二十五章
「地球終了まであと三時間? マジでないわー」
受話器の向こうで健吾はいつも通りへらへら笑っている。
「ほんとなんだよ! 信じてくれよ!」
「はいはい。その話はまた明日聞くわ」
と、健吾はそこで一方的に電話を切ってしまった。話にならない。クソッ!
その後、僕は担任の先生に電話してクマの家の番号を聞き、改めて電話してみたが、健吾と同様だった。「そんなふざけた話があるか、俺はもう寝る!」ガチャン。勇者部に入るときとほとんど同じ断られ方だった。死ねよ! ミステリーに登場するまでもなく、三時間後にお前だけ死ね! ザコがッ!
と、僕が電話に向かって中指を立てたときだった。今度は、逆に僕の家に電話がかかって来た。ロロ先輩からだった。
「ゴローくん、どうしよう。地球がピンチなのに、お姉ちゃんが信じてくれないの」
なんと! ロロ先輩も切迫した事態に気付いていた!
「そうですよね! ガクエンレンゴクの洗脳がとかれたってことはつまり、そういうことなんですよね!」
「センノー? なにそれ?」
「え?」
「だって、かいちょーさんが、地球を爆発させるって言ってたでしょ? だからピンチなんでしょ?」
「はあ……」
な、なるほど。洗脳するしない以前に、素で信じちゃってるのか……。
いやでも、これは好都合だ! 味方がいるってことなんだからな!
「ロロちゃん先輩、話はわかりました。引き続き、ココ先輩の説得をお願いします」
そう頼むと、ロロ先輩の返事を待って電話を切った。
そして、家を飛び出した。向かうのはもちろん「ラーメンミネサキ」だ!
僕がお店の前に着いたとき、ちょうど花澄ちゃんが中から出てきたところだった。昼間と同じジャージ姿だ。僕はすぐにそばに駆け寄った。
「花澄ちゃん! やっぱり僕たち大変なんだよ!」
「大変って、あと少しで、学園が地球をふっ飛ばすって話? そんなの――」
「ほんとなんだ! 僕にはわかるんだ! 信じてくれ!」
花澄ちゃんの目を見つめて、力いっぱい叫んだ。健吾とかクマとか変態ロリ姉妹とか、このさいどうでもいい。花澄ちゃんにだけは信じてもらいたかった。
「……それで、あんたはあたしにどうしてほしいの?」
「え?」
「もう少しで、地球がなくなるんでしょ? だったら、遺書でも書けばいいのあたしたち?」
「それは――」
どうしたらいいんだろう? 何も考えてなかったぞ、僕!
「と、とりあえず、話せばわかる! もう一度学校に行って、会長たちと話をしようよ!」
「学校には何をやっても入れなかったわ。電話も通じなかったし、無理なんじゃないかしら」
「だからって、このまま世界終了までじっとしてるわけにはいかないだろ!」
「世界終了、ね……。なんだかすごく大きな話……」
ふいに、花澄ちゃんはうつむいて、重く息を吐いた。
「吾朗、あんたの言ってることがホントだとして、今のあたしたちに何ができるの? あたしたち、ただの高校生なんだよ? それなのに地球とか世界とか、そんな大きなものの問題を解決できるわけないじゃない」
「違う! それは違う!」
反射的に叫んだ。
「僕は聞いたんだ。あの学校、ガクエンレンゴクってのは、ヨーグルト的に人間から健康パワーをもらってる宇宙生命体なんだ! だから、僕たちがあの学校にいるってこと、それ自体に意味があるんだよ!」
「あたしたちが? 変な話ね。地球と比べるにしろ、あの学校と比べるにしろ、あたしたちの存在ってすごく小さいものなのに……」
「大事なのは大きさじゃない、固さなんだ!」
「か、固さ?」
「あ……」
しまった! なんか変なこと言っちゃったぞ。
「い、いや、今のは忘れてくれ――」
「そうね。ものの大きさなんて意味のないものかもしれないわね」
「え?」
「大事なのは大きさよりも固さ……。小さい拳でも大きい岩を砕くことができるわ。つまりそういうことなのよね!」
花澄ちゃんはなぜか、ものすごく納得したようだった。目を輝かせて、僕を見つめ返した。全ての迷いから解放されたような、いい笑顔をしている……。
よくわからないけど、話が通じたってことかな?
「じゃあ、すぐに学校に行こう!」
「ええ!」
花澄ちゃんはうなずき、にわかに学校のほうへ走り出した。僕の手を握って。
これは……。
そのあたたかくやわらかな感触に、胸が高鳴った。
世界が終わったら、もう二度と、こういうふうに手をつなぐこともできないんだろうな。
そう考えると、胸がぎゅっと痛くなった。なんとかしなきゃ。今は僕たちにできることをして、世界を、僕たちの時間を守るんだ!
学校にはすぐ着いた。だが、中に入るどころか、近づくことさえできなくなっていた。学校の周りに、人だかりができていたからだ。
そうか、おインターネットで噂になってたから、それで野次馬が……。
遠くの電柱の陰から様子をうががいながら、僕たちは困惑した。こんなにたくさん人がいるんじゃ、学校に忍び込むなんて無理だぞ。僕たち、今は
と、そのときだった。僕たちの背後に、にわかに、すごく高そうな黒塗りの車が停まった。
そしてそこから、ふりふりのドレスを着た金髪碧眼の女の子が二人出てきた……っていうか、一之宮姉妹だった。
「先輩、来てくれたんですね!」
「まあ。ロロがどうしてもというものだから」
ココ先輩は腰に手を当て、意味不明に偉そうなポーズをしている。その背後から「ゴローくん、来ちゃった」と、ロロ先輩が顔をのぞかせる。
そして、そこでさらに、
「ロロた~ん、俺も一緒だよお?」
「一之宮先輩、日給十万のバイトってどこですか?」
クマと健吾も車の中から出てきた。
うわあ、二人ともなんてわかりやすい……。まあ、何はともあれ、結果オーライかな?
「でも、みんなが集まってくれたのはいいけど、どうやってあの状態から学校に入れば……」
僕は門の前の野次馬たちを指さした。
「ああ、あんなところにゴミの山ができてるのね。確かに邪魔ね。すぐに片付けないと」
と、ココ先輩は独り言のように言うと、ドレスのポケットからスマフォを出して、どこかの誰かと話し始めた。
そして、その約十五分後……門の前の人だかりは急に、道の向こうに散っていってしまった。そう、一人の男が道の向こうから何かを伝えにきたとたんに。
「ココ先輩、何したんですか?」
「ふふ。この先で、現金輸送車の事故が起こったようね。それで、あのゴミたちはそっちに行ったのよ。道に散らばった、はした金を拾いに」
「マジですか……」
この短時間で、そんなダイナミックな人払いができるって、どんだけ金持ちなんだよ、あんた!
「とにかく、野次馬はいなくなったし、チャンスよ。行きましょう!」
花澄ちゃんは電柱の陰から飛び出した。僕たちもすぐにそれを追った。
しかし、花澄ちゃんの言葉通り、学校の門は何をやってもビクともしなかった。蹴っても、体当たりしても、頭突きしてもダメ。門を上って乗り越えようとすると、ビリビリと体に電気が流され、振り落とされた。
また、一之宮先輩たちの護衛の黒服の人たちが、拳銃とか手榴弾とか使ってみたが、やはり門は傷一つつかなかった。
これが、結界ってやつか……。
どうしよう。せっかくここまで来たのに。中に入れないんじゃ意味ないぞ。
「くそっ! 開けろよ! 中に入れろよ!」
門を揺さぶった。
「開けて! 中に入れて! 先っぽだけもいいからお願いします!」
しーん。反応はない。
「お願いしますお願いします! 僕たちはまだ終わるわけにはいかないんだ!」
と、門をたたいた瞬間だった。
「……わかりました」
そんな声がどこかから聞こえてきた。そして――門はひとりでに開いた。
「今の声……美星先輩?」
中の人の許可が出たってことだろうか。僕たちはゆっくりと門をくぐった。僕たち勇者部のメンバー全員が中に入ったところで、門は再び固く閉ざされ、黒服の人たちはみな、締め出された形になった。
やがて、僕たちの前に琴理さんが現れた。半透明だったけど。
「よくぞいらっしゃいました。勇者部のみなさん。わたくしは、あなたたちのことを信じてましたよ」
よく言うよ。追い出したのは自分たちなのに……。
でも、なんで半透明なんだろう。それに、学校のこの状況……。
そう、外からではまったくわからなかったが、学校はもう、僕たちの知ってる姿ではなくなっていた。校舎やいろんな設備はあとかたもなくなっており、敷地の中央には巨大な塔が建っていた。
「あれがガクエンレンゴクの最終形態ですわ。あのまま地下に進んで、この惑星の中心で爆発するのです」
と、琴理さんがバスガイドのように説明したときだった。
ごごごごご……。
地響きとともに、何か巨大なものが動く気配があった。
「こ、これは……!」
琴理さんはものすごく驚いたようだった。
「みなさん、すぐにあの塔の中に入ってください! 急いで!」
なんだろう。まさか、今から地下に進むのかな? とりあえず、僕たちは言われた通りに塔に走り、中に入った。
するとそのとたん、塔は動き出したようだった。
ただ、窓から見える景色からして、地下ではなく空に向けて、だった。そう、まるで塔が飛行機にでもなったかのようだった。
「美星先輩、これはいったいどういう?」
「『滅びの花』の仕業ですわ。おそらく、ヤツは、自分ごとガクエンレンゴクを地球から切り離し、宇宙空間で爆発させる気でいやがるんですわ!」
琴理さんは激怒しているようだ。
「う、宇宙で爆発だって……?」
聞いてないよ、そんなこと!
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