第8話

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 二人は何かを探している。夕暮れに染まり始めた街路を歩きながら、何かを探している。

 探し物は何か?

 何とも言えない思いのまま二人はあべのハルカス下の交差点に跨る歩道橋の上に居た。

 少し先を見れば新しい公園の天芝が見え、その先に夕陽に染まり始めた夕陽丘付近が見える。

 遥か昔大阪は海に突き出していた砂州型の台地だった。その名残でこの付近は土地の高低差がある。

 その高低差を伝うように現在は谷町通りと言うのがある。仏舎四天王寺から北へ天満橋迄それは伸びている。ちょうどこの歩道橋はその北へ上る初めともいえる。

 歩道橋はショッピングモールを行き交う若い男女が多い。

 夕暮れに染まり始めたこの歩道橋を行く人の心にも休日の終わりが忍び込んできている。その影を踏む様に二人は歩いている。今は歩きながら探し物を見つけるときかもしれない、と田中巡査は思った。

「埋め込まれていたんだ…、GPSがね」

 ロダンが頷く。

「どうしてだろう?」

 その答えを探したい、田中巡査は思った。

 ロダンが言う。

「あの生首ですが、軽い粘土で出来ていて彫刻やモデル品を造る時の習作に使われる奴なんです。内の劇団の美術でも良く使います」

「そうなんだ」

「あの日、部屋に持ち帰った僕は生首を置いた時、音がカラカラするのが分かったんです。それで何度も振ると振る度に音がする。おかしいなと思い首の下の方をひっくり返すと、付け根があってそこに違う粘土が蓋のようになっていたんですよ」

「それで気になりこじり開けた、ということだったね」

「そうです。それはさっき歩きながら話した通りです。開けるとそいつが埋め込まれていた。とっさに奇妙だと思ったんです。前日の事といい、このGPSといい…」

 巡査が頷く。

 勿論だと言わんばかりに。

「おそらく僕の推察です…、これを埋め込むと言うのは分かりやすく言えば追跡が目的でしょう。となると…、この生首がどこに行くのか?それを誰かが明確な意思を持って知りたかったということが仮説立てられるのではないかと思います」

「生首がどこに行くのか知りたい?だって…一体何故?何の為に?」

 ロダンが歩きながらアフロヘアを揺らし、髪を掻いた。それから「そうなんです…、そうなんです」と何度も呟いた。そして最後に呟いた後、田中巡査の方を振り返りリュックに向かって親指を立てて指差す。

「こいつですよ。こいつを探していたんでは無いかと僕は思ったんです」


 ――こいつを探していたんではないかと思ったんです。


 ロダンは自分に今断定的にそれも過去形で言った。

 それは、彼がこの件について何か調べているということに違いない。

 田中巡査は歩道橋を共に下ると、空に広がる夕陽を見ながら彼に言った。

「飲みに行こう。どこでもいい、近くにないかい?君はどうやら何かを既に知っているようだからね。だから君は事件が隠されていたと私に言ったのだろう?」

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