第5話
そして始まるいつもの団長の
今度は一本の縄の上を平気で歩く
次は動物を使った曲芸で、白いライオンが樽の上を歩き、子象は大きな玉の上を歩いた。あれは子ライオンだとお父さんは言った。真亜子はその白いライオンに触ってみたくて仕方なかった。
やがて演目が進み、一番迫力のある空中ブランコが始まった。一本の棒を握った女の人が右から左に大きな弧を描いて空中を舞うと左側の男の人が受け止めて、今度は男の人が左から右へ。これを繰り返し、やがて二人が手を握りしめたまま右に左に宙を舞った。その度ため息と歓声があがる。
たま子姉さんは、この空中ブランコがサーカスで一番好きだと言っていた。美しい大人の男の人と女の人が空を舞う様子は、ハラハラしながらもどこか物悲しく、目の前に異国の物語が広がっていく感じだと。
いつもの大人の男の人と女の人の空中ブランコの後、少し若い女の人、ほとんど少女と言っていいような女の人が現れた。長くイチゴ色に近い金髪はたぶんかつらだろう。衣装は薔薇色だった。
これは前の年には無かったわと真亜子は思った。若い女の人はやはり右から左へ、左から右へと空中を舞った。場内からは拍手が起こったが、さっきまでの女の人に比べ、少しぎこちない舞い方だった。やっと向こうにたどり着くという感じ。これが最後という合図で大きく弧を描いて舞った時、最後の所で失敗し、床までではなかったが、途中のネットまで落ちていくのが見えた。それはまるでスローモーションのようだった。会場内はざわついた。それでもすぐに
その後の演目を真亜子は憶えていない。気がつけば、少し硬めのベッドのような所に寝かせられていた。周りの様子からここがサーカスのテントの中だという事は分かった。さっき舞台にいた
「ああ、目を覚ました。きっとビックリしたんだろう。きっとまるで自分が空中ブランコをしている気分だったのかもしれないな。でももう大丈夫」
「本当に、落ちたのは違う子なのにね。見ていただけでビックリしたのね」
「あの人は…あの人は大丈夫なの? 落ちていった人」
真亜子の不安の原因が分かったサーカスの団員達は少しほっとしたように見えた。
「大丈夫だよ。お嬢さん、人間て意外と強いもんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます