第9話

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 ふらりと暖簾を潜って入った立ち飲みの店は扇風機の音が煩く、まるで蠅でも払っているのかと田中巡査は思いたくなった。出された瓶ビールを互いにグラスに分けて一気にぐぃと飲み込む。それだけで歩いて流した汗の分の水分を補給したような気分になった。

 再び互いにグラスにビールを注ぐ。溢れんばかりに泡を口元に吸い寄せ、また飲み干す。

「君の推察、いや仮説によるとそれはこの九谷焼を探す為に誰かが…あのレプリカにGPSを仕込んだ、ということだったね。しかも君はどうもそれは正しいかったと言わんばかりの口癖だ」

 ロダンは縮れ毛を指で摘まんで、「えぇ」と小さく呟く。

「何をしたんだい?」

 ロダンが巡査の問いに頭を掻く。その仕草が何か秘めたような感じだったので、巡査はその心をほぐす様に言った。

「ロダン君、別にこいつは刑事捜査なんかじゃない。だから警察とは切り離してほしいな。それに何も事件の届けがある訳じゃない。だから何か日常の悪ふざけの謎を解いたって話で良いじゃないか?さぁ教えてくれよ」

 巡査の投げ出した言葉の何かがロダンの心の鍵を外したのだろう。彼は掻いていた手を止めるとビールをぐいと飲んだ。

「ええ、分かりました。田中さん、そいつを肝に銘じて話します」

 それから彼はスマホを取り出した。それからアプリを起動させる。そのアプリが起動するのを田中巡査は見ている。やがてそのアプリが地図だと言うのが分かった。地図上に太い赤線が引かれている。何の目的のアプリだろうか?

「これですね。こいつと同じメーカーが作った追跡用アプリなんです」

「追跡用アプリ?」

「ええ、こいつを使って追跡をしたんです」

 ここまで話を聞いて巡査は首を傾げた。

 どういうことだ?

 なのである。

「君、一体何を追跡したんだい?」

 ロダンは言った。

「生首です」

「あの生首かい?あれはどこから来たか分からないだろう?」

「そうです。あの生首を僕達が拾った場所は…つまり着地点ですから、これら二つの持ち主はきっと生首と九谷焼がここまで来たのだというのは分かっているでしょう。しかし僕等はこの二つがどこから来たのか分からない。そいつは不公平です。だから逆追跡をしようと思ったんです」

 益々疑問が浮かぶ不承不承の表情で田中巡査がロダンを見る。困惑の度合いが強いのがありありと分かった。

 

 逆追跡?

 全く、意味が分からん!!

 

 そう言いたくなった時、ロダンが言った。

「ここまでこいつらを運んできたあのカラスにGPSをつけて飛んでもらったんです。それと相手への御手紙をつけてね」

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