第41話 剣と魔法、特殊スキルは要らない

「ほっこり!」

「じんわり!」

「こっくり!」

「へそくり!」

「ひょっこり!」

「五人合わせて! リレンジャー!」

 語尾に「り」が着くからである。

「カット! 面白くない!」

 真理亜監督の厳しい声が飛ぶ。

「おまえたち! それでイケメンユニットとして活動していくつもりか!?」

 真理亜からすると戦隊ヒーローもバンドグループも同じである。例えるとももクロなんかは、そういうノリであったはず。

「どうやら展開に無理があったみたいね。」

 バッサリと切り捨てる楓。

「こらこら、私たちはマッドサイエンティストか?」

「違うわ。それを超えた存在よ。」

「コワ・・・・・・。」

 妹に恐怖する姉。

「なんかもう、剣と魔法、特殊スキルの世界に疲れちゃった。ああ~、早く人間になりたい。」

 その時、アイデアの神が舞い降りる。

「それよ! それ! 普通の人間でいいのよ!」

「といいますと?」

「ほっこりとじんわりに剣と魔法、特殊スキルはいらない! ということよ。」

「ええ!? なんですと!?」

 楓の粋な提案である。

「例えると、ラブライブサンシャインで堕天使ヨハネと同じよ。一般大衆からすると廃れてきた剣と魔法、特殊スキルの世界など、9割以上の人からすると関係ない。気持ち悪い。痛い。どうでもいい世界ということよ!」

「た、確かに!? ドラクエ3の発売日に大行列ができたのも20年以上前だろうし。もう剣と魔法と特殊スキルの時代は終わったのね。」

「求められているのは、普通の人間。」

「そうか、タイキックも、もう要らないんだ・・・・・・寂しいな。」

 じんわりと哀愁の漂う背中で語る真理亜。

「いいじゃない。これで得体の知れない者と戦わなくていいんだから。」

「やったー! 平和が一番!」

 ほっこりと喜ぶ真理亜。

「ところで楓。」

「なによ? お姉ちゃん。」

「戦いを無しにして、物語は生まれるのかい?」

「大丈夫。剣と魔法を言葉に置き換えればいいのよ。」

「言葉?」

「剣と魔法などの暴力シーンはPTAから苦情がくる。そこで必要なのはアクションよ。」

「アクション?」

「例えると名探偵コナンは探偵モノ。頭を使って事件の犯人を追い詰めていく。それが戦いよ。それだけだと動きが無くて、つまらないので、サッカーボールを蹴って犯人を捕まえたり、必殺仕事人みたいに首に麻酔針を打ち込むのよ。それがアクションよ。」

「すごい! そういうことか! 別にかめはめ波やゴムゴムの実を登場させなくても、普通の人間でも物語ができるのね。」

「その通り。ビームライフルなんて要らないのよ。CG作成の方が制作料が高いんだから。アイドルを出演させるドラマだけ作っておけば、大人の事情で楽に人気のある物語が作れるのよ。」

「人気アニメや人気漫画の実写版ばっかりなのは、そのためか。」

「新しい物を生み出すより、ロナ・ウイルスから人の命を守るより、お金儲けの方が大事なのよ。大人なんて。」

「なんだか分かってスッキリした。アハッ!」

 ほっこりする真理亜。

「お姉ちゃんが単純で良かった。」

 じんわりする楓。

「でも、本当にほっこりとじんわりだけで物語が成立するのかしら?」

「日常ならサザエさんとかクレヨンしんちゃんでも成立してるわよ。」

「やはり、ここは剣と魔法を復活させるしかない!?」

「却下。」

「ガーン!?」

「剣と魔法をしようすると市場の1割しか相手ができない。残りの9割の一般人を対象にした普通の人間の物語の方がいいでしょう。」

「そんな!? 私の剣と魔法が闇に葬り去られるなんて!?」

 じんわりする真理亜。

「普通の物語の方がお金が儲かるわよ。」

「さよなら! 剣と魔法! アハッ!」

 ほっこりする真理亜。

「お姉ちゃん、分かりやすい。」

 げっそりする楓。

「逆に剣と魔法の世界に普通の人間がいるというのはありですか?」

「それは面白いわね。普通の人間が勇者のパーティーで魔王を倒せるのか? ってやつよね。」

「ただいま! 剣と魔法!」

「尻が軽いわね。お姉ちゃん。」

「アハッ!」

 やはり剣と魔法の世界から抜け出せないのか?

「でも、きっと人間は剣と魔法が使えなくなったら、化学兵器を作りだすわよ。」

「そうか!? 現代人は剣と魔法を化学兵器に置き換えたのか!?」

「もっと最悪なのは、新型ロナ・ウイルスみたいな細菌兵器よ。」

「細菌兵器!?」

「人類の進化に戦争は付き物なのよね。」

「本当に人間は戦いが好きだね。どれだけ戦えば、飽きがやって来るのか?」

 ぜんぜん、ほっこり、じんわりしていないことに気づく。

「もう世間話だけを面白おかしく書いていれば、ほっこりと、じんわりは大丈夫なような気がしてきた。」

「今度は1ドルを拾って、ほっこり。それを交番に届けて、1ドルを落とした外国人と奇跡の涙涙の再会で、良かったと、じんわり。これしかない!」

「アハッ!」

 真理亜の夢が花開くのはいつのことやら?

 つづく。

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