「正解だ……」


〝それも――随分と遠い正解だがね?〟と彼は影でほくそ笑む。


 ドラコが颯爽と駆け抜ける間ですら、その肩に食い込む氷はその凍る範囲をじわじわと浸食してゆく。浸食が進むたびに肌は裂かれる痛みに悲鳴をあげていた。

 歯を食いしばり、もつれそうになる足を必死に保ちながら突っ走るドラコ。


 奴を間合いに入るや否やに恨みと共に強く握りしめるこのエレメンタル・ウェポンの刃を振り上げる。

 その様子を動じることも身構えることもなしに、ただそこに悠々として立ち尽くして柔和な雰囲気と笑顔に鬼気迫るドラコを見守る【白氷の冴え】ケビル。

 その行為はなにかの策略か?

 はたまたはただの馬鹿なのか……

 ドラコの答えは――『どっちだって構わねぇよッ!!』ただ復讐心のすべてを籠めた刃を振り落とすだだけなのだから。


「良い気迫だけど、残念でした」

 パチンッ!と指を弾く音が聞こえた。


「ドラコ?」直後、ジャレは目を疑う光景を目の当たりにする。

 あれほど勇ましく剣を振るい落していた彼が、次の刹那には〝彼自身〟が濡れた泥土に倒れ込んでいたのである。


「がふッ!……こ、れは!?」

 どうして自分でも突然倒れ込んでしまったのか。

 それは自分自身を見て合点がいった。

 ゆっくりと恐る恐ると痛みの来るこの胸へと視線を下げる。そこには氷柱の尖鋭な先端が貫かれていた。それもこの氷柱は〝身体内〟から飛び出ているようだった。


 そこに倒れ込むドラコにしゃがみ込んで声をかける【白氷の冴え】

「その氷柱が身体に食い込んだ時点で――〝僕の勝ち〟だったんだ。氷柱は皮膚を浸食したのではなく、むしろ内部を浸食し、君の生命を凍結させた。倒れ込んだのは脊椎神経に到達したからだよ」

「くつ!!」

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