第21話 汚れっちまった洋服に。

 あれっ?

 おかしいな。ぼく、ジャングルジムのてっぺんにのぼったはずなのに、なんで地面にいるのかな?

 ジャングルジムから、おっこちたのかな?

「おーい、だいじょうぶー?」

 遠くから声が聞こえる。ぼくは起き上がった。

「うん、だいじょうぶ!」

 ……あれ?なんか変だぞ。ママの声だ。

 ぼくは立ち上がって、まわりを見た。のぼっていたはずのジャングルジムが、とっても遠くにある。

 そして、なんか高い。すごく遠くまで見える気がする。

 ぼくは手を見た。あしを見た。ママの手と、ママのあし。ママのスニーカー。

 そっか、ぼく今、ママなんだ!

「おーい!」

 ぼくはジャングルジムに向かって両手を振った。

「おーい、ママー!あ、ちがった!」

 えーっと、あれはぼくだから。ぼくがママだから。

 じゃあ、ママみたいなこと言わなくちゃね。

 よし。

「こらー!ソラタ!だめじゃない!もう!」

 ぼくはジャングルジムのてっぺんのママに、大きな声で言ってやった。

「……って、え!?なんでぇ?」

 ママはきょとんとした顔してる。

 あはは。たのしい。

「あはははは!」

 ぼくは走った。

「ちょっと、待ちなさ……待ってよー!」

 ママがジャングルジムを下りる。

「ちょっとソラ……ママー!どこいくのー!?」

 ママが追いかけてくる。

「あっ、ソラタくん、待ってよ―!」

 夢ちゃんとけいたろうも、追いかけてくる。

 公園は広い。

 いつも遊んでいる小さな公園とは、ぜんぜんちがう。

 川も池もある。すごい。

 どんどん走っていくと、小さな川が流れていた。

 川は浅くて、飛び石があって、渡れるようになってる。

 水がキラキラしてる。

 飛び石、向こうまで、渡れるかな?

「ちょっと、あぶないって!」

 ママたちが追いついてきた。

「あはは!おもしろいよ!みんな、こっちおいでよ!」

 ぼくは川の真ん中からみんなを呼ぶ。

「そりゃおもしろいだろうけど……浅いし、水もきれいだし、だいじょうぶとは思うけど……」

 ママがぶつぶつ言いながら、ぼくを追いかけて川を渡りだした。

「すげー!」

「わーい!」

 夢ちゃんもけいたろうも、ママの後について、飛び石をぴょんぴょん渡ってくる。

「え、ちょっと、やだ、みんな来ちゃったの!?」

 そのときだ。

 つるっ。

「きゃあ!」

 ママが、石を踏み外して、川に落ちた。

「あはは!おもしろーい!」

 次に、けいたろうが、川に落ちる。

 ぼくも、落ちる。

 夢ちゃんも、飛び込んだ。

「わーい!」

「わあーい!」

 みんなで水のかけっこが始まった。

「もう、あははは!」

 みんな笑ってる。

 ママも笑ってる。


 ***


「あら?みんな、川の方に行っちゃったわね」

「そうねぇ。なんだか楽しそうねぇー」

「私たちも行ったほうがいいかしらね?」

「ヒカルさん一緒だし、だいじょうぶじゃなーい?日奈子さん、おなか大きいんだし、ゆっくり座っていたらいいわよー」

 暖かい日差しを桜の花が遮って、そよそよと気持ちのいい風が抜けていく。

「川っていってもね、ここは人工の川でねー。毎日水抜いて綺麗にしてるはずよー」

「あの子たち、濡れないかしら?まあ、いざって時用に着替えはあるけど」

「あ、私も、タオル持ってきてるわよー。着替えもー」

「さっすが、ママ大先輩」

「よしてよぅー」

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