第2話

 その二日後、午後三時過ぎから真亜子達はサーカスに行く準備を始めた。ちょっと前まではみんな普段着で出かけていたサーカス。でもその年はお洒落をしたい年頃の姉さん達が少しよそ行きの夏服に着替え、鏡の前で髪を整えていた。真亜子だけは普段のおさがりのワンピースだった。

「真亜ちゃん、あの白のワンピースを着たら? お洒落になるわよ」とたま子姉さんが言った。

「でも、もう小さくて入らないと思うの」と真亜子。

「去年あんなに大きかったじゃない? 試しに着てみたら?」と、とわ子姉さんが提案した。


 それは、白地に小さな緑色の花模様の入ったワンピースで、亡くなったお母さんの最後のお手製だった。袖は肩の下で提灯袖ちょうちんそでになっていて、とても可愛い。完成したのを見た時はうれしくて何度も箪笥たんすから出しては眺めていた。真亜子の横で「もう少し大きく作ってくれていたら私も着られたのに」とさわ子姉さんは口を尖らせていたけど。


 その一つ前の冬にお母さんが毛糸で編んでくれたセーターとズボンは、セーターだけを胸に抱え、「ズボンは男の子のはくものだからイヤよ」と真亜子は駄々をこねたものだった。お母さんは何も言わずにズボンを箪笥の引き出しにしまった。

捨てずにとってある毛糸のズボンは次の年には小さ過ぎてはく事ができなくて、真亜子はそのズボンを見る度なんだか悲しくなった。


 白いワンピースを着てみると、とわ子姉さんの言うように今の真亜子にぴったりだった。

「真亜子もさわ子も隣の子達のようにぐんぐん背が伸びるといいんだけどな」とお父さんが言った。

確かに隣に住む従兄弟達はわずか半年の間に背がぐんと伸びて周りを驚かせていた。

 真亜子はクラスの中では一番小さい。さわ子姉さんもそうだった。真亜子は自分が小さいのを気にしていたから、そんなお父さんの言葉にカチンとはきたけど、それでこのワンピースを着る事が出来たのだから今日は伸び悩んでいる事に感謝しようと思った。

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