そこには【竜の九騎士】がいた。

 一瞬、度肝をぬかれて目を見開いたが、それには理由わけがあった。

『彼らと相まみえるのは稀有だ』からだ。

 彼ら、我らが王により選りすぐりされた十三人の尖鋭隊だ。その所属は武術軍としながらも、彼らは決して戦地に赴くことはない。

 彼らの任はただ唯一の……


『我らが王を、護り抜くこと』それだけが任である。


 ゆえにその彼らの素性も知れない。彼、彼女らは皆、白銀の煌びやかな鎧を身に纏い、騎士たる威厳を見せつけ、その顔は竜の頭を模した仮面にて隠す。

 まさしく〝謎のベール〟に包まれて……と、いう奴だ。

  

 そんな謎のベールから時として、風のウワサが流れることもしばしばだ。

 なんでも『王の命令とあれば、暗殺から強奪まで意図もた易く行う従順さ』だとかなんとか……


 エレクスは竜の騎士へ深々と頭をさげ、それは敬虔けいけんな一礼を送る。

「ハッ!その通りにございます。此度は【竜眼】のドラコ、その彼の――軍法違反の決議に赴いた次第にございます」


 竜の顔をした仮面がゆっくりと二度ほどうなづいた。

「相分かった。して――貴殿が【竜眼】のドラコなるか?」

 彼が言葉を発するたび、この場の空気は緊張感に重みが増してゆくように感じられた。

「は、はい。そうです……りゅ、【竜眼】のドラコ。我らが王の召喚に応じ、ここへ」

「……」

 仮面からじっとこちらを凝視する彼の瞳。

 その瞳、その片目は【竜のひとみ】を発症していた。

【竜のひとみ】――

 それは時稀まれに現れる症例だ。医学論では、これを遺伝子や成長ホルモンのバランスが何らかの形で瞳に現れたもの。とされている。

 人体に多大なる影響を及ぼした事例はなく、視力低下ならびに、失明のリスクもない。

 言えば、泣きほくろが顔に出来た。それと同じだ。


 その瞳の色素が黄昏時の小麦畑のような黄金色へ変色し、瞳孔がするどくなる。と言うだけのことだ。

 

 しかし、この症名から敬虔けいけんな竜神と賢者アルの信徒はいつもこう言うのだ。

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