息を呑み、言葉が詰まる。

 この男に先ほどまであったはずの柔和でいて、誠実な笑顔は消え去り、いまここにあるのは氷の様な冷酷な視線と無表情だけだった。

 その無表情から漂ってくる殺気は霧氷のようにじわじわと、この胸中を冷やしては締めつける。


「これは、我らが王のご考えでもあられる。我らが王にして〝アル〟は、我らが聖域にこれ以上の穢れが流れる事を嫌うのだと――」

「わ、分かったよ……そう凄んでくれるなよな、クソケビル!」

 と悪態をつきながらも彼女は背を向け下がっていった。

 

〝異名――【白氷はくひょうえ】のケビル〟

 それが彼の名だ。

 全身を雪のごとく純白のスーツに身をつつみ。そのスーツの所々に甲冑鎧が取り付けられているが、それはほとんど装飾的で、機能性を感じられない。

 それに甲冑の銀色輝く表面には優美な彫刻をほどこす。それはそれだけ彼の高貴なる位を表しているのだろう。

『戦場ではなんの優位性も得られることはないと言うのに……』と誰かが言った言葉だ。

 いささかに彼は戦場に不向きな出自に思えるが、戦場に彼が立てば残るのは――

 霜枯れた草木と、凍り、砕かれた人の氷塊のみだ。

 ゆえに戦場での呼び名は――【冷凍の執行人】とも呼ばれる。


「ははは。すまないな」と言う苦笑いを浮かべる彼は、いつもと同じに戻っていた。

「さて……」逸れた話しを戻すケビル。「どうかな?悪くはない取引だろ?君たちも武器は失うが、この取引を口外しなければ〝名誉〟を失うことはない」

「そう言っておいて、べらべら喋るんだろ?」

「まさか!」驚く【白氷の冴え】ケビル。

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