六章

「峰崎さん! 僕と勝負してくれ!」

「お断りよ」

「!」


 破邪煉獄学園、昼休みの廊下。僕のドキドキの申し込みは光の速さで却下された。まわりを行きかう生徒たちが、僕たちを物珍しそうに見ては去っていく。


「な、なんでだよ! 僕たち、同じ美星杯の参加者だろう! 一緒に戦うべきじゃないか!」

「あたしにだって、相手を選ぶ権利はあるわ」


 花澄ちゃんは昨日のかわいい赤面セルフパンチラ姿はどこへやら、すごくつれない表情だ。


 なんだよ、それ! 僕は君を脱がしたくて、この美星杯やってるんだぞ、ふざけんな!


「そ、そうか。わかったぞお。君は怖いんだ、この僕が」


 ここは全力で挑発っ!


「そーだよな。僕の『蒼き灼熱』ブループロミネンス、超強いもんな! 君なんか、絶対勝てるわけないっていう?」

「それはどうかしらね」


 花澄ちゃんは涼しい顔をしている。うわっ、僕の挑発全然きいてない!


「そう思うなら、試してみればいいじゃないか」

「自爆野郎の小暮君と? 笑わせないでよ」

「じ、自爆野郎?」

「そうでしょ? 力を全然うまく使えなくて、誰彼構わず攻撃して、負けこそしないものの、点数はいつだって超マイナス。誰も得しない戦い方。みんな呼んでるわよ、自爆野郎って」


 花澄ちゃんは意地悪な笑みを浮かべた。くそおっ! 確かにその通りだから言い返せない! くやしいっ!


「で、でも、そのみっともない自爆野郎から、君は逃げるんだろう? それって、すごくみじめだよね。僕が自爆野郎なら、君はそれ以下だよね?」

「逃げるというか、あたしには小暮君と戦う理由がないのよね」

「え――」


 僕と戦いたくないってこと? 僕を傷つけたくないってこと? 


「それって、君、僕のことす――」

「すごく点数違うじゃない、あたしと小暮君。だから、自分からエンブレムくれないなら、放置でいいかなって」

「ほ、放置?」

「美星杯って、最終的に生き残った人の中で一番ポイントが高い人が優勝でしょ。だから、ある程度ポイント稼いだら、あとは、自分より上位の人のみをターゲットにするのが一番賢いやり方よね。それはわかる、小暮君?」


 と、花澄ちゃんは胸ポケットから生徒手帳を出して、僕に見せた。そこに載っている点数は「121」! うわあ、僕よりずっと数字が大きい……。


「あんたはどうせ、すごいマイナス稼いでんでしょ? 参加する意味あるのってレベルで?」

「うう……」


 その通りです。返す言葉もありません……。


「だったら、あたしはあんたを倒す必要はないでしょ。むしろ、ほうっておいて、他の参加者を倒してもらったほうが有利よね。その、無差別の自爆戦法で」

「う――」


 なんという限りなく正解に近い正論! その圧倒的な正しさの前では、ぐうの音も出ない……。


 いや、ここで引き下がったら、花澄ちゃんがまた一歩、あのイケメンに近づいてしまう! それは断固として阻止せねば! 正論とか知るか!


「そ、そんなの僕にはカンケーないね! 僕は君を倒す! そしてポイントを手に入れる!」


 そうだ! よく考えたら勝負に相手の同意なんかいらないんだ!


「さあ、おとなしく僕の炎の餌食になって――」

「ほんとにいいの? それで?」

「え?」

「ここでやり合うにしても、あまりにも『障害物』が多い気がするけど?」


 花澄ちゃんは廊下を行きかう生徒たちを指さした。みんな、胸にはもうエンブレムはつけていない。つまり、攻撃が当たると、マイナスをもらっちゃう人たちだ。


「あんたの技、蒼雪炎舞スノウ・フレアなんて、響きはかっこいいけど、ただやみくもに周りに炎をまき散らすだけのものでしょ? いいのかしらね、こんなところで使って」

「う……」

「それにあたしのリピディア『脱兎』ラピッド・ラビットを忘れてもらっちゃ困るわ。自慢じゃないけど、この能力であたしはこの学園のだれよりも早く動けるし、力だって相当なものになってるのよ。あんたが炎を出した瞬間、この壁をぶち破って外に避難するぐらい簡単なの」


 花澄ちゃんはこんこんと、外に面した廊下の壁を叩いた。


「え、じゃあ、僕は――」

「あんたはあたしを倒せない。あたしもあんたを倒さない。平行線ってこと」

「そんなあ……」


 勝負ができないなら、僕の炎で花澄ちゃんの制服を焼くこともできないじゃないか! あんまりだっ!


「ま、相手してほしかったら、あたしよりポイント稼ぐことね」


 花澄ちゃんはそのまま僕の前から去って行った……。





「……というわけなんです。会長、お願いします!」


 放課後の生徒会室。そこにはイケメンに土下座している僕の姿があった。


「つまり、君は私のゴールドエンブレムでポイントをバッキバキにアップさせたいんだね?」

「そうです! そうしないと、僕はあの子と勝負することができない!」

「めんどくさいやつだねえ、君は」


 イケメンはパイプいすに座って、長机の上のノートパソコンに向かって何やらマウスを操作している。僕のほうを見ようともしない。けだるそうに息を重く吐いただけだった。


「べ、別にそのエンブレムで本当に点数アップする必要はないんです。一時的にこっちに貸してもらって、僕の見た目上の数字が増えればいいんです。そうすれば、花澄ちゃ、峰崎さんは納得するし。お願いします、協力してください!」

「まあ、それって、不正をお願いしてるってことになりますわね」


 と、イケメン会長の向かいに座っていた琴理さんが口を開いた。


「いや、不正なんてするつもりはないんです。上がった点数はあとで返しますし」

「しかし、君の願いはイレギュラーすぎる。主催者の権限をもってしても、無理があるというものだ。このギャルゲのシナリオのように!」


 キラーン。イケメンは突如、目を光らせ声を張り上げた。


「この、今私がプレイしているギャルゲはな、あるヒロインを攻略しようと、まっとうに選択肢を選んでいくと、なぜかその弟とフラグが立つんだよ。ヤンデレでホモの弟と……」

「なんすか、それ……」


 すごく、どうでもいいです……。


「つまり、そのヒロインを攻略するためには、同時にその弟とのフラグを全力で回避しなくてはならない。それはまるで地雷処理のようだ。黎明期の、アナクロなギャルゲをも彷彿とさせる」

「いや、そんなことより、僕の点数を――」

「しかし、そこで私は考えた。このフラグってある意味美味しいんじゃない?と。つまり、二次元の弟は二次元の弟であって、三次元の汚物ではないのだ。フラグが立つのはベリーウェルカム! むしろ二次元ショタは大好物です、ありがとうございました。そういうことなんだよね、これが」


 むふふ、と、イケメンは不気味に笑う。イケメン補正があっても、きもすぎる人だ。


「そう、つまり真の紳士たるもの、器は大きく、ラインは低めに設定するべきなのだよ。二次元という俗世を離れた世界では、三次元の惨事な常識にとらわれる必要はない。私はそのように悟り、ついに女性声優が声を当ててる男キャラまでは萌えとして認識できるようになった。真の紳士とは、常にこのように内なる世界を拡張し続ける者のことなのだよ。それに引き換え、君はどうだね!」

「え? 今の話の流れで僕に振るんですか?」

「そうだ。君はこのヤンデレホモの弟の尻の穴にも劣る、小さい男だ。私のエンブレムが欲しいのなら、なぜ私と堂々と勝負しないのだね!」

「はっ!」


 言われてみれば……って、なんかどさくさにまぎれて、すごく失礼な比喩表現をかまされた気がするけど。


「不正などする必要はない。君はその力を持って私を倒し、これをもぎ取ればよいではないか。よいではないか!」


 はっはっは、と、イケメンは高笑いした。


「わたくしからもお願いしますわ。こちらの、クソ忌々しい二次オタお兄様のエンブレムをぜひはぎ取ってくださいまし」


 琴理ちゃんはにっこり笑った。


「ははは、さすが三次元雌豚汚物の妹だな。これを奪われると消滅する私なのに、容赦ないにもほどがある! こいつぅ!」

「いやですわ、クソお兄様ったら。その超うざキャラは一度フォーマットされたほうがいいというものですわよ」

「それはこっちの台詞だ。我がクソビッチ妹よ」

「ほほほ」

「ははは」


 美星兄妹は、笑い合っている。いや、笑いながら、ものすごく殺伐としたオーラを放って、喧嘩をしている!


 なんだこの兄妹、ムチャクチャ仲が悪いのか? っていうか、何気に、あのエンブレムを取られると会長が消えるって言ってたような?


「あの、そのゴールドエンブレムを取ったら、会長は――」

「存在が抹消されますわ。とても喜ばしいことに」


 琴理さんはまたにっこりと笑った。


 マジかよ。よくわかんないけど、取っちゃいけないもんなのかよ!


「吾朗さんが何か気にすることはありませんわ。どうぞ遠慮なくこの兄と呼ぶのもおぞましきキモすぎオブジェクトからエンブレムをはぎ取って下さいまし。代わりはいくらでも用意できますから」

「いや、代わりって……」


 そもそもさっきから話がよくわからないんだけど。


「ほほう、いかにも要領を得ない、といった顔をしているね、君は」


 と、会長が口を開いた。


「普通の生徒なら、このへんのイミフ会話はさらっと流して、私たちの言葉に従うはずだが、やはり君は、従来の『常識』をそのまま保存しているようだ。頭の中にはさぞや多くの疑問符が浮かんでいることだろう」

「は、はい、いろいろよくわからないことが多過ぎで……」

「まあ、深く考える必要はないよ。ようするに我々は、非実在系のキャラクターというわけなのだからね」

「ひ、非実在系?」

「吾朗さんと同じ生身の人間ではないってことですわ。わたくしたちは、この学校の備品と同じ、つまりガクエンレンゴクの一部なんですのよ」

「え……」


 この人たち人間じゃないの? この学校の一部? 備品と同じ? なにそれ? なんなのこの人たち? 見た目は全然普通の人間だぞ?


「そんなに驚くことではないですわよ。わたくしたちのスペックは地球人のそれと同程度に設定してありますから、この学園を出られないことをのぞけば、まったく普通の生徒と変わりはありませんわ」

「え、いや、だって――」


 意味わかんない! 吾朗、全力で意味わかんないよ、こんな話!


「さて、話はこれぐらいにしようか」


 と、非実在系イケメン?の会長がパイプ椅子から立ち上がり、こっちに近づいてきた。


「今聞いた通りだ。私はこのエンブレムを取られると存在が抹消されるが、遠慮することはない。そもそも、架空のキャラクターなのだからね」


 イケメンは僕の前で仁王立ちしている。その胸のエンブレムは黄金にきらめいている。


「いや、そんなこと言われても……ってか、なんでそのエンブレムを奪われると存在が抹消されるんですか、会長は」

「そういう設定のオブジェクトだからだ」

「せ、せってい? おぶじぇくと?」


 まるで答えになってない……。


「これはいわば、私の存在理由だ。これがあるから、私はあの三次元ゴミ妹の残念な兄でいられるのだ!」

「はあ……」


 まあ、よくわかんないけど、僕は何も気にすることはないのかな。仮にエンブレムを取られると抹消されるとしても、それってつまり人間じゃない違う何かってことだからな。人間じゃない、ロボって的な何かなら、存在がなくなろうとさすがにどうでもいいか。なんか、すごく残念な、うざい性格をしているみたいし……。


「じゃあ、さっそく外で勝負しましょう!」

「外で? ここで構わんよ」

「え? ここ、戦闘オッケーの場所なんですか?」


 確か、教室やトイレ、保健室や職員室なんかは「非戦闘区域」で、戦闘したら減点だったと思うけど?


「基本的に教室のような部屋の中は戦闘禁止区域だが、この生徒会室は例外だ。戦闘は自由だよ。ただし立会人はつけさせてもらう――」


 と、会長はイケメンっぽい仕草で指パッチンした。


 すると、突如、会長のすぐ右に保健の先生が現れた。そう、あのセクシーおっぱいの、白衣を着た、棒付きキャンディーを口にくわえたお姉さんだ。


「あらあら、どうしたの、美星君。こんなところに私を転送して」

「すみません、桜井先生。しばらくここにいてくれますか」


 会長は保健の先生(桜井って名前だって! 全力で記憶した!)に極上のイケメンスマイルした。


 これはまた何を急に……っていうか、そもそもなんで保健のおっぱい桜井先生がいきなりここに出てくるんだ? 


「ああ、ついでに言っておきますと、彼女、保健の桜井先生もわたくしたちと同じ、この学校の一部なのですよ」


 ええええっ! あのおっぱい先生がニセモノの人間? つまり、偽物のおっぱい?


「この学園の生徒はわたくしたちをのぞいて、すべて一般の、ごく普通の地球人の少年少女たちですが、教職員は一部、ガクエンレンゴクの備品と同じ扱いなっているのですよ。彼女もその一人なのです」

「そそ、最近の学校ってハイテクなのよねー」


 桜井先生はにっこり笑って言う。なんとまあ、最近の学校はホントによくわからん……。


「ちなみに、先日吾朗さんが中庭で焼いた男性教諭は、普通の地球人です」

「え? でも、あの人、叩くとすぐに燃やされたあとがなおって……」

「彼らが身につけている衣服は、全てこの学園の生徒たちの制服と同等の性質のものです。いや、回復上限の設定がないので、その上位互換ともいうべきものでしょうか」


 へえ。よくわからないけど、殴っても焼いても大丈夫なんだ、この学校の先生は。


「でも、会長。なんでその先生のうちの、生身の人間じゃないほうの一人を、急にここに転送(?)したんですか?」

「彼女は教職員だ。リピディアを行使すれば、多大なマイナスを受ける対象である」


 と、会長は急に桜井先生をお姫様だっこした。


「私はこの状態で君と戦うことにしよう」

「え? え?」

「まあ、美星くんったら、大胆ねえ」


 桜井先生は会長の懐の中でキャッキャと笑っている。なにこれ? この両腕がふさがった体勢で僕とどうやって戦うって――はっ! そうだ、これはもしや!


「盾! 人間の盾ってやつですね!」

「正確には人間っぽいものの盾だ」


 ああ、確かに、人間じゃないんだよな、この人たち……。


「私は君たちのようにリピディアを行使することはできない。君に対する攻撃など不可能なのだよ。ゆえに、こうして教職員属性の彼女で君の攻撃を防ぐことにしたのだ」

「な、なるほど……」


 桜井先生を使って防御に専念するっていうのか。これはもしや、僕にはものすごくやっかいな状況なんじゃ? だって、僕の炎が桜井先生に当たったらマイナス五十点なのに、二人はこんなに密着して、あのぷるんぷるんのおっぱいなんか、イケメンの胸板に当たり放題で……ちくしょう! 戦う前からものすごい敗北感を感じる!


 でも、会長の無駄に整った顔とか無駄に長い脚とか、桜井先生の体がカバーしてない部位を狙えば勝機はあるよな! 一応!


「わかりましたよ! じゃあ、遠慮なく行きます!」


 瞬間、手に力を込め、『蒼き灼熱』ブループロミネンスを体の中から解き放った。そして、ボールを投げるように、右手に集まったそれを、会長の顔めがけてはなった! 燃え尽きろ、イケメン!


 ゴゥ!


 とたんに蒼い炎が生徒会室いっぱいに飛び散った。うわ、ちゃんと狙いを定めたつもりなのに、また炎が広がっちゃったぞ。


「まったく、君はホントにノーコン野郎だね」


 と、背後からイケメンヴォイスが聞こえてきた。はっとして振り返ると、そこには全く無傷のイケメンが桜井先生を胸に抱えてモデル立ちしていた。


「私がとっさに君の背後に座標を修正しなければ、桜井先生が巻き添えになっていたではないか」

「小暮くーん、気を付けてよね」


 ぺろぺろ。桜井先生がキャンディーをなめながら頬を膨らませて僕を睨む。あ、こういう表情もするんだあ、この先生。かわいいなあ、へへ。


 って、ぼーっとしてる場合じゃない! 会長が謎ワープしなかったら、マイナス五十点もらってたとこだったじゃないか!


「ふ、ふふ……さすがに一筋縄ではいかないようですね、会長」


 とりあえず、場を取り繕うために、かっこいい台詞をかっこよく前髪をなびかせながらつぶやいた。失敗したのは僕じゃない的な空気をまとって。


「吾朗さんは自分のリピディアをまるで制御できていないんですわね。みっともないったらないですわね、ふふ」


 少し離れたところで琴理さんのくすくす笑う声が聞こえる……が、聞かなかったことにする。スルースキルはばっちり搭載している僕なのだ。


「今の君の能力では、私だけを攻撃することは不可能だろうね」


 イケメンが挑発してきた。美女をお姫様だっこしているその姿は、どこかの王子様のようだ。だんだん本気で憎くなってきた。


「何をっ! まだ勝負はついていない!」


 さらに追い打ちで炎をあびせる! 会長の顔めがけて! そうだ、イケメンは敵だ! 焼き尽くせ!


 コゴオォッ!


 再び蒼い炎が生徒会室いっぱいに広がった……。


 そしてまた、


「不可能だと言っただろう?」


 背後から会長の余裕の声が聞こえてきた。はわわ……またやっちゃったあっ!


「君はリピディアそのものは学園一とも言っていい強さだが、まるで使い方がなってないな。ただむやみに拡散させるだけでは、私はおろか、動きの速いウサギなど、とうてい狩ることはできないよ」

「そうよー。小暮君、オトコノコは大きさよりも固さなのよ?」


 うわー、なんかダメだしされた! 性的に!


 くそ、こんなに言われっぱなしはさすがにかっこ悪いぞ。何か、何か言い返さなきゃ!


「ふ、ふふ……一度ならず二度までも、我が攻撃をかわすとはな……」


 腰に手を当て、胸を張り、悪の組織のナンバー2みたいにクールに言った。


「しかし! よけるだけでは我は倒せんぞ! 虫けらどもめっ!」

「じゃあ、次は君の攻撃をよけないでいることにしよう」

「え?」

「さあ、遠慮なく攻撃してきたまえ」


 会長は堂々として構えている。その懐の桜井先生は相変わらずのんきにキャンディーをなめている。


 よくわかんないけど、これってチャンスってことか? よし、次こそは会長だけに炎を当ててやる! 焼けろ、イケメン顔!


 ゴフォーッ!


 またしても広範囲に広がる蒼い炎……。いや、今回はちょっぴり範囲が狭まったような気がする。


 でも、そんな気持ち程度の集中では、会長の顔だけ焼くというピンポイント攻撃なんてできるはずなく、蒼い光が散った後そこに残ったのは、煤だらけになったイケメンと桜井先生の姿だった……。


「もう、すっかり焦げ焦げになっちゃったじゃない、小暮くーん!」


 煤だらけで真っ黒の桜井先生はぷりぷり怒っている。うわー、やっちゃったぞ、これは。


「まさか、三回もチャンスを与えられながら失敗するとはね。君は無能の極みだよ」


 焦げ焦げイケメンは呆れたように首を振り、息を吐いた。そして、おもむろに桜井先生を懐から降ろし、その頭を叩いた。たちまち、焼ける前の綺麗な桜井先生が現れた。


 あ、これってもしや?


「そうか、桜井先生は先生だから、無限回復?できるけど、会長はそうじゃないんですね! つまり、今の僕の攻撃で、ライフはもうゼロ――」

「何を勘違いしているのかね、君は」


 はっ、と鼻で笑うと、会長はほこりを払うように自分の胸を叩いた。たちまち、焼ける前の綺麗なイケメンが現れた……あれ? 


「まさか、ノーダメージ?」

「いや、さすがにそれはないよ。ポイントが通常の五十倍であるように、耐久力も通常の五十倍というだけだ」

「ご、五十倍?」

「そう。今ので私は一回死んだが、あと四十九回死ねるということだ」

「え……」


 あと、四十九回もこれやらなくちゃいけないの? めんどくさすぎるだろ!


「吾朗さん、何ぼっとしてるんですの。大事なことがありますわよ?」


 と、琴理さんが僕の肩を叩いた。そして、瞬間、僕の胸ポケットの中からブッブーと嫌な音が鳴った。うわ、この音は……。あわててそこに収めらていた生徒手帳を出し確かめると、ばっちり僕のポイントが減っていた。それも「-369」だったのが「-519」に! なんでいきなり150点も減ってるんだ、これは!


「あ、言い忘れてたけど、小暮君が炎をだした一回目と二回目、どっちも私に当たってたから。ちょっとかすってたから」


 桜井先生が言う――って、マジで? 三回全部減点になってたの? そんなあ……。


「このポイントでは、例え私を倒しても、峰崎君のポイントに追いつくことは不可能だね」

「ぶっちぎりの最下位ですわね。記録更新おめでとうございます」


 美星兄妹がそろってかっこわるい僕のポイントを煽る。うう、確かに、こんな点数じゃ、もうどうやっても、花澄ちゃんに追いつくことはできない……。


「まあ、そんなに落ち込まないでください。挽回のチャンスはまだありますわ」


 と言って、琴理さんは僕に一枚のプリントを差し出した。


 なんだろう? 見てみるとそこには、


『激闘! 大掃除バトル大会、開催! ポロリもあるよ~』


 と書いてあった……。


「あの、これはいったい?」

「大掃除でバトルする大会ですわ。ポロリもありますのよ」

「いや、そんな読んでそのままのことを言われても……」

「この大会では頑張ってお掃除すると、ポイントがジャンジャンもらえるんですのよ」

「マジで?」


 なんで大掃除でバトルでポイントなのか、全然さっぱりわからないけれど、今の僕にはすごくありがたいイベントっぽいぞ! ポロリもあるらしいし!


「大掃除バトル大会は今週の土曜日開催ですわ。ぜひ参加なさってくださいね。このガクエンレンゴクのために」

「はい!」

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