十三章
その後、僕たちは廊下で電気拳を持つクマを拾った。何か知らんが、またバナナの皮で転んで気絶していたのだ。こいつも一応、胸にエンブレムをつけてるし、そこそこ使えるだろう。ちょうどあと一人足りないし。気絶したそのデカイ体を花澄ちゃんに抱えてもらうと、僕たち五人はいったん、勇者部の部室に戻ることにした。会長が待ってるはずだ。
「あ、そういえば、一之宮先輩たちって髪の色とか目の色とか変わってますよね。ハーフとかですか?」
歩きながら、僕は「不敗姉妹」に尋ねた。
「ロロたちはね、ハーフってやつじゃないよ。ロロのママも、ホントのお父さんも、フランス人なんだよ。チャキチャキの」
「ただ、私たちの実の父親は、私たちが生まれてすぐに亡くなってしまったらしいの。それで、私たちの母は、日本人の男と結婚したのよ」
はあ。なるほどね。それでどう見ても白人の双子少女が、日本の学校に通ってるわけだ。
「あ、そうだ。あたしも聞いていい? 気になること」
と、花澄ちゃんが健吾に話しかけた。
「あんたの、
「そりゃ、お前。ツバメって六月ぐらいによく飛んでるじゃん」
「? それが?」
「だから、セプテンバーだろ!」
ビシッ! 健吾はドヤ顔で親指を立てている。
ああ、そうか。ツバメと言えば六月だし、六月と言えばセプテンバーだよな。僕は感心してしまった。そのネーミングセンスにしびれる憧れるぅ。
「ろ、六月でセプテンバーって……」
「これが、学力の格差社会ってことかしら」
なんか、花澄ちゃんとココ先輩がこそこそ話してるけど、二人はツバメといえば五月のほうがしっくりくるよ派なんだろうか。でも、五月って、英語でなんて言うんだっけ。マーチだっけかな。子供の日があるし、おめでたい感じがそれっぽいよな……。
「あ、
そうだ、僕二人のこと全然知らないんだっけ。せっかくだし聞いちゃえ。
「『不敗姉妹』って言ってるし、やっぱりめちゃくちゃ強いんですよね?」
「そりゃあね。あなたのようなポイント最低の自爆野郎とは、比べ物にならないわよ」
ほほほ、と、ココ先輩は高笑いした。
と、そのとき、
「きゃあああああっ!」
女生徒の悲鳴が窓の外から聞こえてきた。学園の中庭のほうだ。なんだろう、僕たちはいっせいに窓際に集まった。
すると中庭には――バカデカイ蜘蛛に襲われている天野先輩の姿があった!
「が、害虫? 大掃除大会でもないのに、なんで……」
健吾がつぶやく。他のみんなも、驚きを隠せないようだ。確かに、これはただごとじゃない感じだ。
それに、よく見ると、あの蜘蛛、目が赤くて、すごく凶悪なオーラを放っているようだ。まるで、昨日の一つ目の巨人のような。
「やっぱり、あれ、
「たぶん……」
僕と花澄ちゃんは顔を見合わせた。
「とにかく、吾朗、早く天野先輩を助けようぜ!」
健吾は叫ぶ。僕も「ああ!」と即答し、窓を開けた。天野先輩は今や蜘蛛の糸に絡みつかれて絶対ピンチって感じだ。糸の締め付けに苦しみ、顔を紅潮させか細く悲鳴を上げている。すでにダメージもしこたま受けているようで、その制服はもはやぼろぼろ、蜘蛛の糸によってかろうじて体に貼り付いているような状態だ。糸の下からはブラジャーとパンツが見える。遠くからなので細かいデザインはわからないが、今日はパステルグリーンのようだ。美しい。早くそばに行って助けなきゃという気持ちがわき上がってくる!
だが、僕が窓を開けた瞬間、
「ここは私たちに任せなさい!」
「まっかせなさーい!」
一之宮姉妹がそこから飛び出して行った。
「ちょ、ここ二階ですよ!?」
近くの木に飛び移る形で下に降りるつもりだった僕は、まっすぐ下に向かって飛びおりた姉妹の行動に度肝を抜いた。いくら制服でリカバリー可能だからって、高いところから飛び降りたらめちゃくちゃ痛いんですぞ!(経験者は語る)
だが、心配は何もいらないようだった。二人が地面のすぐ近くまで降りた瞬間、その体がふわっと浮いたのだ。そう、まるで、一瞬のうちに体重がなくなったみたいに。
これは
そのまま、ノーダメージで中庭に降りた二人は、すぐに天野先輩の元に駆け寄った。当然、蜘蛛はそんな二人を見逃さない。すぐにその脚を、糸を、一之宮姉妹に向けて放って来る。
だが、それらは二人をとらえることはできなかった。彼女たちの体に触れようとした瞬間、ドーム型の光の壁のようなものが空間に浮かんで、それらをはじき返したのだ。まるで二人の周りに張られたバリアだ。それに守られながら、二人はあっというまに天野先輩を救出した。
「あれが
健吾が言う。なるほど、防御に特化した能力らしい。
「じゃあ、ロロ先輩の
「まあ、見てなって」
と、健吾が中庭を指さした瞬間だった。そこの空間が大きく歪んだように見えた。そう、まるで陽炎のように。そして同時に、重量感のある奇妙な振動が体に伝わって来た。
何が起こったんだろう?
見ると、一之宮姉妹と天野先輩の周りにはさっきと同じように
そう、まるで見えない大きな鉄球が落ちてきたみたいな光景だ。
「あれが、一之宮ロロの
「重力を操作?」
なにそれ? めっちゃかっこいい。めっちゃ強そう。
ってか、実際、すごく強いんだよな……。さっきまで元気いっぱいに暴れていた蜘蛛が、一瞬で虫の息だし。(虫だけに)さっき飛び降りたときも、重力操作で安全に着地したんだろうし。僕の炎よりも全然使い勝手がよさそうだ。さすが、ポイントマックス姉妹。
「ただ、お前ほどじゃないにしろ、制御が難しいものらしい。あんな感じで近くの敵に攻撃するときは、姉が
なるほど、それで二人は「不敗姉妹」ユニットで、いつも一緒なんだな。一緒にいれば、妹の圧倒的な攻撃力と、姉の圧倒的な防御力が、最大限に生かせそうだし。
やがて、ロロ先輩の重力攻撃に耐えられなくなったのだろう。蜘蛛は「ぷちっ」という音を出して、ぺったんこにつぶれてしまった。そしてすぐに消えてしまった。
「ゴローくん、ロロたちの活躍見てくれた?」
ロロ先輩はぴょんぴょん跳びはねながら、僕に手を振った。
「二人ともすごいですね!」
僕も手を振り返した。
と、そこで、僕たちのすぐ背後に、琴理さんが現れた。
「勇者部のみなさん、お疲れ様です。あのキャンサーは、みなさんが倒してくれると信じていましたわ」
「はあ……」
今頃やってきて、なにこのしらじらしい台詞?
「まあ、僕たちは何もしてないんですけどね、倒したのは一之宮先輩たち――」
「そうです、美星様! 私たちがやったんですよ!」
うわっ! いつの間にかココ先輩とロロ先輩がこっちに戻ってきてる! 重力操作でジャンプしてきたんだろうか。
「まあ、それはありがとうございます。ココ犬さん。ロロさん」
「はい! これからも美星様のためにがんばります!」
ココ先輩は、至福の表情で体をくねらせている。ご主人に褒められて喜んでいる飼い犬そのものだ。
「しかし、みなさん、ある害虫は一匹見つけると三十匹はいるといいますが、
「ああ、それでこいつはまた転んだのか……」
花澄ちゃんの肩に担がれている電気クマをちらっと見た。きっと、あのバナナの皮は、さっきの蜘蛛と同じように、「滅びの花」の浸食とやらで出現したものなんだろう。「滅びの花」……なんておそろしい子!
「というわけでみなさん、生徒たちへの被害が心配されるため、この破邪煉獄学園は明日から休校になりますわ」
「マ、マジで!」
うひょー! 休校だ、休みだ!
「ただし、勇者部のみなさんは、ここにとどまってもらいます」
なんだと! そんなふざけた話があるか! だいたい、休校なのに休めないって……台風で休校なのに連絡網回ってこなかった、あの小学校五年のトラウマの日が思い出されるじゃないか!
「あの、ここにとどまってもらうって……もしかして、あたしたちは家に帰っちゃダメなんですか?」
と、花澄ちゃんが尋ねると、
「はい。これから勇者部のみなさんは、このガクエンレンゴクで強化合宿に入ってもらいますわ」
琴理さんは笑顔で答えた。
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