うわあっ!」
なんだよこれ! 宇宙なのにドラゴンが天井破ってコンニチワて! しかもこんなバカデカイ……。ありえないだろ、いろいろと!
「みなさん、落ち着いてください! これはキャンサーですわ!」
「なーんだ、キャンサーですか。びっくりしたなあもう……って、思いっきり僕たちの敵じゃないですか!」
こんな大きくて強そうな敵って! アフリカゾウ十頭ぶんぐらいの重さと大きさがありそうだし、うろこも実に強そうに黒光りしてるし、目なんか、毒蛇みたいにおっかなくて、しかも赤く光ってるし、牙も爪もとても鋭そうだ。背中には大きな翼が見える。
「やあ、破邪煉獄学園、勇者部のみなさん」
と、そこではるか頭上から声が聞こえてきた。男とも女とも定かでない、機械で合成したような声だ。
「君たちのお察しの通り、そこにいるのはキャンサーだ。しかし、ここで君たちにうれしいお知らせがあるんだ。なんと、この塔には、その竜以外キャンサーはいない! それ一匹だけなんだよ。どうだい、うれしいだろう?」
いや、そんなこと言われてもな……。めっちゃ強そうな竜だし。ってか、しゃべってるの誰だよ?
「ああ、一応自己紹介しておこうか。我は『滅びの花』。宇宙に飛び出すついでに、体の一部のカタチを変えてみたんだ。それで、君たちとおしゃべりできるようになったんだよ」
ええええっ!
「そういうわけで、君たち、とっとと竜を倒してここまでのぼっておいで♪」
滅びの花さんの楽しそうに笑う声が聞こえた。
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