第64話 本城カレン

 本城カレンが黒髪のツインテールをなびかせて激しいダンスを舞った。

 


 メジャーデビュー曲の『マイ ダーリン』だ。

 ポップで軽快なアイドルソングの王道と言って良い。



 サビから入るので、一気に会場はクライマックスだ。


 ライブ会場に男性ファンのコールが鳴り響いた。



「僕が、『推しメン』だったアイドルの本城カレンだ」

 カレンのダンスを見つめていた。

 何ヵ月ぶりだろう。



 こうして、カレンのライブを観るのは……。 



 カレンの笑顔を観ていると悲しくて胸が絞めつけられる。

 自分でも目が潤んで来るのが解かった。




「ぶゥ~~……😡⚡ そんなのロリちゃんは見たくない❗❗」

 怒って頬を膨らませ、プイッとそっぽを向いた。



「いや……、頼むから観てくれ。

 ロリータが着ているその衣裳は、この時のライブのレプリカだよ❗❗」



「えェ……❓」チラッと視線をテレビに向けた。



「カレンは…… このデビューイベントの数ヵ月後に亡くなったんだ」

 


「う、ウソォ~~ー……😲💦💦」

 思わずロリータが叫んだ。



「ああ…… 僕だってウソだと思いたいさ」

 つくづく辛い想い出だ。

 三年経った今でも、あの事件は悪夢としか思えない。



 カレンが歌い踊る姿を観るたびに、あのまわしい事件が思い出された。



 地下アイドルとして活躍し、ようやくメジャーデビューしたと言うのに、ストーカーに襲われ結果的に自ら命を絶った。




 生きていれば、本城カレンも今年で二十歳になる。



 もう二度とカレンに出逢えた頃のような気持ちにはならないだろう。



 あれほど身を焦がすような恋をする事もない。

 今日まで、そう思っていた。






 今日、雨の公園でロリータに出逢うまでは……。








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