27話 最終章 マイト、ここに爆誕すッ――!



俺は今、金貨の山に座っている。




俺達の尻の下は、眩いばかりの金貨で溢れており、そんなゴージャス極まりない空間に、俺はついつい口をだらしなく歪めてしまう。



そんな中で――



何気なく手に取った一枚の金貨。



「なあ……」



俺はだらけたような、そんな声を投げかけると――



その金貨を、乱暴に目の前の人物に投げつけた……



「会議長さんよ……」



しかし狙いの外れた金貨は奴の顔のすぐそばに跳ね返り、会議長は顔を顰めるも、俺と目を合わせられないでいた。



「俺がどうしてこんなことしたか分かるか?」



俺の目も、奴の事など興味が無いように――



ただ下に敷き詰められた金貨たちをボーっと眺めている。



それでも俺は、ふと奴の顔を一瞥した。



何か言えよ――と言わんばかりに。



「わしの行いについては全て償おう。今後我が都市はそなたには一切関わらん。

だから……」


「ああ――いやいや、そう言う事じゃねえ。そんなもんどうでもいいんだ。」



俺から目を合わせられないまま、早口で呟いたその言葉。


はなから勘違いしているその答えに、俺は思わず遮ってしまう。



いや、むしろそもそもの話を理解していないようで、その事自体にムカついてくる。



「要するに――勇者って職業自体に嫌気が差したんだよ。」



俺はまた金貨を投げつける。




「クッ……!」



今度は命中した。


金貨は会議長の額に当たって跳ね返った。




「世界の平和を守り、悪を滅ぼす、正義の味方ってのが勇者だ。

……だよな?」


会議長は俯いたまま何も言わない。



「でもさ……」



俺はそれでも構わず続けた。



「思うんだけど、何をもって悪なんだ?

……何をもって、正義なんだろう。」



俺は手に取った金貨をピン――と指で跳ねさせる。


金貨はしばらく空中をクルクルと回転し――




「人間には当然、良い奴もいるし……悪い奴もいる」



また手のひらに戻っていった。


手のひらの金貨は、表を向いていた。



「人間ってのは……世界の一部だ。

ぶっちゃけ、数ある動物の一種族に過ぎねえ……」



そしてもう一度金貨を跳ねさせた。



「だったらさ――



……人間を守る事、イコール世界を守る事、って理屈……おかしくね?」



手のひらの金貨は、裏を向いていた。


もしもこの世界に、人類を滅ぼさんとする悪~い魔王がいたとして――


それは結局、人類と魔王軍の、ただの戦争に過ぎない。


もしも魔王が勝って人類が滅びたとしても、この世界が滅ぶわけじゃない。



「……何の事を言っているのだ?」



会議長は恐る恐ると言った様子で、その顔に疑問を浮かび上がらせる。


やっぱ分かんねえよな……



「要するに、だ。

――フェアじゃねえって事。

人間様がピンチになった時に限って神様が勇者様送って助太刀~なんざおかしいじゃねえか。

この世界は人間様だけで成り立ってんじゃねえんだ。」



だから結局は神様が勇者を送り込むのは、自分を信仰してくれる人間を失いたくないという――


ただの自分勝手なエゴだ。



神様の仕事はこの世界をただ見守る事であって――



チート能力付けた人間を送り込むことな訳がないんだ……



こいつらの掲げる正義なんて、ホント自分よがりで、勝手なもので……



「ミミズだってオケラだってアメンボだって、そして……」




目の前にいるこのクソは、もしもこれが物語だったら、とてもじゃないが悪役には見えねえ。



「お前らの言う『邪悪なる魔の者』だって……

みんなみんな生きているんだ友達なんだ――


――ッよ!」


金貨を、勢いよく投げつけた。





「ああッ!があっ!」


それは会議長の目に命中――



一際デカい悲鳴が飛び出す。



奴は縛られた状態のまま、身体を勢いよくうねらせた。



どうやらまともに目ん玉に当たったらしい。



すると――


「そろそろいいんじゃねえか?」



御者席で馬に鞭を撃っていたカルミネがこちらに尋ねてくる。



「ああ!ここまで来りゃ大丈夫だろ!」


そして馬車のスピードが急激に落ちると――




大きな衝撃に、中にいた俺達はついその身をひっくり返してしまった。




「カルミネ!もうちょっとゆっくり止まれねえのか⁉」


「すまねえ!俺も馬車を運転するのは慣れてねえんだ。」


そして俺はのそっと身体を起こし上げる、少し痛む頭を押さえながら言った。



「おい。会議長様。降りろ。」



「……。」



すると奴は何も言わず、ただ神妙な面持ちで馬車の荷台から降りていく。




見ると外は――



辺り一面何もない平原だ。




遠くの方を見遣ると、遥かかなたに、あのアレクセイ商業都市が米粒みたいに小さく浮かんでいる。


だいぶ遠くまで来たようだ。


そろそろ都市のやつらも会議長を回収しに出向いてくるだろう。



ふと目を移すと――



会議長が平原の上にポツンと立っていた……




「おい。会議長。」



俺は奴に呼びかける。


そして――





「服、脱げ。」





短く、そう命じた。



「服……?」



俺の言っている意味が分からないのか、奴はポカン――と、そのマヌケ面をさらしてくる。




「だから脱げって。服、全部。」




「いや……そ、それは……」


「別にオッサンの服なんて欲しいわけじゃないんだ。

高く売れそうだから貰っていくだけだよ。」


もはや諦めたのか、会議長は渋々身に着けている物を――



一枚、また一枚と、脱ぎだした。




「ハハッ、ホントに脱ぎやがった。」


俺は思わず笑い混じりに口走る。



服を脱いでいる最中――



奴の顔はもはや無表情――無心になっているかのような顔だ。




そして――




やがて会議長は生まれたままの姿になる。



会議長の屈辱にまみれたような表情。




「……ぷふっ」


思わず吹き出してしまった。


「ご苦労!じゃあ、お詫びに~……」


そう言って俺は荷車の財宝の上に寝そべりながら、まるでゴミ屋敷の部屋を物色するかのようにゴソゴソと……


「これ上げる。」




俺が放り投げたのは、一つの王冠。


「……?」



豪華な装飾を施された冠が、奴の足元に無造作に転がった。



奴は特に王冠を拾いあげようという素振りは見せず、ただ足元のそれを見つめて立ち尽くしている。



「――被ってみて?」



そんな会議長に、俺は顎をしゃくって促した。



「…………」



ゆっくりと――ただ黙って、会議長は王冠を拾い上げる。


ゆっくりと――それを頭に運んでいく会議長。




そしてそこに出来上がったのは――




全裸で



豪華な冠を被る、会議長の姿だった。




「――ッ!」




俺は思わず顔を伏せてしまう……



「…………」


会議長からは特に、何か文句の言葉が発せられる様子はなさそうだ。



そしていまだ笑い顔で顔を上げると――



「合格。」



文字通りの、裸の王様に向けて、オーケーサインを出してあげた。



そして……



広大な大平原の中、そんな奇天烈な格好の会議長を一人残し、再び馬車を走らせる。




景色が流れていく中――




全裸で冠を被る会議長は――



結局最後まで何も言わず、ただ黙って俺達を見送っていた……


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