振り返るとそこに――

 ひとりの熟練兵が厳しい顔つきに物憂げな瞳でこちらをみつめていた。

 彼は伝説の老兵にして、その名も――【老牙ろうが・ジャレ】――と言う。

 彼もこの戦時に負傷したのだろう、額や頬には血の跡が。

「なに、これは仲間の血だ。儂は大したことない」と彼は首を横にふった。

「にしても、ひどい有り様だな……これほどの負傷者を出すのは久方ぶりじゃ」

「ああ……」

 辺りを見回す。まるで野戦病院のようだ、中は血液に混じる鉄の臭いが充満し、傷の痛みによるうめき声が小さく聞こえてきていた。

「して――これをどう思う?〝ドラコ〟?」

「あまり良くない、被害が甚大すぎだ。仲間を、失い過ぎた……」

 ドラコ、己が非力さに下唇を噛みしめていた。

 作戦に向かう時、この馬戦車、名を【タボット】が三台に兵士は二十名ほど。

 それが今ではこの駐屯地へ逃げるタボット一台に、兵は〝五人〟だけだ。

 

 今回の作戦――『敵地工場の破壊と武具の奪取』――だった。

 敵領地境界線近くに武器の生産工場がある。との偵察隊からの報を受けた王都・本部からの直々の通達で赴いたこの地だったが――

 敵の待ち伏せに遭遇し、隊は壊滅状態、生き残りは命からがらタボットへ乗り込んで――今に至る。と言うわけだ。


 しかし、それにしても……

 ……コ……

 ……ど……ラコ……

 

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