第2話
「ねえ、アリーチェ。私、貴女と友達になりたいわ。」
そうメリーチェに声をかけられたのは放課後、中庭でのことだった。
中庭に呼び出されたので、私はメリーチェに虐められるのではないかと身構えたが違った。
まあ、私が虐められるようなことなにもしていないし、乙女ゲームと違ってメリーチェって性格悪くないんだよね。不思議と。
気位は高いけどね。
まあ、侯爵令嬢なんだからこんなもんでしょ。って感じ。
「えっと。でも、メリーチェ様と私では身分が違いすぎます。」
まさか乙女ゲームの悪役令嬢とヒロインが手に手を取り合ってキャッキャウフフするわけにもいかないので、お断りしてみる。
「身分なんて気にしなくてもいいのよ・・・?」
すると少し寂し気に微笑むメリーチェの姿を見ることができた。
そんな寂し気な表情を見せられてしまうと強く断ることができない。
「私は気にしなくてもアルフレッド殿下が気になさるのでは・・・?」
アルフレッド様が身分で差別するような人ではないことは乙女ゲームの知識で知っているけれど、あえてそう言ってみる。
だって、メリーチェの交遊関係よくわかんないし。
取り巻きの女性徒の名前をだしても反応なさそうだし。
ここは、メリーチェよりも身分が高い人の名前をだすに限る。
「まあ!アルフレッド様が・・・?私、アルフレッド様にアリーチェと友達になっていいか聞いて参ります。」
メリーチェはそう言うと中庭から足早に去っていってしまった。
メリーチェがいなくなってホッとして私は寮に帰ることにした。
☆☆☆
「アリーチェ嬢。今、でてこれるだろうか?」
夕食も済ませて、寮の部屋でまったりとくつろいでいると、部屋の窓にコツンッと何かが当たる音がした。
最初は気のせいだろうと思っていたが、その音は数回続いた。
5回続いたところで、窓を開けて下を見るとそこにはアルフレッド様の姿があった。
もしかして、窓に石を投げてノックしていたのは、アルフレッド様?
ここ、5階なんだけどよく石が届いたなと変なところで関心してしまう。
私は、アルフレッド様に、
「すぐに参ります。」
と告げて部屋を飛び出した。
これってあれだよね。
乙女ゲームでもあったアルフレッド様からの呼び出しだよね。
確か、ゲームだとこの後、友達になって欲しいって言われるんだよね。
アルフレッドのルートに入った場合の恋人になるまでの通過点よ。
きっと、友達になって欲しいって言われるのだわ。私。
昼間、メリーチェに友達になって欲しいと言われた時はちょっと焦ってしまったけれど。
アルフレッド様ならば大歓迎だ。
「アルフレッド様。お待たせいたしました。」
私はそう言ってアルフレッド様の前に立った。
「ああ。アリーチェ。ごめんね、呼び出して。その・・・用があったんだ。」
「はい。どのようなご用でしょうか?」
この流れは乙女ゲームと全く同じだ。
これは期待できるかも。
「その・・・私と友達になってほしいんだ。」
ほら!ほら来た!!
これでアルフレッド様ルート確定だわ!!
「え、ええ。私でよければ。」
私は飛び上がりたいほど嬉しい気持ちを隠して、ドキドキしながら返事をした。
「よし!今日から私とアリーチェは友達だな。」
アルフレッド様はそう言って笑った。
その笑みはとても眩しかった。
そして、その声もとても素敵だったことを記しておく。
「アリーチェはメリーチェと仲が良いのだな?」
「え、ええ。まあ、はい。」
仲が良いというか何故だか「お友達になりましょう。」とメリーチェに言われているので、嫌われてはいないように思うけれども仲がいいというほどというかどうかと言うと少し怪しいような気もする。
だから、曖昧な表現になってしまう。
「メリーチェがアリーチェと友達になりたいと言ってきた。」
「はあ。そうですか。」
そう言えばアルフレッド様に聞いてくださいと言ったなぁ。本当にアルフレッド様に聞きに行ったんだ、メリーチェ。
律儀だわ。
「アリーチェはメリーチェにどうやって気に入られたんだ?」
「へ?メリーチェ様に気に入られた理由ですか?」
「ああ。そうだ。それが知りたい。」
メリーチェに気に入られた理由と言っても私には思い当たるふしがない。
だって、メリーチェとはほとんどしゃべっていないのだ。
会ったのだって今日が初めてだし。
しかも、アルフレッド様にぶつかった私に手を差し伸べてくれただけだし。
これと言ってメリーチェの気を引くような・・・メリーチェが気に入るようなことはしていない認識だ。
というか、私こそ知りたい。
メリーチェに何故友達になろうと言われたのかを。
「申し訳ございません。アルフレッド殿下。私にはよくわかりません。」
考えたってわからないのだから、わからないと回答するしかないだろう。
憶測で答えて違っていたらアルフレッド様に悪いし、私の心証も悪くなるだろう。
「・・・そうか。私とアリーチェの何が違うんだろうな。」
「はあ?」
何が違うと聞かれても身分も性別も違うとしか答えようがない。
「私とアルフレッド殿下ではいろいろと違いすぎます。」
「ほお?例えば。」
アルフレッド様は興味深そうに私の話に耳を傾けてくれた。
「例えば、性別が違います。」
「それは、そうだな。だが、こればっかりはどうしようもない。」
「身分も違います。」
「ふぅむ。まぁな。つまり、メリーチェは私の身分が高すぎるというところが嫌なのだろうか。」
乙女ゲームの中でのメリーチェはアルフレッド様が大好きというよりも身分大好き。王太子の婚約者という地位が大好きな人物だった。
つまり、身分に関しては高い方がいいと思うのだが・・・。
「メリーチェ様は身分の高い方の方が好まれると思います。」
「ほぉ。それは、今すぐに私が王にならなければならないということか?」
「いえ。いずれ王になるのですから王太子であるアルフレッド様のことはとても好ましく思っているはずです。」
そう答えてから気が付く。
どうして、私はメリーチェのことをアルフレッド様に言わなければならないのだろうか。
これって、もしかしてメリーチェとアルフレッド様の仲を取り持つ役割してない!?
気のせいだろうか・・・。
☆☆☆
「アリーチェ。アルフレッド様から貴女と友達になる許可を得てきましたわ。」
翌日、寮の部屋のドアを開けるとそこには、メリーチェが立っていた。
いったいいつから立っていたのだろうか。
私が部屋を出る時間もわからなかっただろうに。
そうして、開口一番にそう言ってきた。
「あ、メリーチェ様。おはようございます。」
私は内容には触れずに挨拶をする。
というか、メリーチェってば本当にアルフレッド様に友達になる許可を得に行ってたんだね。
このメリーチェって随分素直だなぁ。
「ふふっ。これで私とアリーチェは親友ですね。ささ、一緒に学校に参りましょう。」
そう言ってメリーチェは私の腕を右手で包み込むように抱き締めると学校に行こうと誘ってくる。
・・・それにしても、いつ、私たちは親友になったのだろうか。
普通、悪役令嬢とヒロインって敵対関係だよね?
なんで、親友・・・?
それに・・・。
「メリーチェ様。申し訳ございません。私、朝食がまだなんですの。私はいつも食堂で食べておりますの。」
朝食まだ食べてないんだよね。
だから、お腹が空いているのだ。
一日の計は朝食にあり。
そう思っている私にとって、朝食を抜くなんてあり得ないのだ。
絶対、朝食は食べる。
「まあ!朝食がまだでしたのね。では、私は食堂までご一緒させていただきますわ。」
にっこり笑ってメリーチェは言ってきた。
メリーチェはきっともう朝食は済ませているんだろうなぁ。
この寮では自室でも食事をすることができる。
自室か食堂かどちらか選べるのだ。
でも大体は伯爵家以上が自室で、それ以下は食堂で、が暗黙的な決まりとなっている。
なので、メリーチェと一緒に食堂に行くのはかなり目立つのだ。
これでもかってほどに目立つだろう。
メリーチェは侯爵令嬢。
食堂とは縁のない身分の人間なのだ。
「あの・・・でも、メリーチェ様。もう朝食は召し上がったのでしょう?」
「いいえ。私は朝は紅茶だけいただきますの。」
暗に一緒に食堂に行きたくないのだと告げると、メリーチェからはそんな返答が反ってきた。
・・・朝食を食べてない、ですと?
そのことに私の中で何かがプッチンと切れたような気がした。
「メリーチェ様!朝食はとっても大事なんですよ。一日の始まりの朝食!これにまさるものはありません。朝食をしっかりと取ることで、その日一日、身体の調子も心の調子も良く保てます。朝食を抜くだなんて言語道断です。」
「まあ!そこまでおっしゃるのならば、アリーチェと一緒に朝食を取ることにするわ。」
あ・・・。
つい思わず勢いで言ってしまったら、メリーチェは怒るどころか、肯定してきてしまった。
どうやら私たちは一緒に朝食を取ることになってしまったようです。
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