『宙(そら)へと飛び立った竜と賢者は――』

 地上を覆って渦巻く黒い雲のなかを〝ライ〟は眩く煌めき、「ゴロゴロ!」と轟き、目にも止まらぬ縦横無尽に駆ける。竜はそれを掴んでは月へと放った。

 放たれた〝雷〟は月を穿うがった。月は砕け、その破片は大地に降りそそぐ。 

 それは腐敗の世のすべてを吹き飛ばした。

 人も、病も、腐りきった圧政も、争いも、なにもかを――

 竜は静寂となった世界に舞い戻った。


 地をながるるヒトの血から賢者は〝竜人〟を生み――彼らに魔法を授けた。

 竜は生き残りしものに〝果実〟を与えた。それは〝屈強なる果実〟だ――彼らに武術を授けた。


 竜人も人も争いもなく、賢者アルを慈しみ、竜を慈しみ。この世界を愛していました。

 しかし――それもながくとは続きませんでした。

 ある日、賢者アルが殺された。

『殺したのは〝竜人〟だと、人は言う』

『殺したのは〝人〟だと、竜人は言う』


 言い争いはいつしか、互いに武器を取らせ、その手を血で染めていた。

 血みどろに染まりゆく、その光景を哀れみた竜は言った。

『この世界はまたしても腐り、賢者アルの恵みを穢す。なれば我は再びに〝再生〟を果たそう』と。

 竜はそう言い残し、宙の穴へ飛び去った。

 帰還を我らは待とう。勝利の美酒と讃美歌とともに……


「また、そんな下らねえお伽話しを読んでるのか?」

「??」

 その声に驚きを見せる訳でもなく、凛とした無表情を声の聞こえた方へと向けると――

「よっ!」と、軽快なあいさつをするのは凛と整った顔つきだが、その表情と目付きには『男勝り』と言う文字がはっきりと見える。髪型もツーブロックと奇抜だ。

 自分の数少ない友人でも彼女は唯一無二だ。


 

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