第7話

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 柱時計だろうか。

 鐘が小さく鳴った。それに気づいた田中巡査が腕時計を見る。

 時間は丁度午後四時。日曜の時間を過ごす時、明日からの忙しさが見え始めるそんな時間の臍を噛みしめる頃ではないだろうか。しかし…でもまだどこかこの休日を愉しみたい、そう思いたくなる時刻でもある。

 田名巡査は未だ愉しみたい、この時をそういう思いを込めてロダンに言った。

「それで君、それがどうして事件に?」

 質問を受けたロダンは生真面目そうな顔をして巡査を見る。

「田中さん、ほらあの時の生首ですがね…結局僕が持ち帰ることになりましたでしょう?」

 ああ、そうだった。

 田中巡査は思い出した。結局、人を驚かせるだけ驚かせたあの生首をロダンに引き取らせた。確か、それは彼が言い出したのだ。

「そう、劇で生首を使うので引き取りますと言って僕が引き取ったのでしたよね。実はあの生首、あの劇の小道具として壇上に在ったのですが、分かりました?」

「在ったかい?」

「在りましたよ。ほら、劇の途中で出て来たでしょう?」

「覚えてないよ」

 正しく覚えていない。勿論、劇中寝ていたわけでもないが、暗い場面が多かったので覚えていないのが事実だ。

「いや、すまない。覚えていないよ。決して劇中寝ていたわけじゃないんだ。暗くて分からなかったのかもしれない」

 ロダンが手を左右に振る。

「いや、何も気にしないで下さい、生首は別に劇中としては役に立ちませんでした。しかしながら事件の始まりとしては十分、あいつは役に立ちましたから」

 言ってから、ロダンはズボンのポケットから何かを探り出すとそれを二人の目の前に置いた。それは小さな機械だった。それをまじまじと田中巡査はみると、顔を上げてロダンに聞いた。

「こいつは…?何だい」

 ロダンが襟首に手を遣ると数度摩りながら、老婆を見た。老婆は起きているのか眠っているのか分からない。ただじっと目をつぶりながら身体をうつらうつら揺らしている。

「どうしたの?あのお婆さんが何かあるのかい?」

 小声で巡査が言う。

「いやいや違うんです。これですね…実は老人の認知症用徘徊追跡GPSなんです」

「認知症用徘徊追跡GPS?」

「ええ」

「こいつが、それで何か関係あるの?」

「あるんですよ。実は…」

「実は?」

「埋め込まれていたんです?」

「埋め込まれていた?」

「ええ、そうです。あの生首のレプリカに」

 声にもならない驚きを田中巡査が発送とした時、うつらうつらしていた老婆が突然目を覚ました。それから柱時計を見る。時計は四時を過ぎている。それを確認すると老婆はゆっくりと立ち上がり、二人に向かって言った。

「すいませんが、今日は早くに店終いしますけぇ、勘定させてください」

 それを聞くや、慌てて田中巡査はアイスコーヒーに口をつけると一気に飲み干した。それから立ち上がるとロダンを振り返り言った。

「君、まだ時間あるだろう。私はその話の続きを聞きたいよ」

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