バトルスペースシップ

 飛行空母から吐き出された戦闘機が、ネオ・ホンコンの摩天楼を次々と破壊して瓦礫に変えていく。

「戦闘機が出たから、艦内の兵隊が少しでも減っていることを願うしかないが」

 奪ったシャトルで空母に潜入した四人は、上空からその様子を眺めていた。リンタロウは目視で戦闘機の数を数える。

「レイたちは無事かしら……」

「知らん。計画通りに地下に潜っていると信じるしかないな」

「ねえ、わたしたちが大人しく捕まっていたら、爆撃を止められたんじゃないの?奴らの狙いはあなたなんでしょう?」

「君は――彼らを救うために、私に死ねと言っているのか」

「……」

 シャーロットは沈黙した。だが正直、一人の命で数万の命を救えるなら、と考えることの何がおかしいのか。

「でも、それじゃあみすみすここの人たちを見殺しに……」

「では君は、自分の友人さえ助かれば、ほかの人々が死んでもいいと?」

「そんなこと――」

 言ってない、と言いかけて言葉を飲み込み、シャーロットはリンタロウを睨みつけた。

「私一人死んだところで、この世界の終末は免れない。遅かれ早かれ、ネオ・ホンコンは滅びる」

「……そんなこと、わからないじゃない。未来にどうなるかなんて……」

「私にはわかる」

「シャーロット」

 見かねたジョシュアが口を挟んだ。

「大丈夫、みんなきっと無事だよ。信じよう」

 飛行空母の内部は、まるでひとつの町のようだった。

 ジョシュアは、かつて大西洋航路を行く大型の蒸気船を見学したことがあったが、内部は非常に狭いものだった。だがこの飛行空母は、十分に高い天井を持ち、広い通路の両側には整然と船室が並んでいる。途中通り過ぎた広場のような場所には、カフェや売店のようなものまであった。

「できるだけ敵に遭わずに操舵室ブリッジへ行きたいが」

 リンタロウが言いかけた矢先。

「おい、お前たち」

 呼び止められて振り向くと、そこには銃を提げた二人組の兵士がいた。

「非戦闘員がどうしてここに?所属は?」

 リンタロウが、ちっ、と小さく舌打ちした。

「おい、奴らを黙らせろ」

 兵士たちからは見えないように、グウィネヴィアに銃を突きつけて囁く。

 通路を数歩、こちらに近寄ったところで、片方の兵士がグウィネヴィアに気づいた。

「これは――グウィネヴィア補佐官。いつの間に艦にお戻りで?」

「お疲れさま。一斉攻撃が始まっちゃったから、戻ってきたのよ。操舵室ブリッジへ行くわ」

「そちらは?」

「ネオ・ホンコンの友人よ」

 兵士たちは顔を見合わせた。

「余計な詮索は無用よ。持ち場にお戻りなさいな」

「しかし、念の為――」

「待て。様子がおかしい」

 兵士の片方が、グウィネヴィアの背中に突きつけられた銃に気付いた。

「貴様ら――!」

 兵士たちとリンタロウの視線が一瞬、交錯したすきに、グウィネヴィアはひらりと飛び上がった。

「捕らえて!侵入者よ!」

 廊下の天井にへばりついたグウィネヴィアが叫ぶ。

「やれやれ。できれば穏やかに済ませたかったが、そうもいかんか」

 兵士たちが銃を構えるよりも一瞬早く、リンタロウの銃が光を放った。

「走れ」

 ジョシュアは弾かれたように、シャーロットの手を掴んで駆け出した。

「侵入者だ!男女三名!Bー7ブロックを艦前方へ向かっている!」

 艦内に警報が響き渡る。

 リンタロウは、武装した兵士たちを躊躇なく撃ち抜いていった。

「ひどいわ……こんな……っ!」

「安心しろ。殺しちゃいない。ちょっと火傷したくらい」

 言っているそばから、背後に現れた兵士に反応して撃つ。

「ぎゃっ!」

「それにしても君、腕が良すぎやしないか」

 ジョシュアは呆れて言った。

「君は私が時間旅行者だということを忘れがちだな」

「バカを言うな。あんな無茶なことをされたら忘れようがない」

 先程の屋上での攻防で、リンタロウはジョシュアたちを巻き込み、秒刻みで時間旅行を繰り返すという芸当をやってのけたのだった。

「思い出すと、胃が……」

 ジョシュアは青い顔で口元を押さえた。

「こんなところで吐くんじゃない――前だ!」

 ジョシュアがはっと顔を上げると、正面に兵士の一団が現れた。

 彼らの銃の吐き出した熱線がジョシュアたちに届く直前、三人は通路から消えた。

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