王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑する
葉柚
第1話
私、アリーチェ・エーデルワイスは乙女ゲームの世界に転生してしまったようである。
気づいたのは15歳の頃だった。
それまでは男爵家の令嬢として育てられていたのだが、両親の会話で私が男爵家の養女だと言うことを知ってしまった。
私は、男爵家に引き取られるまでは孤児院で暮らしていた孤児だったのだ。
そのショックにより、私は寝込みそこで、この世界が前世でプレイしていた乙女ゲーム「パンより愛を込めて~」だと言うことに気づいた。
そうして、乙女ゲームと同じように私は王都にある全寮制の貴族学校に入学することになったのだった。
前世でとっても大好きだったゲーム。
一番の推しはメインヒーローである王太子のアルフレッド様だ。
少し皮肉げに笑うところがかっこよかったことを覚えている。
それになにより、その声だ。
甘く蕩けるようなその声に私はハマってしまった。
その声で耳元で愛を囁いてもらいたいと思ったことも一度や二度ではない。
今まではゲームの中のことだったから体現できなかったが、ここは乙女ゲームの中の世界だ。
アルフレッド様を攻略すれば私の夢は叶うことだろう。
ここは是非ともアルフレッド様を攻略しなければならない。
それには最大のライバルであるアルフレッド様の婚約者のメリーチェ・マーガレット侯爵令嬢と張り合わなければならない。
メリーチェは王太子の婚約者でもあり侯爵令嬢でもあるため身分が高い。
そして気位も高い。
メリーチェのあの瞳に睨まれたら誰もが竦み上がってしまうだろう。
でも、私負けない。
アルフレッド様に耳元で愛を囁いてもらう ために、メリーチェに負けずにアルフレッド様を射止めるのだ。
大丈夫。
乙女ゲームはかなりやりこんでいるのだ。
アルフレッド様の攻略方法もイベントも全部覚えている。
この世界は乙女ゲームと一緒なのだ。
大丈夫。必ず今度こそ私の夢は叶えられるはず。
そう思って王都の全寮制の貴族学校に入学したのだけれども・・・。
☆☆☆
「メリーチェ、今日も君は女神様のようだね。」
「・・・アルフレッド様。今日から私たちは学生でございます。学生の本分は勉学でございます。」
「うん。そうだね。でも、こんなに美しいメリーチェが側にいるんだ。勉学よりも君を優先するのは当たり前だろう?」
私は目の前の光景に思わず目を擦った。
だって、目の前では王太子であるアルフレッド様と侯爵令嬢であるメリーチェがいちゃいちゃしているのだ。
どうしてだろうか・・・?
ゲームの中では二人あまり仲が良くなかったような気がするのだが・・・。
もしかして、この世界のアルフレッド様を攻略することはかなりハードなのではないのだろうか。
ちょっと前途多難だと感じたが、私は夢を叶えるためアルフレッド様の前に飛び出した。
だって、出会いは入学式が始まる前。
登校中にアルフレッド様と私、アリーチェがぶつかるところから始まるのだ。
まずはなんとしてでも、出会いをつくらなければ。
私はそう意気込んでアルフレッド様の前に飛び出したのだった。
「ぎゃっ!!!」
いけない、いけない。
可愛らしく「きゃっ!」って悲鳴をあげる予定だったのに、変な声が出てしまった。
でも、予定通りにアルフレッド様にふつかることが出来たわ。
これできっと出会いは上手くいくはずよね。
「大丈夫かい?」
「貴女、怪我はないかしら?」
「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。」
ぶつかった衝撃で倒れこんでしまった私は差し出された二つの手に掴まって立ち上がった。
って、あれ?
どうして手が二つ・・・?
立ち上がって私が掴んでいる手の先を見ていくと、アルフレッド様と悪役令嬢のメリーチェがいた。
えっと。
確かゲームでは、アルフレッド様は手を差しのべてくれたけど、メリーチェはこちらを冷たい瞳で見つめていたはず。
間違っても私に手を差し出すというようなことはなかったはずなのに。
そう思って困惑していると、アルフレッド様の顔が私に近づいてきた。
きゃっ!!
もしかして、アルフレッド様ったら出会ったばかりの私にキスをしてくれるのかしら。
婚約者のいる前で大胆ね。
さっき、アルフレッド様がメリーチェを口説いているように見えたのはきっと気のせいだったのね。
だって、出会ったばかりの私にキスをしようとしてくれるんだから。
私は、アルフレッド様とのキスにそなえてそっと目を閉じる。
「あっ!目を閉じないで。もっとよく見せて?」
目を閉じるとアルフレッド様のあまい声が聞こえてきた。
目を閉じない?
キスをするのに目を閉じないの・・・?
なんというか、それはとっても恥ずかしいわ。
でも、アルフレッド様が言うのならば・・・。
私はそっと目を開けた。
すると、そこにはにっこりと笑顔を浮かべているアルフレッド様がいた。
「やっぱり。」
そう言ってアルフレッド様は満足気に笑うと私から離れていった。
あ、あれ?
キスをしてくれるんじゃないの・・・?
確かに、ここでキスしてしまったら乙女ゲームのストーリーとはちょっと変わってしまうけど・・・。
でも、ちょっとくらいストーリーが変わったって大筋が変わらなければ問題ないじゃない。
って!なんでアルフレッド様ってば私の前でメリーチェの手を握っているの!
しかも、顔が近いわ。
「やっぱり。君とこの子の目はそっくりだ。それに、顔形もとてもよく似ているような気がする。」
どうやらアルフレッド様は私とメリーチェを比較していたようだ。
「でも、メリーチェの方が可愛いね。だからメリーチェ安心していいからね。」
って!
私(ヒロイン)よりもメリーチェ(悪役令嬢)の方が可愛いってどういうことかしら。
「あ、そう言えば君の名は?」
あ、アルフレッド様が私の名前を訊いてくれた。
これはやっぱり私に気があるってことだよね?
「アリーチェです。アリーチェ・エーデルワイスでございます。アルフレッド王太子殿下。」
私は教わった最敬礼でアルフレッド様に挨拶をする。
マナーは大事だからね。
そこ!アルフレッド様にわざとぶつかったのはマナー違反だなんて言わないでね。
あれはアルフレッド様との出会いに必要不可欠だったんだから。
私が名乗るとアルフレッド様は大きく頷いた。
「ああ。君がエーデルワイス男爵の一人娘か。」
どうやら、アルフレッド様は私の父のことを知っているようだ。
「はい。」
「君には癒しの魔力があると聞いている。どうか、この学院でよく学んで、後に国のためにつかえてほしい。」
「はい。アルフレッド様。」
アルフレッド様からの激励に私は深く礼をする。
アルフレッド様は私のことを気にかけてくださったのだろうか。
そうであればいいのに。
「アリーチェさん。入学式の会場まで一緒に行きませんこと?」
「え?」
メリーチェ悪役令嬢に、そう声をかけららた。
まさか、メリーチェから誘われるとは思わず驚きの声が出てしまった。
「嫌かしら?」
眉間に皺を寄せながら見てくるメリーチェに、私は首を横にふる。
「い、いいえ。そのようなことはございません。メリーチェ様に誘われた名誉にうち震えていたのでございます。」
私は視線を落としながらメリーチェに答える。
乙女ゲームでは、アルフレッド様から誘われたのに。
そうして、私はアルフレッド様と並んで入学式の会場に入り注目を得ることになるんだけど………。
この流れだとメリーチェと並んで入学式の会場に入って注目を得ることになりそうだ。
でも、メリーチェはアルフレッド様と一緒にいるから、もしかして三人で会場入り?
これはこれで、すごく目立ってしまうなぁ。
「アルフレッド。いいでしょう?」
「仕方ないね。私はメリーチェと二人で行きたかったのだけどね。」
「アリーチェと私の二人の間に挟まれるのもよいでしょう?」
「そうだね。メリーチェとアリーチェは良く似ているからね。私の両側にメリーチェがいると思えば………。」
あ、あれ?
私が会場まで一緒に行くことに関して納得はしてくれたみたいだけど、なんか思ってるのと違う。
私がおまけみたいじゃないの。
そこは、メリーチェがおまけになるんじゃないの?
なんだか、違和感が拭えないわ。
「アリーチェ。行きましょう。」
私はなぜかメリーチェに腕を組まれた。
「え?え?」
そうして混乱しているうちに歩き始めるので、引きずられないように歩くしかなかった。
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