二十三章
「うう、まさかアタイがやられるなんてね……」
デビル桜井は地面に倒れたまま、息も絶え絶えに言った。その体はすっかり焼け焦げ、ボロボロだ。
「先生、すみません……」
さすがに桜井白衣おっぱい先生のことを思い出し、胸が痛くなる。もうあの人とは二度と会えない……。
「い、いいんだよ。あんたたちはアタイの屍を乗り越えて行きな……」
デビル桜井は穏やかに笑った。そして、そこでこと切れたようだった。
「先生……」
悲しみの風が僕たちの間を吹き抜けた。
ただ、
「ロロた~ん、俺の活躍見てくれたあ?」
「うん。クマちゃんのやられてる時の顔、すごくかわいいかったよ」
クマとロロ先輩は異次元の会話をしていた……。
クマめ。さっきのあれは、ロロ先輩の前だからやったことだったのかよ! 俺も勇者部の一員とか、調子のいいこと言いやがって。ただ、ロロ先輩にかわいいって言われたかったから、わざと自分を苦しめてただけじゃん! ふざけんな!
と、そのとき、花澄ちゃんとココ先輩がこっちに帰って来た。
「吾朗、ココ先輩の説得終わったわよ」
「せ……説得?」
いや、あれは間違いなく何かのプレイだった気がするんだが。
「ごめんなさいね。私、どうかしてたわ。敵にいいように利用されるなんて。峰崎さんのおかげで、正気に戻れてよかった」
ココ先輩はさわやかに笑った。まるで全ての煩悩から解放されたような表情だ。まあ、実際スッキリしたんだろうな、あのプレイで……。見ると、その制服はかなりボロボロになっている。どんだけ殴られたんだよ。
「……で、そろそろ部室にたどりつくはずですよね?」
花澄ちゃんの胸ポケットに向かって尋ねた。
「はい。感じますわ。すぐ近くに部室の気配を」
琴理人形は胸ポケットから頭を出して言う。
「気配……?」
部室ってそういうもんだっけ?
と、そのとき、ふいに地震のように地面が揺れ始めた。
ごごごごご……。
同時に、デビル桜井の死体が消え、その下から何か大きなものが浮上してくる――。
「おお、ついに部室の封印が解けたようだね」
と、少年会長。
「封印……?」
ぶ、部室ってそんなもんだっけ?
「おそらく、桜井先生という、プロバイオティクスの要の一つであるオブジェクトが機能停止したことによって、緊急用のシステムが発動したんですわ」
と、琴理人形。
やがて、僕たちの前に現れたのは――洋風の城だった。
「おお、これが、僕たちの探し求めた部室か。しばらく見ないうちに、変わり果てた姿に……って、変わりすぎだろ!」
さすがにノリツッコミでシャウトせずにはいられなかった。さっきから、部室という言葉の意味を無視しすぎだろ、この学校!
「とにかく、入りたまえ諸君」
当然のごとく僕のその突っ込みは華麗にスルーされた。少年会長に促されるまま、僕たちは中に入った。
中は外観とは違って、普通に部室だった。十畳ほどの広さの部屋の真ん中にゴージャスな玉座が置いてある以外は、長机やパイプいすなどがあるばかりで、きわめて学校らしいインテリアだ。ほっとした。ようやく常識が通じる世界に帰ってこれた気がした。
「会長、確か、僕たちはここで
「ああ、その玉座に向かって、各自攻撃してくれたまえ」
「これに?」
へえ。これがガクエンレンゴクの活力のツボってやつだったのかな?
「じゃあ、みんな適当に攻撃しよう!」
玉座は壊れてもすぐに直る不思議仕様だった。僕たちは順番に玉座に
「はああっ!」
伝説の剣(仮)を握りしめ、渾身の力で玉座に振り下ろす!
と、そこでにわかに、玉座が強い光で輝き始めた。うお、まぶしっ! 僕は思わず目を閉じた。
「……よくやってくれた、勇者部の諸君」
やがて聞き覚えのあるイケメンヴォイスが聞こえてきた。目を開けると、すでに光は消えており、僕たちの前に、イケメン会長とその妹の美少女、琴理さんが立っていた。今ので、元に戻ったようだ。
「みなさんのおかげで、このガクエンレンゴクは機能の一部を取り戻すことができましたわ」
琴理さんは窓の外を指さした。見ると、入る前までは中世ヨーロッパ風の街並みが広がる異世界だったのが、すっかり学校に戻っているようだった。この勇者部のあるところも、城じゃなくて普通に校舎に戻っている。ただ、三つある校舎の一つが、巨大な暗黒の毛玉のようになっていて、まがまがしいオーラを放っているようだけど……。
「会長、あれは?」
「……あの領域のテクスチャーをオフにしてみよう」
と、イケメンは毛玉に向けて、鉄砲の真似をするみたいに、人差し指を立て、振った。たちまち、暗黒巨大毛玉は透明になり、中身が明らかになった。そこにあったのは……巨大なもやしだった。そう、あの生徒会室の地下で見たヤツだ。
「あれ、まさか、『滅びの花』ですか?」
「そうだ。一晩であそこまで成長したというわけだね」
「そんな……」
成長早すぎるだろ! 謎もやし!
「あそこまで育ってしまうと、もはやこのガクエンレンゴクにはどうしようもないものだね」
イケメンは巨大謎もやしをじっと見つめている。
「ただ、打つ手が全くないわけではない」
「やっぱり、僕たちの
「いや、それはもういい」
「え?」
「……まず先に、君たちにはねぎらいと感謝を伝えておこう。勇者部の諸君、ここまでよくやってくれた。ありがとう」
「え? え?」
何この人? なんで突然こんな、まともなこと言ってるの?
「そして、最後に、謝っておこう。このガクエンレンゴクがこれからすることについて」
「これからすること?」
「ああ。ガクエンレンゴクは、これより最終プログラムを起動させる。それは『滅びの花』の苗床となるこの惑星、地球を破壊するというものだ」
「な――」
イケメンが何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
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