「ありがとうございます」

 すれ違い様に頭を下げ、礼を失せぬエニー。

 バタン。扉の閉まる音が妙におおきく響いた病室。さっきまで心地よく吹き込んでいた風も止み、ふたりの間に言葉はなくてただただ不気味なまでの静寂と緊張感がこの場をつつんでいた。


「さて……」


 エニーはそこに置かれた一脚の木椅子に腰をゆっくりと下ろした。

 その顔は終始、優し気に笑んでいた。

 が、どこか〝裏〟を感じてしまう笑い方だった。


 アイツのような……


「ドラコ?」

 声が聞こえ、ふと我に戻る。アイツのことを思い出すとどうしても、心ここに有らずになってしまう。

「ん?どうしたんだ?」

「まだ傷が痛むのか?散漫としていたようだが……」

 彼の覗き込んでくるその瞳は、既に、〝見透かしている〟ように見えた。

 ドラコはそれでも装い、「少し、な?」と言葉を返す。

「そうか……」淡白な返事。

 二呼吸半、ほどの間を空けて、エニーはようやく口を開く。


「今回の一件、どうして〝あのような行動を?〟」


「あのような?どういう行動だ?」あえて白を切ったドラコ。

「〝復讐〟……か?」

「!!?」

「そんな事の為に、戦場で仲間を危険に晒したと言うのか?」

「俺にとっては……〝そんな事じゃ〟ないんだ」

「そうだとしても、仲間を危機に晒していいはずはない。お前は――『武術軍法の第12項に違反した』容疑に掛けられている」

「なんだってッ!?軍法違反!?俺が!?」

「その話しの為にここに来たんだ。これは――」


〝――我らが王の決定なされたことだ――〟


「納得……できるかよ!俺はアイツらを危険には晒してないし……その……その逆だ!俺はアイツらをまも――」


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