〝はぁ~…やれやれですよ〟

 鬱蒼とした雨降る夜の暗がりから気だるげな声を聞いた。


「なにッ!?」

 〝突如として〟現れたこれに、ジャレは大層に驚いていた。

 彼女の頭上へ叩き落としたはずの棍棒は〝氷壁〟によって遮られ、氷のなかに棍棒は閉じこめられてしまう。


 氷はさらに浸食してくる。

 このまま手に掴んでいれば、自分の腕も氷に閉じ込められて――

「くっ!!!」

 表情の青ざめるジャレ。彼は見た、氷に閉じ込められた腕がガラス細工のように砕ける様を……

 

「流石は――【老牙】の異名だ。経験値は桁違いのようですね?」


「お、お前は!?」

「貴方が、どうしてここに?」

 夜よりも暗い物陰から姿を現す人影に、二人して驚いていた。

【老牙】からすれば最悪の状況から驚き。

【暴風の巨人】からすれば、意外な登場に驚いた。

 と言うところだが…


 その一方で――

【焔の魔人】の執拗なまでの追撃を逃れた【竜眼】のドラコ、と――


「うぐッ!」

「ベンっ!?」

 痛みに耐え切れず体勢は崩れ、片膝を折るのは【封魔の盾】のベンだ。


 数分前……


「お礼に撃ち込む〝トドメの一撃〟ってやつさ♪」

 彼女がそのトリガーを引いた。その瞬間、砲口から弾ける火花と、それは歪みの一切とない肩癖な球体の炎、それが撃ちだされるのが見えた。

『死を前にしてそれはゆっくりと見える』とはよく聞いた迷信だと思っていたが…

「本当だったんだな……」

 ゆっくりと撃ち出される火球に、ゆっくりと迫るそれをただまじまじと見つめる。それが時間を堪能さえしようとする自分が居ることに気付くドラコ。

 不思議にも思えた。

 焦りも恐怖もこの心にはなかった。

 走馬灯ですらも脳裏には浮かばない……

 

 

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