第7話

 


 


本当のメリーチェは何者かに暗殺されていた。


今目の前にいるメリーチェはメリーチェの替え玉。


あまりの怒涛の展開に頭が混乱してきてしまった。


「混乱しているわね。アリーチェ。でも、もうちょっと私の話を聞いてくれるかしら?」


宥めるよなメリーチェの言葉に私はコクリと頷いた。


「ありがとう。マーガレット侯爵は、アリーチェを養子に出したものの、メリーチェも暗殺されてしまった。だから、アリーチェを家に戻したいと考えているの。」


「えっ!?そんな・・・。お父様とお母様は・・・。」


「そうね。アリーチェのお父様とお母様は反対しているわ。だって、ずっと育ててきた可愛い我が子ですもの。養子だといえ、手放したくはないでしょうね。」


メリーチェが、そっと私の手を握ってくる。


その温もりが暖かくてとても優しいい。


「でもね、アリーチェが今のお父様とお母様の子のままで、さらにマーガレット侯爵もお父様とお母様にしてしまう方法があるのよ。」


「え?どんな方法でしょうか?」


「・・・メリーチェ、本気なんだな。」


メリーチェがにっこりとした笑顔で告げると、アルフレッド様が大きなため息をついた。


どういうことだろうか。


アルフレッド様がため息をつくほど、一般的な方法ではないのだろうか。


それとも、危険を伴うとか?


誰かの迷惑になるとか?


「アリーチェが私と婚約すればいいのよ。」


「へっ!?」


婚約!?メリーチェと!?


メリーチェは女性ではなくて男性だったので問題はないけれども・・・。って問題大ありだからっ!


王太子であるアルフレッド様との婚約を破棄して、男爵令嬢の私と婚約するなんて普通あり得ないから。


というか、アルフレッド様が婚約破棄する側ではなく、される側になるとは思ってもみなかった。


「まあ、メリーチェと婚約すれば問題はないだろうな。ただ、メリーチェには一度死んでもらうことにはなるが・・・。」


「え?メリーチェ様が・・・?」


どうして、メリーチェが死ななければならないのだろうか。


というか、死んでしまったら婚約なんてとてもできないと思うのだけれども。


「メリーチェというのはマーガレット侯爵家の娘ですから。同度とアリーチェと婚約して結婚して子供を産み育てるためには私は男になる必要がありますわ。」


こ、子供!?


話がいきなり飛躍したっ!?


「そうだな。女同士で結婚して子供ができましたってなったら、どこの誰の子だ!と要らぬ騒ぎになるからな。そうする必要がある。なにも、本当に死ぬことはないんだ。ただ、メリーチェは死んだ。養子に出していたアリーチェが見つかったとすればいい。」


アルフレッド様が私にもわかりやすいように説明してくれる。


確かに、同性同士で結婚して子供が出来たらどこの子だ!ってなるよね。


実の子供なのに養子ってのもややこしいし。


ただ、養子に出していた私が見つかったってどういうことだろうか・・・。


私がマーガレット侯爵家の娘になるということ?


あれ?でもそうしたらメリーチェはどうなっちゃうの・・・?


私のお父様とお母様との関係も私がマーガレット侯爵家の養子になってしまったら切れてしまうのではないだろうか。


そんな疑問が私の頭の中によぎった。


「ふふっ。可愛いアリーチェ。混乱しているわよね。」


メリーチェがそう言って優しく微笑んだ。


確かに私は今、混乱をしている。


「あのね、アリーチェ。貴女と私の立場を交換しましょうと言っているの。」


「え?」


「私が男爵令息になって、アリーチェは侯爵令嬢になるのよ。それなら、貴女は私と結婚すれば育ての親も、産みの親も貴女の両親になるわ。」


メリーチェの言うことは理解できる。


理解はできるけれども、心が追い付かない。


私が、侯爵令嬢になる?


そして、メリーチェが男爵令息になる?


生活ががらりと変わってしまうではないか。


メリーチェはそれでいいのだろうか。


今までの生活が一変してしまうのに。


我が家は貧乏男爵家なのだ。


そんなところにメリーチェが住むの?


「メリーチェはそれでいいの?生活環境が一変してしまうわ。」


「構わないわ。私は元々侯爵家の養子なのよ。だから、元に戻るだけだわ。」


「うちは貧乏なのよ。今までのような生活はできないわ。」


「構わないわ。それでアリーチェが手に入るのならば苦にはならないわよ。」


「あーでも、アリーチェが侯爵令嬢になるのならば、私との婚約話が持ち上がるかもしれないな。」


メリーチェとの会話に割り込んできたのは、私たちを静観していたアルフレッド様だった。


「私としてはメリーチェと結婚したかったのだが。男に戻るということであれば私との結婚は国王が許さないだろう。今までだって、期間限定で私との婚約をおこなっているだけだったしな。そうなると国内で一番私の婚約者になる可能性が高いのは残念ながらアリーチェになる。」


「え?」


アルフレッド様の言葉は正直とても意外なものだった。


きっと、この世界に転生したんだと気づいた当初だったら、この結末には素直に喜んだだろう。


だって、憧れのアルフレッド様の婚約者になれるのだから。


だけれども、今はちょっと微妙な気持ちだ。


なぜならば、アルフレッド様のお心は今もメリーチェにあることがハッキリとわかっているからだ。


アルフレッド様はメリーチェの代わりに仕方なく私を選ぶだけ。


それがとても辛いものだった。


好きな人の心が私に向けられないのはとても虚しいだけだ。


それに、私は・・・この世界で生きてきて実際に気になってしまったのは、アルフレッド様ではなくメリーチェなのだ。


そのメリーチェが侯爵家から男爵家の養子になって言いとまで言ってくれて、私と婚約したいと言うのだ。


私は虚しい結婚生活よりも互いに心を通わせた結婚生活を送りたい。


「アルフレッド様。それはどうにかならないのですか?」


「ならんな。私に相応しい婚約者がアリーチェ以外に現れなければ無理だ。」


一難去ってまた一難。


「そんなもの。アルフレッド様の婚約者になりたいという方は大勢いらしゃいますよ。それに国内がダメならば国外という手もありますし。」


どうしようかと思っていると、メリーチェが手を差し伸べてくれた。


そうか、国外という手もある。


「・・・まあな。でも、私はメリーチェがいいんだよ。本当はね。だから、メリーチェに似ているアリーチェで妥協してもいいかと思ったんだけれども・・・。」


「ダメです。アリーチェは例えアルフレッド様であってもお渡しできませんわ。」


「きゃっ・・・。」


「はあ・・・。」


アルフレッド様には渡さないとばかりにメリーチェに抱き寄せられる私に、大きなため息をつくアルフレッド様。


「アリーチェは渡さなくってよ。」


メリーチェはキッとアルフレッド様を睨んでいる。


「ふふふ。怒ったメリーチェも魅力的だな。」


「アルフレッド様っ!」


「やはり、私はアリーチェよりもメリーチェの方が魅力的なんだ。」


そう言ってアルフレッド様はメリーチェの前に跪いた。


「メリーチェ。君が男でも私は構わないと常日頃思っていたんだ。どうか、私と婚約関係を継続してくれないか。」


「無理です。先ほど婚約を解消するという話になったでしょう?」


「だが、やはり君を失うのはとても辛いんだ。アリーチェは代わりになんてなれないし。」


「却下です。別の誰かを探してください。」


縋りつくアルフレッド様に、きっぱりとメリーチェは告げる。


その様は見ていてとても気持ちのよい物だった。


「・・・探してもきっとメリーチェ以上の人には出会えない。」


「・・・はあ。駄々っ子ですね。アルフレッド様は。」


諦めないアルフレッド様にメリーチェはため息をついた。


そうして、


「私はアルフレッド様の婚約者にはもうなれませんが、アルフレッド様の側近にはなれるかと思います。まあ、側近になるにはアルフレッド様の許可と国王陛下の許可が必要ですが・・・。」


と、メリーチェは妥協案をアルフレッド様に提案した。


その妥協案にアルフレッド様は目を輝かせた。


「そうだな!メリーチェが側近になれば我が妃よりもメリーチェと側にいる時間が長くなるな。」


そうアルフレッド様は言ってから、私の方を見た。


「アリーチェ。残念だったな。メリーチェが私の側近になれば、アリーチェよりも私と一緒にいることが多くなるだろう。私の勝ちだな。」


「・・・いつから勝負になってたんですか。」


勝ち誇ったように言うアルフレッド様に私は思わず突っ込んでしまった。


なんでどちらがメリーチェと長い時間一緒にいられるのかという話になっているのだろうか。


それにしても、アルフレッド様は本当にメリーチェのことが好きだったんだなぁ。


「さて、話もまとまったことですし、行きましょうか。アリーチェ。」


「え?あ・・・はい。」


メリーチェが差し出してくれた手に私の手を重ねる。


そうして私たちは歩きだした。


「はっ!ずるいぞ!アリーチェ!!メリーチェと手を繋ぐには私だ!」


その後をアルフレッド様が追いかけてくる。


私たちはアルフレッド様が追いかけてこられないように女子寮に逃げ込んだ。


女子寮ならば、アルフレッド様が入ってこれないからだ。


なにせ男子禁制だからね。


「あれ?メリーチェ様は女子寮にいていいんですか?」


「いいのよ。だって私はまだ侯爵家の娘ですからね。」


 


 

☆☆☆

 



 


 


それからしばらくしてメリーチェが学園を去っていった。


表向きは病気療養のためだ。


本当の理由はメリーチェが死んだことにして、私が侯爵家に戻り、メリーチェが男爵家に養子になるためだ。


「アリーチェ。メリーチェがいないとつまらないな。」


「・・・そうですね。」


アルフレッド様はそう小さく呟いた。


確かにメリーチェがいないと私も寂しい。


あれだけずっと一緒にいたメリーチェが側にいないと何故だか落ち着かないのだ。


メリーチェが学園を去った理由は知っているし、私も当事者になるのにだ。


「メリーチェ・・・。なぜ、メリーチェは男性だったのだろうか。メリーチェが女性だったならば、なんとしてでも私はメリーチェを私のものにしたのに・・・。」


「・・・はあ。」


メリーチェが学園から去ってから私はアルフレッド様と一緒にいることが多くなった。


というのも、私は友達がいなかったのだ。


常に私の傍にはメリーチェがいたから他の生徒とは関りがなかったのだ。


入学から数か月も経ってしまえば、女生徒はすでにグループが出来上がってしまっている。


出来上がっているグループに入っていくのはなかなか難しいのだ。


そして、私は侯爵令嬢のメリーチェとも王太子であるアルフレッド様とも親しくさせてもらっている。


その二人と仲がいい私はクラスメイトにとって扱いずらい相手として認識されていた。


そのため、私はアルフレッド様以外に話す相手がいないのだ。


でも、そのアルフレッド様も顔を合わせればメリーチェメリーチェとうるさい。


アルフレッド様はメリーチェロスになっているようだ。


「メリーチェ。早く帰って来てくれ。男の姿でもいいから・・・早く。」


情けなく叫びだすアルフレッド様。


こんなのが次期国王でいいのだろうかと思ってしまった。


ちょっと情けないし、頼りない。


「そんなに情けないと次期国王になれませんよ。」


「はっ!?アリーチェも言うようになったなぁ。でも、見てろよ。私にはメリーチェがいるんだ。私の側近としてメリーチェがつくんだからな。そうすれば私は何にだってなれるさ。」


アルフレッド様はそう言って自信満々に笑った。


この人はどこまでメリーチェに依存をしているのだろうか。


このままだとお飾りの国王陛下になりそうだ。


もちろん実権を握るのはメリーチェだ。


まあ、メリーチェなら国を悪いようにはしないからいいけどさ。


「だから、メリーチェ。早く帰って来てくれ。国王から私は腑抜けと呼ばれてしまったのだ。メリーチェがいないと。メリーチェがいないと私はどんどんダメになっていく・・・。」


「・・・はあ。アルフレッド様。あまりメリーチェ様に負荷を与えないでください。」


「だが、メリーチェがいないと。メリーチェ・・・。ああ。メリーチェ。」


本当にこの人は・・・。


乙女ゲームをプレイしていた時はとっても一押しのキャラだったのになぁ。


「アリーチェ。ただいま。」


そんな風にがっかりしてると懐かしい声が私を呼んだ。

 

「メリーチェ!!」


「メリーチェ様!」


懐かしい声に私とアルフレッド様は即座に反応する。


特にアルフレッド様は素早かった。


声を聞くなりメリーチェに飛び付いたのだ。


そして、メリーチェは飛び付いてきたアルフレッド様をサッとかわす。


「アリーチェ。時間がかかってしまったが、迎えにきたよ。それから、私は今日から男爵令息になったからね。」


そうか。


とうとうメリーチェは男爵令息になったらしい。


つまりメリーチェの両親が私の両親となったということだ。


私も数日前に侯爵家に引き取られている。


行き別れの娘として、大切に侯爵家に迎え入れられた。


「もう、メリーチェという名ではないの?」


メリーチェの姿はドレス姿ではなかった。


英国紳士風の服を来ている。


「そうだね。今日から私は男にもどるからね。」


そう言ってメリーチェはにこりと笑った。


女性の姿をしているときもメリーチェの笑顔はとっても魅力的だったが、元の性別に戻ったメリーチェの笑顔は破壊的な魅力がある。


男でも女でもお年寄りでも子供でも惹き付けられるのではないかというほど、魅力的な笑顔だ。


「これからは、私のことはメリアルドと読んでくれないかな?」


「あ………はい。」


メリーチェ………じゃないメリアルド様は自分の名前を微笑みながら教えてくれた。


「これでやっとアリーチェに婚約を申し込むことが出来る。さあ、アリーチェの侯爵家のご両親に挨拶に行こうか。ああ、もちろん男爵家のアリーチェの元両親はアリーチェが私の婚約者になることに賛成しているからね。」


「その婚約ちょっと待った!!」


メリアルド様から差し出された手を取って立ち上がれば、アルフレッド様からの待ったがかかった。


いったいなんだというのだろうか。


「なにか?」


メリアルド様がアルフレッド様に視線を向けると、「うっ。」というアルフレッド様の声が聞こえてきた。


「わ、わ、私の側近になるのが先だ!だからメリアルド、今から王宮に行くぞ!」


そう言えばメリアルド様はアルフレッド様の側近になると約束していたな。


メリアルド様が男に戻ったならば、アルフレッド様の側近にもすぐになれるだろう。


メリアルド様はすぐにアルフレッド様と王宮に行ってしまうのだろうか。


私はそっとメリアルド様を見上げた。


すると、メリアルド様の優しい眼差しが私に向けられていた。


「そうですね。アリーチェに婚約を申し込む前に私にもある程度の地位が必要ですね。アリーチェは侯爵令嬢なのだから。では、アルフレッド様。さっさと私を側近にしてください。アリーチェ。アリーチェも一緒に王宮に行きましょうね。」


「………はい。メリアルド様。」


「だ、ダメだ!!王宮は女人禁制だ!!アリーチェはここで待っていろ!」


「アルフレッド様?いつから王宮は女人禁制になったのでしょうか?私の記憶ではそのような話を聞いたことがないのですが。教えていただけますか?」


アルフレッド様が王宮は女人禁制だというと、すぐにメリアルド様が反論した。


たしかに王宮が女人禁制だとは聞いたことがない。


毎年王宮勤めの侍女の募集もあるしね。


「私は王宮の仕来たりに疎いようですね。こんな私では王太子殿下の側近には到底なれませんね。」


「なっ!?そ、それは許さぬ!」


メリアルド様は芝居がかかったように残念そうにうつむいた。


するとアルフレッド様がすぐにひき止める。


「アリーチェ行きましょう。どうやら私は王太子殿下の側近にはなれないようです。残念ですが仕方がありません。」


「メリアルド!メリアルドは私の側近だ!王宮が女人禁制だというのはちょっとした冗談ではないかっ!アリーチェ、一緒に着いてきてよいからな。」


どうやら、アルフレッド様はメリアルド様には勝てないようです。


思わずメリアルド様とアルフレッド様のやり取りに「ふふっ。」と笑ってしまった。












こうして、メリアルド様と私は無事に婚約をし幸せな日々を過ごしたのでした。

あ、アルフレッド様にメリーチェ以外の婚約者が出来たかどうかはご想像にお任せいたします。



めでたし。めでたし。






終わり。



綺麗なお姉様が実は男性でしたって展開が大好きなのです。


 


 


 


 



 


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王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑する 葉柚 @hayu_uduki

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