3、終わる世界

正直言って。

俺は.....武さんと姉さんの家族とは仲良くなれないと思っていた。

こんな俺だ。

逃走した様な人間が受け入れられる訳が無いと思っていた。


だけど姉さんも武さんも。

また叶ちゃんも希ちゃんも。

みんな俺を.....優しく受け入れてくれて.....家族は太陽の様な存在だった。

夜、俺は明日出発する姉さんと武さんを見ながら笑みを浮かべる。

夕食後、ソファに腰掛けていると横に腰掛けていた叶ちゃんが寄って来た。


「それはそうと兄貴。私達、結構育ったでしょ?」


「.....そうだな。俺としては.....大きくなったと思う」


「.....2年近く会って無いからね。.....何で会ってくれなかったの?」


「.....俺も忙しくてな」


そうなんだ。

大学に通っているって聞いたけど.....それ?

と八重歯を見せながら笑みを浮かべる、叶ちゃん。

俺は.....苦笑しながら.....眼鏡を上げつつ、そうだな、と返事をした。


「お兄ちゃんって勉強熱心なんだね」


「.....俺は勉強熱心って言うか.....まあガリ勉だな確かに」


「.....じゃあ勉強熱心って事じゃん。あはは」


「.....煩いな.....」


でも兄貴って頑張り屋さんなんだね。

と俺にスリスリしてくる。

俺は、お。おい.....、と言いながら慌てる。

その成長期の胸が.....結構ヤバイんで.....。


「ハッハッハ。風月くんモテモテだな」


「.....武さん?怖いんですけど.....」


「何がだい?僕は平然としているよ」


憎悪の黒い炎が背後に見えますんで。

勘弁して下さい。

思いながら頭を下げていると叶ちゃんが、あはは、と笑った。

そして希ちゃんもクスクス笑う。

見てないで助けて下さい。


「モテモテだね!風月」


「.....姉さん。からかっている場合じゃ無いよ」


「あはは。.....ああそうそう。アタシ、明日の準備して来るから。その子達を宜しくー」


「.....へいへい」


姉さんは平常運行だ。

武さんも見送りながら.....俺を柔和に見てくる。

正直、良いお嫁さんだよ、と言いながら、だ。

俺は?を浮かべながら見る。


「.....柚木は本当に良いお嫁さんだと思う。彼女ほど良い人は居ない。何が言いたいかって言えば.....ずっと頑張って来たって事を伝えたいんだ」


「.....そうなんですか」


「.....ああ。君の事をずっと心配していたよ」


「.....」


姉さん.....。

思いながら武さんを見る。

武さんは笑みを浮かべながら.....外を見ていた。

そして俺に向き.....3日間宜しくお願いするね、と話してくる。


「.....はい。任せて下さい」


以前より俺はやる気が出ている気がする。

それは多分.....姉さんの家族に触れたからだろう。

思いながら俺は立っていると。

バシバシと思いっきり叩かれた。

俺は驚愕しながら向くと.....ニコッとしている叶ちゃんが立っている。


「兄貴!ゲームしない?」


「あ.....成る程な。負けないぜ」


「アタシだって負ける気は無いね。あはは」


そして俺達は明日の為に色々とやっていた。

それから.....翌日、一夜明けて。

その日はあいにくの曇りだった。

雨が降りそうな、だ。



「姉さん。気を付けて」


「じゃあ頼むぞ。兵士よ。ハハハ」


「パパも気を付けてね」


「ああ。直ぐ帰って来るからな」


そんな会話をしながら.....見送る。

あいにくの雨だが.....そのうち晴れるだろう。

思いながら.....鞄を持った姉さんと武さんを見送った。

姉さんは満面の笑みで俺を見てくる。


「美少女が2人居るからって襲っちゃ駄目だぞ?君」


「良い加減にしてくれ。姉さん」


「あはは。じゃあね」


何を言ってんだよ全く。

俺がそんな真似をするか。

思いながら溜息を吐く武さんと一緒に。

車でそのまま出て行った。

それを手を降りながら見送る。


「じゃあ何する?」


「.....そうだな。家から出ずに何かやるか。面倒だし」


「ゲームとか」


「.....おう」


そして俺は、昨日は負けたが負けないぞ、と叶ちゃんに言いながら。

奥の方に行った。

それから.....ゲームとか駆け回るとかで遊び俺達は.....暇を潰していた。

そして丁度2時間ぐらい経った後だろうか。

ゲームをしている最中に電話が掛かってきた。


「.....あれ?電話ですね」


「パパかな?」


「.....分からんけど俺が出る。ちょっと待ってな」


はーい、と待つ2人。

俺はその姿を見つつ笑みを浮かべて電話に出る。

そして、もしもし、と言った。

それから耳に子機を押し当てる。


「もしもし」


『.....もしもし。突然すいません。此方、十松警察署の者ですが』


「.....え?.....はい」


『.....親戚の方ですか?五十嵐柚木さん、五十嵐武さんについて.....お話が有ります。警察署まで来て下さい』


その言葉に。

心臓が.....誰かの手に撫でられた感触を覚えた。

ただ.....鳥肌が立ち。

そして.....冷や汗が噴き出た。


本気で嫌な予感がしたから、だ。

電話を切って.....俺は顎に手を添える。

この電話.....警察.....?


「.....」


「.....お兄ちゃん?どうしたの?」


「兄貴?どうしたのかな?」


ニコニコしながら二人が見てくる。

俺は.....青ざめるのを忘れた様に笑顔を見せて。

そして直ぐに上着を取った。

それから駆け出して行く。


「.....ちょっと今から俺、席外すからな。御免な。直ぐ帰って来る」


「え?何処に行くの?大雨だよ?」


「.....コンビニ!んじゃ行って来る」


「えー!私も行きたいのに!」


そんな姉妹は置いて俺は飛び出した。

そして十松警察署まで.....全速力で向かう。

普段なら走って行ける範囲。


だけど今日は大雨で。

その為に走る馬鹿は居ない感じだ。

しかしそんな事も気にならずに.....雨に濡れながら駆けた。

何だこの死神に殴られた気分は一体.....?



「すいません!五十嵐柚木の親族です!」


そして警察署に駆け込み。

俺は慌てている署員に直ぐに案内された。

その場所に.....だ。

看板に.....その.....遺体安置所と.....書かれていた。

俺は歩みが鈍化する。


「ちょ、ちょっと待って下さい。こっち遺体安置所.....」


「はい。此方に五十嵐柚木さん、武さんがいらっしゃいます。他の親族の方もいらっしゃる様ですが.....」


歩みが.....更に鈍化する。

1歩2歩を歩むのですら限界なぐらいに。

そして心臓がバクバク鳴る。

鼓動が張り裂けそうな程になる。


嘘だ。

いやいや流石に嘘だろ姉さん。

勘弁してくれ.....いや。

ジョークだと言ってくれ。

俺は遺体安置所に入る。


そして見開いた。

目の前には.....白い布を被った.....二つの遺体。

俺は.....膝を折って.....崩れ落ちた。

そして俺の周りも全てが無に帰す感じが.....して。

涙が浮かんできた。


「.....ね、姉さん.....?」


「五十嵐柚木さん、五十嵐武さんは単独交通事故に遭われ亡くなりました」


「.....」


署員の言葉が耳にはい.....らない気分だった。

目の前では親族ってか俺も会った事の有るおばさんたちが泣いている。

俺の世界が.....虚無に.....なっていく。

心が壊れていく。

世界が黒く染まる。


「.....」


少しずつ力無い足で歩み。

そして.....俺は手前の白い布を取った。

まるで眠っている様な.....眠り姫の様な.....姉さんがそこには居た。

揺すれば起きそうな.....。

俺はいつ間にか激しく揺すっていた。


「.....姉さん。冗談だろ。.....オイ。おい。.....叶ちゃんと希ちゃんはどうなるんだよッ!!!!!!!!!!起きろよオイ!!!!!」


「ちょっと!貴方!止めて下さい!」


署員に二人掛かりで止められる。

姉さんの体は.....傷が多く猛烈に冷たかった。

俺は.....愕然として.....その場で丸まって。

まるでハリネズミが丸まる様に、だ。

そして床の汚さも関係無しに号泣した。


「いや.....マジかよ。嘘だろオイ.....姉さぁ.....姉さん!!!!!!!!!!」


姉さんは寝ている様に答えない。

折角.....実家にやって来た.....その様がこれか。

死神なのか俺は.....?


家族の幸せすら壊して?

やっぱり戻って来なければ良かったんだ俺は.....。

何なんだよ本当に.....!!!!!

思っていると声を掛けられた。


「.....風月くん」


「.....奈々子おばさん.....」


「.....その、叶さん、希さんは.....」


「家です.....何も知らない.....筈です.....」


じゃあ直ぐに呼んで.....それに葬式の手配とかをしないと.....。

とおばさんは席を外す。

俺はその間.....全く無気力で。

と言うか立ち上がる気力すらも失われた。


一瞬にして全てが閉ざされた気分だった。

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