5、共同生活の幕開け

俺は姉さんの思いを受け継いだ。

姉さんと武さんの親族達は叶ちゃんと希ちゃんを各それぞれで引き離して引き取って育てる話をしていたが。


引き離す。


それが許せなかった叶ちゃんと希ちゃんと共に俺のアパートまで逃走して来た。

そして俺は部屋に案内する。

俺の部屋を、ホエー、的な感じで見る2人。


「兄貴の部屋.....ちょっと狭いね」


「.....まあ.....一人暮らしのアパートだからな。考えればそうなるだろ」


「でも.....十分な生活出来るね。これだったら」


その様に会話している叶ちゃんと希ちゃん。

俺は.....その嬉しそうな顔に眉を顰める。

そして唇を少しだけ噛んだ。

それから.....呟く。


「.....すまないな。お前ら」


え?何が?と見てくる叶ちゃん。

同じ様に首を傾げる希ちゃん。

俺はほんの少しだけ.....複雑だった。


これで本気で良かったのか?という感じなのだ。

何もかも投げ出して.....逃げた。

まるでクソガキの行動だ。


学校の用具も生活用品もその全てを。

あの姉さんの家に投げ出したのだ。

そして逃げた。


愚の極みじゃ無いか?

19歳の俺に.....中学生をしかも2人育てるなんて.....。

今更になって不安になる.....俺も大概だな、と思っていると手を重ねてきた。

右手を希ちゃん。

左手を叶ちゃんが、だ。


「.....お兄ちゃん。大丈夫」


「兄貴。大丈夫だよ。なんとかなる。私たちも手伝う」


「.....お前ら.....」


そうしていると電話が掛かってきた。

俺のスマホに、だ。

ビクッとしながら.....俺は画面を見る。

そこには、奈々子おばさん、と書かれていた。

俺は青ざめながらも.....出る。


『やってくれましたね。.....風月さん』


かなり重い、石を頭に打つけられる様な声だった。

俺は汗をかく。

そして唇を噛みながら.....心配の目の叶ちゃんと希ちゃんを一瞥して言う。


「.....俺は俺自身の行動に間違ってはいないと思います。二人を引き離すぐらいだったら俺が.....」


だがそう話していると。

盛大に溜息が聞こえそして再び叔母さんが重い言葉を発した。

俺はビクッとしながら言葉を聞く。


『失礼ながら貴方のやった事は.....愚行に値します。貴方はこの先の事を考えているのですか。養育費など全て貴方が払うつもりですか。.....この様な事になった以上、私達は貴方は助けません。.....叶と希の養育費は検討中ですが』


「.....はい.....」


『.....大学の学費はこれから全て貴方が賄いなさい。.....それが私達からの話です』


「はい.....」


もう、はい、としか言えない。

思いながらいると。

叔母さんはまた溜息を吐いた。

それから.....言ってくる。


『悪い事は言いません。今から帰って来なさい。今なら許します』


「だったら考えを改めて下さい。叶と希望の幸せを考えて下さい。二人一緒に.....」


『.....貴方は本当に無茶苦茶ですね。無理に決まっているでしょう。この世界で子供を育てるのがいかに大変か.....分かりますか?」


「.....」


この日本で子供1人を育てるのは少なくとも学費、養育費と軽く3000万円近くは必要とされています。

2人合わせて6000万円。

私達は全額は出しませんので。

だから世の中は甘く有りませんしそして貴方は大学生。

それを分かっているのですか?貴方は、と言ってくる叔母さん。


俺は.....この先の事が一瞬頭に過ぎり、手が震える。

だがその手を.....叶ちゃんと希ちゃんが握ってくれた。

頷く、二人。

俺はそんな握ってくれた手を握り返して俺はスマホに話し掛けた。


「.....分かっています。俺は.....バイトもしてそして.....お金を貯めます。それから叶ちゃんと希ちゃんを育てます」


「.....兄貴.....」


「お兄ちゃん.....」


2人は俺を見ながら.....その様に呟く。

そうして伝えていると盛大に溜息がまた聞こえてきた。

本格的にコイツは馬鹿な奴としか言いようが無いと聞こえてくる様な感じだ。

それから.....俺に言葉を発してくる叔母さん。


『もう良いです。貴方とこれ以上に話しても話が全く進みません。.....ですがこれだけは言っておきます』


「.....?」


『叶さんと希さん。彼女達が万が一にでも何か病気などで倒れる事が有りましたら私達は無理矢理にでも押し掛けて貴方から2人を引き離します。そして連れて帰るので覚悟をして下さい』


「.....はい」


そうして、失礼します、と電話は切れた。

俺は.....息を盛大に吐きながら。

叶ちゃんと希ちゃんを見た。

2人は、有難う、と言っている。


「.....これからどんな事が有ったとしても.....俺がお前らを守るから」


「.....じゃあ私達は兄貴(お兄ちゃん)を支える」


「.....ああ。無理の無い程度にな」


そして。

その日から遂に始まった。

俺と叶ちゃんと.....希ちゃんの共同生活が、だ。


そんな叶ちゃんと希ちゃんと手を合わせて。

ファイト!オー!と俺は言った。

それから俺たちはクスクスと笑い合う。

何が有っても.....きっとこの3人なら乗り越えられる筈だ。

思いながら.....俺は意を決した。

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