第6話 すなあそび。

 もおーーーーう、我慢できない。

 なんで邪魔ばかりするの?

「もう知らないわよ!ソラタなんか!」

 言ってしまった……。

 ああ、思い返せば一年前。前回ソラタと入れ替わった時は、何ひとつ喋れなかった。

 いっぱいいっぱいな気持ちを、泣いて吐き出すしかできなかった。

「マーマ、おすなば、やろ?」

 私の憤りなど思いも至らないソラタは、無邪気に笑いかけてくる。

「やんない!」

 私は力いっぱい叫んだ。

 自分の気持ちを言葉にできるって、なんて気持ちいいんだろう。それに、はたから見たら私は二歳児。多少理不尽にわめいてたって、誰もなんとも思わない。

「ソラタがおみず、ながすから、ママ、トンネルほってね!」

「ほらない!」

「トンネル、ほってね?」

「ほ、ら、な、い!」

 むき出しの感情をぶつけられたソラタは、ようやく私が怒っていることに気付いたらしい。きょとんとした顔で、何か考えている。そして。

「マーマ、つかれちゃった?おうち、かえる?」

「帰んない!!」

 いや、帰っても良いんだけど、もう怒りのあまり後に引けない感じになってる。

 これじゃまるっきり、イヤイヤ期の子どもとママだわ。

 いや、実際そうなんだけど。

 見た目が二歳児なのをいいことに、私は思う存分「イヤ!」って言い続けてやった。

「トンネル、やあの?」

「いや!」

「じゃ、ぼく、ケーキやさんやるから、マーマ、おきゃくさん、やる?」

「やらない!」

「じゃあ、ぶらんこ、やろう!」

「いや!」

「のど、かわいたねー?コーヒーどーじょ」

「いらないし。それ泥水だし」

 そうやっていると、だんだんと意地悪な気分になってくる。

 もっともっと困らせてやれ。

 ほらほら、こんなにイヤだイヤだ言われたら、どうするの?

 ママのこと、嫌いになる?

 でもね、これ、いつもソラタがやってることよ。ちょっとはわかる?ママの気持ち。

 そんなことを心のなかで思いながら、私はのぞきこんでくるソラタに背を向け続けた。


 あまりに私がつれないので、とうとうソラタは黙ってしまった。

 気がつくと、もう太陽がだいぶ高い。

 そろそろお昼なのかしら。お腹もすいてきた気がする。

 いいかげん、意地はるのもやめて、家に帰って何か食べようかな……。

 そう思って、そっと振り向くと。

「……あれ?」

 そこにいるはずの私の姿が、ない。

 慌てて立ち上がって、狭い公園を見回す。

「あれ……?なんで……?」

 ソラタが、消えていた。

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