第24話 空き缶はゴミ箱に捨てるもの。

「え、だって、ここ空いてまし……空いてたよ?」

 私は言った。

「はぁ?荷物置いて場所取ってたし」

 柄シャツが言う。

「荷……物?」

 あっ!あのビール……。

「あれ、ゴミじゃなかったの!?」

 つい、口に出して言ってしまう。

「ゴミだとぉ?」

 半裸男が大声を出した。

 大きな声ですごまれて、ソラタはすっかり萎縮している。

 ああもう、せっかく楽しい縁日だったのに。でも子連れ(むしろ大人連れ?)で揉めたくないし、ベンチは諦めて引き下がるか……。

「てゆーかぁ、ウチらのモン、勝手に捨てたわけでしょ?ドロボーじゃね?」

 ケバい女が、更に煽ってくる。

 はあ?何その言いがかり。さすがの私もカチンとくるわ。

「空だったから捨てたのよ!中身が入ってなきゃゴミでしょ!空き缶!」

「ちょっとこのガキ、生意気じゃね?」

「おいガキ、大人なめてっと痛い目みちゃうかもよぉ〜?」

「やだぁ、泣かしちゃうんじゃん?」

 女たちがゲラゲラと笑う。

「うっせーな、シツケだよシツケ!!」

「こっわwww」

 こいつら、マジで腐ってんな……。

 私は、自分を林のように取り囲んだチンピラたちを睨みつけた。

 その時、スッと目の前に誰かが立ち塞がった。

 私をかばうように、ソラタが私の前に立っていたのだ。

「やめてよ。あっち行け!」

 ソラタは精いっぱい声をはりあげる。

「はあ?なに言ってんの?このオバサン」

「つかさっさとどけや!俺らの席だしココ」

 タンクトップ男がソラタの肩をつかむ。

「やだ!」

「やだじゃねぇよ!」

 男が右の拳を振りかぶった。

 やばい、ソラタが殴られる!

「ちょっ……!」

 私はとっさにソラタの服をつかんで引っ張った。

 ばきっ。

 拳は頬にクリーンヒット。

 しかし、殴られたのはソラタでも私でもなかった。

「いってぇ……」

 頬を抑えている若者に、なんとなく見覚えがある。でも、こちらに背を向けていて、背丈もだいぶ違うので、顔がよく見えない。

「なんだてめぇ……」

「通りすがりの、顔見知りです」

「てめぇにゃカンケーね―だろ。部外者はすっこんでな」

「いやでも、これはちょっとひどいでしょ。子どもが見てるのに、女性殴るなんて」

「じゃあ、てめぇなら殴っていいんだな?」

「いや、そういうわけじゃないですけど」

「もうやっちゃいなよー!」

 女がゲラゲラ笑いながらけしかける。

「いや、やめましょ?もう。僕、ケンカとかできませんし」

「うるっせーよ」

 チンピラたちは、若者を囲んで神社の裏の方へ追い立てていく。神社の裏は小さな林のようになっている。あたりはもう暗くなりかけていた。

(やばい……誰か、警察を……)

 誰だかわかんないけど、助けてもらっといてほっといて逃げるわけにはいかない。

 私は必死であたりを見回した。

 すると、なぜかソラタが彼らを追いかけて林の方へと駆け出した。

「え、ちょっ、なんで!?」

 私は慌てて追いかける。

「待てー!おにいちゃんを、いじめるな!」

 ……おにいちゃん?

「あっ!あの子、もしかして」

 ソラタを追いかけながら、私はようやく閃いた。

 そうだ、あの少年だ。

 記憶を辿っていたら、砂利に足を取られて私はバランスを崩した。

 子どものからだって、どうしてこう、バランス悪いんだろう。脚、短すぎて全然進んでる気がしないし。

 そしてとうとう転んでしまう。

 どてっ。

「いたっ!」

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