最終話 最終章 マイト、ここに爆誕すッ――!



どれだけ走っただろうか……



すっかり会議長の姿も見えなくなった今――



馬車の行列は平原を貫く道の上を突き進んでいく……



やがて――



道は二手の分かれ道に差し掛かった。



「ここからは別行動にしよう。」



俺は皆に向けて、そう提案する。



「アンタたちはどこか新天地を見つけてくれ。

それだけの財宝があるんだ。たぶん大丈夫だろ。」



しかし、それを聞いたカルミネは、何が不満だったのか――



なぜか慌てて異議を唱えだした……



「待ってくれよ!アンタも一緒に来いよ!」


なんで?


俺はなぜカルミネがそんなことを言ってくるのかが分からず、思わずセタスの顔を見てしまった。


するとセタスは一瞬俺の顔をチラリと見ると――



「ダメだ。」



そうカルミネに告げる。



「マイトは今後、恐らく指名手配されるだろう。

だからコイツといると皆に危険が及ぶぞ?」



セタスはそう言って、確認するかのように、もう一度俺の顔をチラ見した。



「……え、ああ、うん。

……そう言う事。」


まあ、合ってる。


まあ、俺の思考はちゃんと読んでくれてる。


てか、俺の思考読むな。



「だけど……」


しかしカルミネは尚も不満げだ。


するとどうしたことか……




奴は全く意味不明な事を言い出したのだ。





「だったら……俺も連れていってくれ!」







「はあ?」



思わず変な声が出る。


「俺……アンタに付いていきたいんだ!

アンタといれば……なんか、こう……楽しそうな気がする!」



え、待って。話が急展開すぎ……



そして――


それだけに事足りず――


奴はさらにとんでもない一言を言ってきた……




「兄貴って……呼ばせてくれ!」






「ハア⁉」



そう尋ねてきたカルミネに、俺の口はもはやポカンと大きく開ききってしまい……



「……どうやら、懐かれちまったようだな」


セタスが茶化す様に言ってきた。


「へへへ……」


いまだ訳も分からず、俺は呆然としていた。


奴は何だか気持ち悪い笑みを浮かべて自分の頭をなでなでしている。



困ったもんだ……



「こいつらの面倒は俺が見るよ。」


今度はセタスがそんなことを言ってきた。


「お前……でも……」


「皆が自給自足で生活出来るようになったら俺も自由にするさ――

それに俺、もともと隔離区の人間だよ?」


奴の言葉に、俺は無造作に頭をボリボリ掻いた。


「分かった。じゃあ頼むよ。」


渋々と言った様子で、そう告げる。


そして……馬車は行列と、一台のみ別々の方向へと進むことになったのだった……




別れ際――




「マイト!」



「なに?」


セタスが俺を呼び止める。


「あのさ……」


見ると、奴は何だか照れくさそうに頭を掻きながら……



「ありがとな。」



急にそんなことを、言い出した。


「あ、ああ。まあお前だけあの街に残すわけにもいかなかったし……

なによりお前の力も必要だったしさ。」


救い出してくれた事への礼を言ってきたのだろう――


「あ、いや、違う。

いや……もちろんそれもあるんだけどよ。」


が、どうやら違ったらしい……


だったら何の礼なんだ?


俺が気になりつつ、奴の顔を見ていると……


「あの、実はさ。

俺……今まで、自分ひとりだけ生き延びてきたことに、何ていうか……

……罪悪感?……を、感じてたんだけどよ。」


セタスは尚も照れくさいのか、俺と目も合わさずに話し続ける。



「お前のおかげで……こうやって同族の奴らを助ける事が出来た……

俺……これでちょっとは、その……罪悪感が晴れたって言うか……」



……なんだよ、それ。



目の前でモジモジしているセタスを見て、俺はふと笑いが込み上げてしまう。



やっぱコイツ、気にしてたんじゃねえか。



「何言ってんだ。」



俺はセタスの胸に



ポン――



と、拳をぶつける。



「お前、これからはその同族引っ張って行かなきゃなんねんだぞ?」



生き延びる為とは言え、同族殺してきた罪悪感はなかなか消えねえだろ。


だから――





「罪悪感全部消えるまで、これからもしっかり働けや。」





そう言ってやった。



「…………おうッ」


セタスも威勢良くそう応えて――



その時になってやっと俺と目を合わせてくれた……





そうして――



俺達は別々の道を走り出す。



同じ方向を走り――しかし次第に俺達と距離が開いていく馬車群の中に、馬に鞭打つセタスの姿が見えた。




奴は俺の視線に気が付くと――




片手をあげて俺に別れを告げる。




俺もそれに応じ、軽く手を上げてみる。


その時には俺達の距離は既に離れすぎていて、



セタスの表情はもう、見えなくなっていた……






「…………。」



二人きりになった馬車の中――


ほとんどの金貨をセタス達に渡したため、俺達の馬車は荷台の底が見えるくらいになっていた。


まあ、こっちは二人しかいない。


これくらいの金貨で十分足りるだろう。




すると




「いやあ……ホンット最高だぜ。」




ふと御者席の方から――


カルミネの陽気な声が聞こえてきた。



「すべてアンタのおかげだ!兄貴!」


結局、奴は俺を兄貴呼ばわりするみたいだ。




まあ……別にいいか。




「……なあ。」



俺は力の抜けたような声を、一つ放った。



「一つ、聞いていいか?」



俺には、ほんの些細な事だけど、ちょっと気になったことがあったんだ。




「お前さあ……クリスタのアバズレもそうだったけど……

なんで一人も殺さなかったんだ?」




俺の質問に、奴は少し黙った後……



「なんか……キリがねえなって思って……」



言葉の真意が分からず、俺は無言で続きを促す。


「俺、どっかで変わりたかったんだ……

俺、今まで散々殺したり奪ったり、してきたから……

いつかここから抜け出さねえと――

いつまでたってもこのどん底から逃れられねえんじゃねえかって……」



そうか、こいつも……



そこで――



俺はふと、隔離区での事を思い出す……





コイツが最後に放った一撃、あれを外したのって……





まさか……






…………




まあ――




別に良いか……



俺はそう思い、再びカルミネから視線を放す。



「……なあ。」



しかし、何故か憂鬱な気分になっている俺は、また目も向けず奴に問いかけた。




「本当に……これでよかったのかな?」


「ああ……⁉」




馬車を操っているカルミネが、背中越しにそう聞き返してきた。



「俺は結局――皆から必要とされたかったんだよ……」



興奮状態が解けたからだろうか、何だか身体が重く、だるい……



「結局――俺には勇者としての資格なんてなかったのかもな……」



そんな俺に――




「何言ってんだ!」




奴の元気な声が飛んでくる。




「兄貴は俺達の運命を変えてくれた!


……俺達を救ってくれたんだ!」



奴は心底楽しそうだ。




「皆が兄貴を魔王扱いしようが――




――兄貴は俺達にとっての勇者だよ!」




そんな――問答無用と言わんばかりの奴の言葉を聞いてると……何だか自然と顔が緩んじまう。



「まあ、でもよ……」


カルミネは尚も続ける。





「どっちでもいいと思うぜ?」





見上げると、カルミネのデカい背中がそこにある。



「さっき会議長にも言ってただろ?

正義がどうとか、悪がどうとか……」



確かに言っていたな……




「別に勇者でも魔王でもどっちでもいいじゃねえか!

いや、兄貴はどっちでもねえよ!

俺に取っちゃあ兄貴はただの俺の兄貴で――

そして――




……ただのマイトだ!」






「プッ……なんだそれ。」


奴の言い方が何だかおかしくて、俺は不意に吹き出してしまった。




そして、再び俺は奴から目を逸らすと――



カルミネに聞こえるかどうかの声で……呟いた。












「マイト、ここに爆誕すッ――ってか……」



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俺が神から授かった力。それは、世界を消滅させる能力。 そーた @sugahara3590

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