竜は激怒した。

 その翼を広げれば、たちまちに暗澹たる雷雲が空を覆いとぐろ巻くように渦を描く。大気は震え、遠雷は止むことを知らず。

 口からほとばしるる灼熱は、この病んだ肌ですら熱く感じる。

「これほどのお力――あなた様はやはり〝創造神〟に相応しい――」

 竜は言う。

「我は創造者にあらず!!我は破壊の神にして、この炎で世界を混沌と焼き尽くすのみぞ!」

 竜が天へとその筋肉隆々とした手を伸ばせば、空から稲妻が手に落ちて、それを掴んだのである。雷神のように――

 賢者アルはその姿に感嘆し、敬愛する。

「今宵は――良き月光の翳りが、貴方様を祝福いたしますように――」

 その懐から取り出された一本の杖、その杖は白銀色の鋼を輝かす。

 それを大事そうに両手で握りしめながら、この竜へと祈りを捧げた。されどこの竜は〝邪竜〟。

 腹を立て、その雷を天罰がごとく賢者アルの頭上へと叩き落とした。


 地面に打ちつけられた雷は、地を裂き、大地を揺らす。

 そこに賢者アルの姿はなく、在るのはただの黒ずみと、〝白銀の杖〟のみ。


 気が晴れたかに思えたが、心の奥底では罪悪感の方が強く芽生えているのを感じた。このような感覚は初めてのこと。

 人をこれまで「ゴミのようだ!」と燃やし尽くしてきたが、彼女にだけはどうしてなのか、罪悪感がある。

 人から敬愛をもたれたのが初めてだったからなのか……

 気が付けば竜は、杖と地面にこべりついた黒灰くろずみを拾い上げる、それにこの炎を吹き付けた。

 炎は炭に命を授け、人のカタチへと成していった。


 その人は、肌の所々に鱗があり、角が変えていた。

【竜人】の誕生である。

 竜人となったアルは言った。

「どうして私を蘇らせたのです?」

 竜は彼女に伝えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る