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 翌朝の牧場は騒がしかった。美冬とその両親が空を見上げて騒いでいると、冬の厚い雲を散らしながら巨大な影が迫ってきた――母船だ! 空の彼方から白銀の母船が降りてきた。母船に気配に気づいたのは、美冬たちだけではなかった。浮遊する母船を感知した原住民の戦闘機が飛んできた。機体から発信された通信内容を傍受する。


≪こちらアローⅠ、未確認飛行物体を視認した。宇宙人エイリアンの襲来だ! 交戦許可を!≫


≪こちら管制室コントロール。機体カメラには何も映っていない。確認を求む≫


≪冗談だろう!? UFOが何か光線を発射してきた! うわぁぁああ!? 機体が消滅していく! 俺の体も!? 頼む! 救援を! 救援を――≫


 ブツリと通信が切れ、ノイズの音だけが少しだけ残る。

 母船の側部から物質転送テレポーテーションの光線が放たれていた。


 みょいんみょいんと、お茶目な効果音を響かせながら、光線で原始的な戦闘機を捉えて転送させていく。何か悲痛な叫びが聞こえたけど、おうちに帰るだけだから大丈夫よ、原住民のパイロットさん? まったくもう……アイツの仕業ね、大騒ぎさせちゃって。などと考えていると、美冬の両親が揺さぶってきた。


「美冬? 美冬! ボンヤリしてないで、早く逃げないと……!」


「えっ? あれっ? う、うん……? でも、何か大丈夫らしいよ?」


 おっと、私の思考が美冬に混線しちゃったかな。のんきに空の母船を眺める美冬を両親が必死に揺さぶってくる。……中に居る私も揺れるからやめてほしい。


「馬鹿言っちゃいけない! エイリアンが攻めてきてるんだぞ!?」


「そうなのかな……なんか、遊ばれてるだけな気がするんだけど……それより、秋人を見てない? 牛舎にいなかったの」


「こんな時に何言ってるの美冬!? 家畜はいいから、今は離れましょう!」


「うーん。でも、すごく気になるの。秋人を見つけなくちゃ……あっ! いたわ!」


 母船の底から、大げさな牽引光線トラクタービームが放たれていた。牧場の冬草を円形に圧し潰して図形を作りながら、地上で待機していた牛を引き上げていく。


 ぶもーと悲しげな声を響かせながら、秋人が空へと昇る。カウベルをリンリンと鳴らし、尻尾をパタパタと揺らしながら、秋人が宇宙の引力によって母船へ収容されていくのが見えた。


「秋人! あきひとー!? どこ行っちゃうの! 私を置いて行かないで!」


「やめなさい美冬! 宇宙人に誘拐エイリアン・アブダクションされてしまうぞ! 母さん手伝って!」


「任せて! こんな時は……そうね! 落ち着ける曲でも流してくるわね!」


「何言ってるんだ母さん!? ふたりとも混乱するのはやめなさい!」


 駆けだしそうにな美冬を必死に押さえる父を置いて、母が牧場に音楽を鳴らしに行った。ひび割れたスピーカーから、のどかなウェスタンソングが流れてくる。インディアンの愛の歌だ。寒々とした牧場の上空で母船が鈍く輝く中、音楽が響く。


 すべてを愛しい人に捧げる愛の呼び声が高らかに響き渡る。

 ラブコールが届く時、あなたはわたしのものに、わたしはあなたのものになる――

 牽引されて宙を舞う秋人が、音楽を聞きながら悲しげな瞳で美冬を見つめていた。


 心地良い音の周波数は、私の中にも届いた。……ええ、そうね。必ずあなたを美冬に捧げるわ……牧歌的な曲が、美冬の興奮も冷ましていく。見上げた空では、母船が追加で現れた原住民の戦闘機と共に、楽しそうに揺れながら遊んでいた。


 母船はこの星の航空力学を無視した軌道で動き回り、放たれたミサイルをかわしたり、時にはシールドで防ぎながら光線を浴びせていく。溶けるように光の中へ消え去る原住民の戦闘機をあざ笑いながら、母船はトラクタービームで秋人を引き寄せた後も、雪の残る地上の冬草に奇妙な円形ミステリーサークルを描き続けていた。


 母船は白銀の煌めきを魅せながら、ゆらゆらと動いて中で準備をはじめていた。

 全ての戦闘機を処理した母船は、最後に一筋の閃光を地上に向けて強く放つ。

 そして他に何をすることもなく、空の彼方へ飛び去って消えてしまった。

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