生きる


 カウンターの奥には2つの扉があった。片方は白い扉、もう片方は黒い扉だ。扉の前に立ち、今までには見たことのない顔でマスターは私に問いた。

「生き返る事が出来るなら、生き返りたいですか?」

「えぇ、今ならもう一度頑張れそうな気がします。」

「そうですか。」


 私の答えを聞いたマスターは、またいつもの朗らかな顔に戻っていた。


「では、代永さん、あなたはこれから、この白い扉をの向こうへ行ってください。そうすれば、元の世界に戻ることが出来ますよ。」


 マスターは今、確かに元の世界に戻ると言った。しかし、私は既に死んでいるはずだ。そんな私の疑問に関せずマスターは話を続ける。


 「実は、この世界は、この世と地獄との境にありますが、ここに来られる方は、まだこの世では死んでいないのですよ。この場所は生か死を選ぶことの出来る場所です。自死を選んだことを後悔し、いきる希望を持った方には、生きる権利が与えられるんですよ。あなたは、生を選んだ。だから、元の世界に戻れますよ。」


 私は納得をし、自分が犯した過ちへの反省と、生きることの出来る喜びが同時に込み上げてきた。


「ただ、気をつけて欲しいことがあります。それは、もう二度と自死を選ばないことです。次もここにくることになれば、今度は例外なく地獄行きになってしまいますよ。」


 マスターのこの一言で、さっきの女性がなぜ驚かなかったのかを理解した。女性は2回目の人だ。


「そろそろ時間です。自分で扉を開き、自分の足で扉の向こうへ歩いてください。最後に、貴方の人生が希望に満ちたものになりますように。」

「ありがとうございました。」


私はマスターに一礼をし、ドアノブに手を掛け、ゆっくりと引いた。扉の向こうには真っ暗な世界が広がっていた。

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