十四章
その日、昼休みが終わった後、破邪煉獄学園の生徒たちはすべて自宅に帰された。僕たち、勇者部の面々をのぞいて。生徒たちに説明された臨時休校の理由は「地球が滅びの花で消滅の危機なので、精鋭を集めて特訓します。精鋭じゃない人は危険だし邪魔だからしばらく自宅待機で!」ということだった……。そ、そのまんますぎるだろ! しかし、よく訓練されたこの学園の生徒たちは、誰ひとりそれに疑問を持つことなく帰って行ったのだった。ガクエンレンゴクの洗脳パワーってスゲー。
昼休みが終わったぐらいで、電気クマは目を覚ました。すでに僕たちは部室に集まっていて、イケメンの残念二次元トークと、琴理さんの状況説明を交互に聞かされているところだったが、そんななかで目を覚ました電気クマは思いっきり混乱しているようだった。
「お、俺、なんでこんなところに……」
まあ、普通はそうなるよな。僕たちはすぐに彼に事情を説明してあげた。
が、
「勇者部だと? ふざけるな、誰がそんな部に入るか! 俺は帰る!」
なんか、ミステリーで真っ先に殺される人みたいなことを言って、全力で拒絶されてしまった。
だが、
「ねえ、クマちゃん、一緒に頑張ろうよー」
ロロ先輩がこう話しかけたとたん、
「ゆ、勇者部……悪くねえな」
赤面して顔をそらしながらつぶいやいた。なんだこいつ、気が変わるの早すぎだろ。
「では、部員もそろったことですし、みなさん、さっそく訓練してもらいますわ」
琴理さんが一同に言った。
その後、僕たちはスクワット五千回、マラソン百キロ、千本ノック、素振り、乱取り稽古など、ハード極まりない特訓をこなし……はしなかった。そういうメニューはイケメン会長が考えていたのだが、部員全員にものすごい勢いで却下されたのだ。そんなんできるかよって。
「何を言っている。最近は若者の人間離れが深刻なのだぞ! これぐらいできなくて、何が最近の若者だ!」
「若者の人間離れって……そりゃ、あんたがよく見てる二次元の世界の話だろうが!」
と、僕の的確なツッコミが入ったところで、会長の後ろに琴理さんが現れ、その頭をどついた。そして、会長の襟首をつかんで、窓の外にぽいっと投げ捨ててしまった。
「美星先輩、ゴミのポイ捨てはダメなんじゃないですか?」
「ゴミにも劣るクソお兄様ですから、問題ないですわ」
「ああ、そうですね」
僕たちはそのまま、窓の外に投げられた何かのことは忘れた。そして、琴理さんの指示にしたがって、あの生徒会室の下の緑色空間に行った。そう、敵の本体である謎もやしが生えている場所だ。
「今日は初日ですし、まずはみなさんの
なるほど、とりあえずテストか。うまいこと「滅びの花」を倒せれば儲けものだしな。僕たちは言われた通り、それぞれ、
しかし結局、どの攻撃も「滅びの花」に傷一つつけることはできなかった。
「では、次に、みなさんの
琴理さんはそう言うと、どこからともなくバールや銃やハンマーや万力や火炎放射機や、鉄板をもぬるぬる切り裂くウォータカッターやロケットランチャーやら取り出して、順番に試して行った。だが、いずれも効果なし。さらに、その後、どこからともなく戦車を何台も出してきて、「滅びの花」に向けて一斉に砲撃させた。
僕たちはココ先輩のバリアの中でそれを見守ったが、やはり効果はないようだった。すると、今度はにわかに、緑色空間の天井が大きく開いた。上を見るとそれは吹き抜けのようになって、空まで続いてるようだった。そして、ややあってその青い空からミサイルが落ちてきた!
ドドーンッ!
ものすごい衝撃がそこに加わったようだった。しかし、やはり、「滅びの花」は全く無傷だった。
「ごらんのとおりです。地球人が開発したあらゆる兵器はもちろん、今のみなさんの
ココ先輩のバリアが解除されたところで、琴理さんは厳しい表情で言った。確かに、今のは結構ショックな実験結果だったよなあ……。
「あ、あの、特訓すれば、あたしたちこれを倒せるようになるんですか?」
花澄ちゃんも、不安を隠せない様子だ。
「可能性はありますわ。みなさん、今日からしっかり頑張ってください」
「はい!」
僕たちは声を一つにして答えた。
琴理さんが最初に僕らに命じた特訓は、イメージトレーニングだった。それぞれ、自分の
「もしかして、昨日の炎の剣をまた出せってことですか? でも、あれは、美星先輩が何か手伝ってくれたからできたんじゃ?」
「いいえ。わたくしは、ただ、吾朗さんに棒を握らせただけですわ。イメージの手助けになると思いまして」
「ぼ、棒を握らせ……」
ちょっとドキドキする言葉だ。
「吾朗さんの
「はあ……」
ようは心を鍛えろってことかな。まあ、予想通りか。
僕たちはそのまま、緑色空間で脳内特訓に励んだ。ときどき、僕の周りが火の海になったが、それはココ先輩のバリアでなんとかなった。そのあと、ものすごく罵倒されたけど。
やがて、日も暮れ、特に何の成果もないまま今日の特訓はここまでということになった。僕たちは学食で夕飯をとり、そのまま学園が用意した部屋に泊まることになった。すでに僕たちの家には学校のほうから連絡してあるということだった。
だが、学食にやってきた桜井先生が言う部屋割りはこうだった。
「部屋は三つよ。一つは一之宮ロロさんココさん、もう一つは永原君と熊田君、最後の一つは峰崎さんと小暮君が使ってね」
なんだと! 花澄ちゃんと一緒の部屋だと!
「せ、先生! なんでその部屋割りなんですか!」
花澄ちゃんもさすがに驚いているようだ。
「消去法で部屋を割り振ったらそうなったのよ。一之宮さんたちは姉妹だから、同じ部屋がいいでしょ? 永原君と熊田君は、男の子同士だから同じ部屋がいいでしょ?」
「だったら、なんであたしだけ、男子と同じなんですか?」
「あら、小暮君なら大丈夫でしょ? いかにもふにゃふにゃだし、固さが足りないって感じだし、女の子を襲うようなタイプじゃないわよ?」
また、性的にバカにされてしまった。こんな、みんなが見ている前で……。
「かすみん、いいなー。ゴローくんと同じ部屋で」
ロロ先輩はスプーンをくわえて、もの欲しそうな目で僕と花澄ちゃんを見ている。
「ロロ、冗談でもそんなこと言うものじゃないわ。こんな下品な男と一緒にいたら、何をされるか……」
ココ先輩は隣のロロ先輩をぎゅっと抱きしめる。どう見ても、仲良し小学生少女二人って感じだ。こんなお子様の女の子に何かするわけないだろうに。
「まー、確かに、一之宮先輩たちと一緒の部屋なんて犯罪臭パネェな。それよりかは峰崎のほうがマシだな」
健吾がけらけら笑うと、
「あたしのほうがマシってどういう意味よ!」
その額に先割れスプーンの先端が突き刺さった。健吾は悲鳴を上げて、のけぞった、
「お、俺も、その部屋割でいいと思うぜ……」
と、クマは小声で言った。なぜか妙に熱い視線でロロ先輩のほうを見ている。
「ちょ、ちょっと待ってよ、みんな! だいたいおかしいでしょ、泊まれる部屋が三つしかないって! 休校になったんだから、どの部屋でも使えるはずじゃない!」
「それが、使えないのよねえ」
れろれろ。桜井先生は今日も棒付きキャンディーをなめながら花澄ちゃんに言う。
「どういう意味ですか?」
「ほら、君たちも見たでしょ。昼間、大きいクモが暴れてたの。この学園は今、いつどこであんなのが発生してもおかしくない状態にあるのよ。だから、君たちは、特別プロテクトが厳重な部屋に泊まってもらわなくちゃいけないわけ。寝ている間にあんなのに迫られても困るでしょ? 大きければいいってもんでもないし」
なるほど、僕たちが泊まるのは、特別安全な部屋ってわけなんだな。
「まあ、そういうわけだから。この部屋割でお願いね」
桜井先生はそう言うと、さっさと向こうに行ってしまった。
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