竜とブロンドの姫
ネオ・ホンコンの上空を塞ぐように停留した四隻の飛行空母の合間を、ロッドとリリーが猛スピードですり抜けていく。
間もなく二羽は、朝焼けに染まる海の上に出た。そのまましばらく洋上を飛行する。
「しかし、すげえな。こんなばかでかい鳥は見たことねえ」
飛び立つ直前、すぐ近くの瓦礫の中から這い出してきたスゥシェンも、ロッドの背に乗っていた。
「それよりなんで俺があんたとペアなんだよ」
スゥシェンのすぐ前で、レイは不満げにため息をついた。
「文句言うんじゃねえ。重さの関係だろ?なんなら俺があっちの嬢ちゃんと一緒でも良かったんだぜ?」
「――は?」
「おい、睨むなよ!冗談だって!だから、ナイフに手ぇかけんな!」
「――見えたわ、飛行船よ!」
ハルと共にリリーの背に乗ったシャーロットが、遠くの空を差した。そこには、きらきらと太陽を乱反射する海を背景に、合金の竜が浮かんでいた。
四人は竜の尾に降り立った。
「で、これからどうするの?ハル。博士と一緒にお兄さまたちを追うの?」
「いいや。我々はあの飛行船で、ヘイゼルを取り戻しに行くのだよ」
「ヘイゼル!……ああ、ごめんなさい、ちょっと忘れてたわ……」
シャーロットが額に手を当てて首を振った。
「その気持ちはわからなくもないが、できるだけ歪みなく皆を元のロンドンへ帰すのが私の仕事だからね」
「……今更?」
「ちょっと待てよ、ヘイゼル、って確か」
レイが何事か思い出して口を挟んだ。ハルが頷き返す。
「そう。次の目的地は、宇宙ステーション『プルガトリウム』だ」
「ちょっと待て。宇宙へ行く?てめえら正気か?」
「正確には、宇宙の一歩手前だがな。宇宙ステーションは地球の大気圏内ギリギリを飛んでいるから」
ハルがスゥシェンに説明する。
「んなこたぁどうでもいいんだよ。ぶんどった飛行空母は過去へ行っちまった。現実問題、どうやってその宇宙一歩手前まで行くんだ?」
「もちろん、この
「そうか――!博士は宇宙に研究所を持っている……ということは、この船は宇宙船にもなるってことか!」
レイは以前見た、最新鋭の技術が詰めこまれた飛行船内部を、記憶に蘇らせた。
「冗談だろ……?まさか、このおんぼろ飛行船で宇宙ステーションまで行こうってのか?」
スゥシェンは呆れたように飛行船を見回した。飛行船アナンタは大した損傷もなく、大量のバイオアンドロイド・キメラを従えて太平洋上を東進していた。
「おんぼろとはいささか失敬だな」
竜の尾を渡って船内に入った四人を、ジル博士が出迎えた。
「君がハルキ・モーガンか。話は聞いている」
「ご挨拶が遅れまして」
ジル博士とハルが握手を交わす。そもそもジル博士をネオ・ホンコンに呼び寄せたのは、ハルだった。
「時間旅行の次は宇宙旅行か。まったく君たちは、老人をこき使うことに長けているな」
ハルから話を聞いたジル博士は、口ではそうぼやきながらもどこか楽しげだ。
「よかろう。ここまで来たらとことん付き合おうじゃないか。おんぼろで申し訳ないが」
博士がトントンと杖で床を鳴らすと、テクスチャが変化して最新機器が詰め込まれた船内が現れた。ちょうどその時、コックピットから通信が入った。
『ジル博士、本船は政府軍に捕捉された模様です。空母アレスがこちらへ向かっています』
「おやおや、のんびり旅の計画を立てるひまもないな」
ジル博士はたいして慌てた様子もなく、肩をすくめてみせた。
「生憎、我々は政府軍に追われるのは慣れているのだよ。全速前進、五時間後に宇宙ステーション『プルガトリウム』にドッキングする」
『了解しました』
飛行船はその竜の両翼をたたみ、首を上方へもたげた。
そして橙色の炎を激しく吹き出して、一気に雲を突き抜け上昇していった。
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