二十二章
「桜井先生! いや、デビル桜井! 貴様は包囲されている! 早く人質を解放しろ!」
ライダースーツおっぱい美女こと、デビル桜井に向けて、僕は声を張り上げた。まずは説得だ。ココ先輩がつかまってるし。
「やだね。これはもうアタイのペット。くやしかったら、実力で取り返してみなっ!」
「ペット……」
ココ先輩はその言葉にまたときめいているようだった。頬を赤く染めて、デビル桜井の豊満なおっぱいに顔をうずめた。いろんな意味で許せない光景だ! 早く離れろ、二人!
だが、いったいどうすればいい? ココ先輩がデビル桜井の犬になってる以上、うかつに攻撃はできないぞ。ヘタをすれば、あの反則技で、攻撃が全て跳ね返されてしまう……。
「吾朗、ココ先輩は、あたしにまかせて!」
と、花澄ちゃんがこっちに駆け寄ってきた。
そうだ、花澄ちゃんがいたんだっけ!
「じゃあ、さっそく説得を頼む――」
「いくわよ!」
どんっ! 瞬間、花澄ちゃんのとび蹴りが、ココ先輩の顔面に炸裂した!
「ちょ……」
また説得(物理)なのかよ! しかも行動はやいよ! 鬼すぎるよ君!
「あぁ……」
あまりの素早い攻撃に、ココ先輩は何もできなかったようだ。顔を血だらけにして地面に膝をつく――が、そこを、花澄ちゃんに襟をつかまれ、持ち上げられた。
「てめえ、犬の癖に、主人を裏切るとはいい度胸だなァ?」
ドゴッ! 今度は花澄ちゃんの拳が顔面にヒットした。
「す、すみません、峰崎様……」
ココ先輩は涙と鼻水と鼻血でぐちゃぐちゃの顔で花澄ちゃんを見つめる。
「峰崎様じゃねえだろ? ご主人様、だろ? この駄犬がっ!」
ばきっ!
「お……お許しください、ご主人様……ああっ!」
ばきばきどかどか。ぼっこぼこ。
「も、もっと! もっと私を調教してください! ご主人様ああっ!」
感じてる。犬扱いされて、超殴られてるのに、ココ先輩、サイコーに感じてる! うわあ。これまた、ひどい光景だ……。
「な、なにこの子たち……」
さすがにデビル桜井もドン引きしている。そりゃあそうだよ。
「あ、あの。僕たちは僕たちで、別にやりあいませんか?」
「そうね……」
僕とデビル桜井は、今の光景を見なかったことにして、場所を変えた。
「フ、フフ! まさかこんなところで、あんたと戦うことになるとはね! 覚悟しな!」
「ま、まったくだ! こんなところでかつての先生とやり合うことになるとは、僕も思わなかったぞ!」
花澄ちゃん達から離れること約二十メートル。僕たちは改めて、戦闘態勢に入った。なんかこう、それっぽい台詞を言い合って。
「ゴローくん、がんばってねー!」
ロロ先輩が僕に手を振ってくる。他のみんなも僕を見守っているようだ。なんだこの、タイマンせざるを得ない空気?
「他はともかく、健吾、お前は加勢しろよ!」
「えー、俺マジ、桜井先生には世話になったからー」
なにそれ! 隣でずっとのびてるクマといい、ホントに使えないヤツだな!
「もういい! 僕が一人でやってやるさ!」
伝説の剣(仮)を強く握り、デビル桜井の元へと走った。食らえ、必殺の
が――、
ばっさばっさ……。
瞬間、デビル桜井は空へと舞い上がってしまった。
「あっはっは、ここなら、あんたは何も手出しできないね?」
デビル桜井は高笑いしている。
「そ、それはお前だって同じだろう!」
「本当に、そう思うかい?」
にやり、と、デビル桜井は笑った。そして、ふいに羽を大きく広げて羽ばたき始めた――と、そのとたん、すごく強い風がこっちに吹いてきた!
「こ……これは、風を自在に操る能力――」
一瞬そう思った。しかしすぐにそれは正確ではないと僕は知ることになった。そう、それは風による攻撃ではなく、空気の刃による攻撃だった。油断しきっていた僕はたちまち、それらに手足を切り裂かれた!
「ぎゃあっ!」
痛い痛い! 痛いですぞ! 地面に転がり、のたうちまわった。制服がますますボロボロになっていく。
「ははは! アタイの真空刃のお味はどうだい? ふにゃちん坊や?」
うう。高いところから、おっぱい美女に性的に煽られた! これが戦闘中じゃなかったらどんなに……。くやしいい!
「ふ、ふふ……今のはちょっとビックリしちゃっただけさ……」
とりあえず、かっこいい風をまとって悠然と立ち上がった。
「つ、次はないぞ? 僕には無敵の防御技があるんだからな!」
「まさか、あんたの蒼い炎で壁を作るってやつかい?」
「う……」
図星だ!
「でも、残念だね。それは使えないよ。炎と風の関係からしてね!」
と、デビル桜井は再び真空刃を放ってきた。何を言ってるのか知らないけど、僕の炎の壁で防げない攻撃はない! 一部をのぞいて! 剣を前に掲げ、炎の壁さん出て下さいお願いしますと、強く念じた。
炎の壁はすぐに出てきた。
だが――
ぼふっ!
風に吹かれてあっというまに消えてしまった。
「お、おう……」
ザシュ! またしても、僕の体は真空刃で切り裂かれた! 痛い!
「炎は強い風で消えちまうんだよ。そんなことも知らないとはね」
そ、そうだよね……ハハハ。
「もしかして、吾朗。お前、相性最悪の敵とやりあってるのか?」
健吾の声が聞こえてきた。ちらりとそっちを見ると、ブルーシートの上に胡坐をかいている。おま……なんでそんなにスポーツ観戦スタイルなんだよ!
「そうだよ! 苦戦してるんだよ! お前も協力しろよ!」
「いや、俺もさっきから援護してるんだぜ」
「え?」
「当たんねーんだわ、これが」
と、健吾は胡坐をかいたまま、ふいに
「な? 俺、マジ使えない子だろ?」
頼りにならねー! せっかく遠距離攻撃できるのに風に負けてどうするんだよ、切り裂き燕さんよお!
「ゴローくん、ロロなら、先生を地面に落とすことできるよ?」
「いや、それはいいです……」
デビル桜井との位置関係からして、ほぼ確実に、僕にもダメージがあるからな。ヘタをすると、僕だけ超重力攻撃を食らう可能性もある。
「なに、ごちゃごちゃしゃべってるのさ! 今は休み時間じゃないよ!」
と、再びデビル桜井の真空刃が飛んできた!
「うわっ!」
今度はギリギリでかわすことができた! やればできるじゃん、僕の回避能力!
いやでも、僕の制服はもう限界だ……。次当たれば、本格的にヤバイ。
いったい、どうすればいい?
「ほらほら! またよけないとやられちまうよっ!」
再び真空刃が飛んできた。また、よける――が、そこでいきなり転んでしまった。うわっ! なんでこんなときに! もうおしまいだあ……。
しかしそのとき、
「お前は俺が守る!」
何か大きなものが僕の前に立ちふさがった。そして、真空刃を全部受け止めた!
「ぐ、ぐう!」
その大きなものは、パンツ一枚で血だらけになって地面に足を付いている……って、あれ? こいつ、クマじゃね?
「お前、起きてたのか……」
「お、俺も勇者部の一員だからな、戦うぜ!」
脂汗を額ににじませながら、クマは親指を立てた。
「ク、クマ、お前ってやつは……」
感動した……かったが、なんか唐突過ぎて無理だった。ってか、こいつ、最初勇者部入るの拒んでたし、それからやたらと気絶しまくってたし、ここに来て急にそんなこと言われても、逆に困るんだけど。いやまあ、助けてくれたのはすごくありがたいんだけどさ。
でも、こいつ、確か電気の能力持ってたような……。
「お前、あの先生に雷落とすとかできないのか?」
「俺の電撃は手から出る! 手からしか出ない! そういうことなんだぜ?」
「無理なのか。じゃあ、手からサンダービームとかは?」
「そういうニクイことができる男に俺はなりたい……」
それもできないのかよ! 健吾といい、肝心な時に役に立たないヤツだな!
あ、待てよ? 手から攻撃って、そういえば……。
「お友達ごっこは死体になってからやりな!」
と、再びこっちに真空刃が飛んできた!
「小暮! 防御は俺がする! だからお前は攻撃を……ぐはあっ!」
クマはまたしても僕の前に立ちふさがり、真空刃で血だらけになった。
「クマ……」
お前ってやつは……。さすがに心が動かされた。
「わかった。お前の犠牲は無駄にしない!」
強く鋭く叫ぶと、伝説の剣(仮)を――捨てた。
「はっはっは。武器を捨てるなんて、何を血迷ったんだいっ!」
デビル桜井はなおも真空刃で攻撃してくる。僕は即座にクマという肉壁の後ろに隠れた。そして、その肩越しに右手をのばした。
「はあああああっ!」
手に、手のひらに、
「食らえ!
瞬間、蒼い炎が渦となって僕の手からあふれた。それは、らせん状にうねりながら、まっすぐデビル桜井に走っていく! 強い蒼く煌めきながら――。
「きゃあああっ!」
その直撃を受け、デビル桜井はまっさかさまに下に落ちた。
「できた……」
手から、蒼い炎の龍を出す技。あの巨人と戦ったときに一度使った技……。また出すことができた……。
「や、やればできるじゃん、僕……」
体から力が抜けるのを感じ、その場に膝をついた。
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