腕に力が入らない。

 力を入れているはずなのに、身体はまったく動かない。

「……これは返してもらうよ?」

 そう言い、彼はドラコの落とした剣を拾い上げる。

 刀身の表面は灰色でほのかに赤みが見える。赤灰石の特徴だ。

 刃の波紋は美しく、装飾や掘られた模様はまさにたくみと言える。

 敵の武具ながら、「美しい……」と称賛な言葉が自然ともれでてしまう。

「さて……君をこれからどうしたものか。ねぇ?【竜眼】の――〝ドラコくん〟?」

「うるさい……殺すなら、さっさとしろ!」

「その威勢のよさ。敵にも、殺すにもすこし惜しいと思ってしまうよ」


 ケビルはドラコの耳元に口を近づけ、彼以外の誰にも聞こえぬよう小言で告げた。

「君の、臆病者の〝お父さん〟とは大違いだ」


「てめェ!!」目を血走りさせて、ドラコは奴の首元へ噛みつこうと――

 しかし彼が動きを見せるなり【白氷の冴え】はまたしても、その背、体内から氷柱が飛びだす。

「ぐはッ!」

 この感じ、肺を貫かれたらしい。

 息ぐるしい……

「どうする?そのまま失血と呼吸困難で死ぬか。それとも――」

 【白氷の冴え】はこの剣に魔法を流し込んでゆく。赤灰石は魔法を吸収する性質、刀身はどんどんと氷を纏ってゆき――ついには、鋭利な氷の刃となる。

「この剣で貫かれて死ぬか。選ぶ権利は君にある」

「……」

 この喉奥から声をひり出そうと奮闘するも、思うように呼吸が出来ない以上その口からは〝ひゅーひゅー〟と息が漏れ聞こえるだけだった。


「どうか!命だけは見逃してくれ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る