決闘と求愛と選択、そして失恋

「助けなきゃなんない男ってのは、あいつ?なんか戦ってるけど」

 レイが天馬に乗ったラーンスロットを指して言った。

「いや。彼は私の助けなどいらんだろう」

「じゃああの、下にいる人?」

 ハルは地上からこちらに向かって両手を降っているヘイゼルを一瞥して、首を振った。

「いいや。ここにはいない。彼を助けるためには、まずエヴァンズ兄妹をこの船から降ろさねば」

「え?なんで?」

 トラッシュの質問には答えず、ハルはレイとトラッシュに操縦席を立つよう促した。

「とにかく、きみらも降りて、あの決闘を止めてきてくれたまえ」


「ちょっと!いいかげんにしなさいな!」

 思いがけない横槍に、ジル博士とラーンスロットは驚いて動きを止めた。声の主――塔の上で仁王立ちになっているのは、飛行空母から降り立ったシャーロットだった。

「……シャーロット?」

 グロリアが、信じられない、というように呟いた。

「お前はカラス使いの娘か!なんでここにいるのか知らんが、口出しをしないでくれ!」

 ラーンスロットが怒鳴り返したが、シャーロットはひるまない。

「いいえ、口を出させてもらうわ。あなたがたねえ、いい大人なんだから、決闘なんて古臭い方法じゃなく話し合いで解決なさいな!文明的に!」

「……もっともだ」

 先に武器を下ろしたのはジル博士だ。

「グウィネヴィア妃も、どっちつかずはやめて、そろそろ決めて差し上げなさいな。おもてになるのは結構ですけど、八方美人も度が過ぎると、はた迷惑ですわ」

 シャーロットの啖呵に、城壁の上にいたグウィネヴィアもまた、熱が引いたようだった。レイとトラッシュが顔を見合わせる。

「……どの口が言ってるんだ?」

 同じく塔の上で一部始終を聞いていたトラッシュがレイに耳打ちしたので、レイも肩をすくめた。

「さあ……自覚はないんじゃないの?」

「八方美人だなんて、そんなつもりは……」

 もごもごと言いよどんだグウィネヴィアの前に、黒いドレスを翻してジル博士が降り立った。

「あっ!ずるいぞ!」

 遅れを取ったラーンスロットは天馬の向きを変えようと手綱を引いたが、それでも二人にはかなり距離があった。地上で見ていたグロリアも「ああもう、見てらんない!」と城の階段を駆け上がる。当然、敏腕記者もそれに続いた。

「グウィネヴィア!そんな男より、私のほうが強い!私のほうがお前を愛している!私はお前を守るぞ!お前を滅ぼそうとする、すべての敵から!」

 猛然と迫りくるラーンスロットに構わず、ジル博士はグウィネヴィアの前にひざまずいた。

「グウィネヴィア、私が悪かった。お前が私を慕ってくれたあの時、私もまたお前を愛していたのだ。だが、私は臆病だった。お前の愛から、目を背けようとした。だが、ようやく気付いた。私は……お前を失っては、生きていけない」

「グウィネヴィアっ!」

 ラーンスロットの天馬が城壁に降り立った。だが、グウィネヴィアはもはやそちらを見てはいなかった。

「私には、お前が必要なんだ、グウィネヴィア」

 ジル博士はグウィネヴィアの手を取り、祈るように言った。

「ああもう、興が削がれたわよ」

 グウィネヴィアは大きく息をついた。

「ごめんなさい、ラーンスロット。わたし、まだあなたに守ってもらうほど、弱くはないみたい」

 グウィネヴィアは背中越しにそう言って、ジル博士の手を取って立たせた。

「怖かったの……あのとき、死ぬことよりも……ジル、あなたにもう会えなくなることが、一番怖かったの」

「ああ、グウィネヴィア。もう一人にしたりしない」

 かたく抱き合う二人を前にして、ラーンスロットは力なく剣を下ろした。その手に、そっとグロリアが触れた。

「……ランスロ様」

「グロリアーナ。どうやら私は、ふられてしまったようだ」

「いつかきっと戻ってこられますわ。ランスロ様のほうが、ずっとずっと、素晴らしいお方ですもの……」

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