25話 第七章 クソッたれた世界


そして――


そこから先は時間との勝負だった。


会議場が手薄なのは兵士の大半が隔離区へと割かれているためだ。


だから奴らが戻ってくる前に、さっさとトンズラしなければならない。



外に出ると――



そこには隔離区の住人達が、無数の馬車を引いて準備を整えていた。



中に入っているのはまぎれも無く金銀財宝。



荷車からは、さながら光が溢れ出ているようだ。



それを見て、つい俺は体中が高揚してくる感覚に陥った。



「お前ら!会議長はしばらくこちらで預からせてもらう!

妙な事はするんじゃねえぞ!

コイツの首と胴がおさらばしてほしくなかったらな!」



そんな彼らに剣を向け、俺は威嚇する様に大声で叫びあげる。



そんな、ただ手をこまねくだけの兵士たちを横目に――



会議長を、馬車の荷車へと乱暴に押し込んでいった……



そんな時……



「マイト!」



呼ばれて振り返ると――


セタスが会議場の中から姿を現そうとしていた。



「おう!セタス!終わったか……


……って、何それ?」



よく見ると誰かを担いで走っている。



「おい!そいつ持ってどうする気だ!

捨てろ!そんなもんいらん!」



あれは先ほど俺に水魔法を掛けてきた貴族だ。


カルミネに打ち倒されて、まだノビていたらしい。



俺は大声で叫びながら、手を目いっぱい振り払う仕草をしてみせた。



するとセタスは会議場から少し距離を取った所で、その貴族を放り出す。


そして急いで俺の乗る馬車へと乗り込んできた。


「別に持ってきたわけじゃねえよ。

あそこで寝てたら死んじまうから、会議場の外に出しといてやった。」


「放っといたらいいんだよ、放っといたら。

俺アイツに殺されかけたんだぞ。」



俺はそう不満を垂れながらも、すぐに周りを確認する。



どうやら準備が出来たようだ。



そして――



いよいよ、出発だ。



ようやく、これでこの場所から立ち去れる。




どうやら隔離区にいる兵士達が帰ってくる前に逃げ切れそうだ……




後は馬車でトンズラするだけ。




俺がホッと息を吐こうとした――



――その時だった。




「そこまでです!」




聞き慣れた、あの声が俺達の足を止めた。




メインヒロイン、キター……


来ると思ったよホント。




御者台から前を覗くと、道を塞いでいたのは新手の兵士達――




その先頭に立ちはだかっていたのは、やはりクリスタだった。




やっぱり、戻ってきやがったか……



「隔離区の消火に当たっている隙に会議場を襲撃するなんて……なんて卑劣な真似をッ!」


彼女の姿は煤にまみれ、黒く滲んだ顔からは尚、クリスタらしいあの意志の強そうな瞳がこちらを睨んでいた。


「おい。」


俺は仲間の一人に会議長を任せる。


そして馬車を降りると、ゆっくりと彼女の前に姿を現した。



「マイトさん……どうしてこんなことを。」



彼女は悲しげな目で、俺を見つめて呟いた。


まあ当然、報告は彼女の耳にも届いているだろうな。



「聞いてくれよ。

あいつらな、俺を殺すつもりだったらしい。」



俺は無意味と知りつつ、そう言ってみる。


「そんなことはあり得ません!貴方は卑劣な悪党たちに騙されているのです!」


「あり得ないって……実際本人が言ってたよ?

……なあ、会議長様?」



俺は後ろを振り返り、会議長に促した。



「いや……それは……」


会議長は口をつぐむ。


「お父様……」


そんな父親の様子を見て、クリスタは一瞬バツの悪そうな表情を見せるが、すぐに続けて言葉を発した。




「しかし、どんな理由であれ、悪事を働く事は許されません!」




またこれだ……



俺の言葉を、どうやら彼女は聞く耳を持たないらしい。


そして彼女は兵士たちに命じる。



「全員、この悪党集団を討ち取るのです。」


「で、ですが……奴らは会議長を人質に取っています。」



彼女の命令に兵士たちの一人が異議を唱えた。



「クッ……卑怯者め……」



クリスタは憎しみを込めた目で俺を睨む。




しかし、どうしようか……




向こうから手を出してこないにしても、このまま時間を稼がれる訳にはいかない。


俺達の後ろにも兵士たちがいることを忘れてはならない。


奴らは訓練を受けた正規兵たちだ。


まともに戦えばこちらもただでは済まないだろう。


強行突破でもするか?


そんな考えが頭の中をよぎった時――




「お、おい!見ろ!」




突如、誰かが叫んだ。



「…………」



気付けば――



何人かの兵士たちが、俺達の後方を指さしている。



彼らはその衝撃の光景に――



驚きのあまり、ただ愕然とするばかりだった。



……



…………ナイスタイミングだ。



そして



どこからともなく、震える様な――



そんな声が聞こえた……





「か、会議場が……






……燃えている⁉」




俺は隣にいるセタスに目を向ける。



「ちょうどいいタイミングで燃えたな。」



俺がそう言うと、奴は突然――




「……ッだよな⁉

そうだよなッ⁉

これで合ってんだよな⁉」




セタスが少し、はしゃぎ気味に喚いてきた。


あんな訳の分からない会話で意思疎通出来たことがよほど嬉しいのだろう……



「正解。ドンピシャ。」



俺がニヤリとそう言ってやると、奴は心底嬉しそうな顔で――



「ういッ……」



と、手を高く掲げてきた……



何を求めているのか、なんて聞かなくても分かる。


だって俺も、内心めっちゃ嬉しい。


そうして俺は――


「ういッ……」


同じような掛け声で――



  パチン



と、そのハイタッチに応じてやった……


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