雪を溶く熱線

既知との遭遇

 明日、新しい牛が来ることになったらしい。

 突然のことだけど仕方ない。いつもの作業を終えてから、念入りに牛舎を掃除していく。虫がたかって感覚を邪魔してくる夏よりマシだけど、冬のかじかむ寒さもツラい。震える手先の動きを微調整しながら掃除を終えさせ、飼料庫に明日のためのエサを取りに行く頃には夜が更けていた。雪の降る夜の田舎道を美冬の体が歩いていく。


 老朽化した街灯が点灯と消灯を繰り返し、ゆっくりと揺れ落ちる雪と、白く染まる冬草をチカチカと照らしだした。まるで浮遊する小惑星群と何かの信号みたいだなぁと、美冬の中で懐かしみ微笑んでいると、鈴の音が聞こえてきた。


 ――リン、と身に着ける鈴を鳴らして現れたのは、寝ていたはずの秋人だった。

 あれ? いつ逃げ出したのかな、と不審に思う美冬の中の私に、声が届く。


≪やぁ。聞こえるかい?≫


 これまで使用せず、錆び付かせていた私の生の感覚に、懐かしい声が響いてきた。眼光を赤く輝かせる秋人を視界に収めた私は、震える手足をコントロールする事も忘れるほどに動揺してしまった。悲鳴を上げたりしないように、すぐさま美冬の感覚を消去する。私は嫌な予感を感じつつ、目を光らせて彼と交信した。


≪どうしたの、こんな夜更けに……接触は禁じられていたはずよ?≫


 秋人は動揺ひとつ見せず、黒い瞳を赤く発光させながら私の中に話しかけてくる。


≪上から連絡があってね。明日の朝、ここから離れることになった。任務完了だ≫


 唸り声を響かせる秋人の中にいる彼は、私に別れを告げてきた……もう、貴方はいつも突然だし勝手だわ。そう呆れながらも、秋人が可愛かった頃から世話をしてきた思い出の保存領域を参照していった。美冬の体で飼い葉を与えた日々も、今は良い思い出ね……最近の美冬は、手のかからない秋人の世話はしてなかったみたいだけど。


 私は秋人の最後の姿を記録するために、赤色光線で照らしながら交信を続ける。


≪そう……残念ね。もう秋人の世話をする事はできなくなるわね≫


≪うん。こいつはもう十分に育ったからね。明日、$B%^!<%:(Bに戻るよ。だから、最後の世話もお願いしたい≫


 秋人は育ちきった体を揺らしながら、宇宙の深淵を思わせる瞳を私に向けてきた。


≪最後の……? 普通に出発しないの?≫


≪上は原住民の反応を見たいらしくてね。ボクからも色々と提案させてもらったよ。……美冬のレポートが届くのを楽しみに待ってる≫


 交信を終え、秋人は鈴を鳴らしながら冬草の中を進んでいく。私は彼と言葉を交わす事も出来ず、雄々しい秋人の尻尾をただ見つめ続ける事しかできなかった。私の制御下から離れた美冬が、いぶかしみながら飼料庫からエサを運んでいく……

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