21話 第六章 ならばいっそ……この世界を――



「まず、勇者様にはですね――

カルミネをおびき寄せる為、隔離区の真ん中で、火を放ってほしいのです。」



「なっ……⁉」


その言葉に、俺はつい声をあげてしまう。


「隔離区を焼き払おうってのか!そうすれば悪党だけじゃなくて……」


そんな俺の反応とは逆に、会議長は至って落ち着き払った様子だ。


「いえいえ、ご安心ください。

カルミネをおびき寄せるためのおとりの為の火を放つだけですよ。」


会議長はごく穏やかな声で、なだめる様にして言ってきた。


「おとりの為の火?」


「ええ。勇者様には隔離区の中心部で、こちらが用意する魔道具を使って火を起こしてもらいます。

大丈夫ですよ、火の大きさ自体はせいぜい焚き火程度です。」


「それで本当におとりになんのか?」


「その魔法は厳密には爆発魔法なのですよ。

一定時間火を上げながら爆発音が鳴り続けます。

悪党集団たちは敵襲と間違えて飛び出してくるでしょうね。」



そこまで言うと――



会議長はそこで、いったん話を区切った。



――何か質問は?


そんな顔を見せてくる会議長。


そして俺はしばらく頭の中で考えを纏めると――



「その魔道具は本当に大丈夫なのか?」



まずはその事を尋ねた。



「ええ。何なら実際にお見せしましょう。

どの道その魔道具の使い方なども教えなければなりませんし……」


そう言いながら、会議長はおもむろに席を立ちだした。



そして――



「ついてきてください。ここではさすがに試せませんからね……」



そう促すと、彼は会議場の出口へと足を運んで行った……




外は既に薄暗い。


会議場前の広場――


昼にそこで行なわれた公開処刑の高台は既に撤去されている。



「では、この魔道具をお使いください。」



会議長に手渡されたそれは、四角い木片。



良く見るとそこには小さな――


薄く輝く石が埋め込まれている。



「魔道具の仕組みはご存知ですか?」


「ああ。聞いたことがある。」



そういえばセタスも使っていたな……



木片の裏側を見て見ると、そこにはなにやら変な文字が掛かれている。



ただ――



俺にはこの文章が何を表しているのかさっぱり分からないのだ。。



小規模な爆発魔法と言われてたけど、いざ使ってみたら大爆発――何てことはゴメンだ。



この場で試してみるに限る。



そう思いながら、会議長を見ると、奴も目で俺に促してくる。


「どうぞ、実際に試してみてください。」


俺は何も言わずに、その場に魔道具を置いてみた。


そして――


よく分からないながらも、魔法が発動するように軽く念じてみる。


念じるって言ったって……本当にこんなんで発動するのか?


俺がそう、訝しんでいると――




  ボウッ――




と急にその魔道具が火を上げ始めた――


「――ッ⁉」


俺は驚いてつい後ろに飛び退いてしまう……


すると次の瞬間――



  ―――ッ‼



火が爆発した――




耳をつんざく様な爆発音




「――ッ⁉」



あまりの爆音に、何も言葉が出ない。



しかし――



会議長達は平然とした顔でその魔道具を見つめている。


見ると魔道具は相変わらず火を上げながら、不規則に爆発を繰り返している……


辺りは爆音に包まれていた。



耳をもぎ取られるような感覚に、それでも徐々に慣れ始めていた時――



燃え盛る魔道具に――



大量の水がぶっかけられた……



  ジュウ……



と、一気に火と音が収束する音。


それと共に、辺りは再び静けさに包まれた。



「…………」



さっきの爆発の衝撃とは打って変わって、水の様にシン――と静まり返るその空間。



さっきよりも静かに感じるのは、俺の耳がマヒしているからだろうか……



「と、このように――」



唖然としている俺を置き去りに、会議長は何事も無かったかのように話し出す。


「水を掛ければ火は収まります。

魔石もさほど大きくないので、貴方様に被害が出るほどの爆発ではありません。」


俺はさっきの出来事に、いまだポカンとした表情で、ただ会議長を見守る事しか出来ない。


「はは、少しビックリさせてしまったようですな。」


木片にはめ込まれた小さな魔石。


たったこれだけの大きさでこの威力かよ。


「では勇者様、この魔道具を使って今回の作戦を実行してください。」


会議長はそう言って衛兵達に指図する。


「誰か、勇者様に新しい魔道具を持ってきてやれ。」


そして数人がバタバタと駆け出そうとした時――



「待て」



俺は奴らを制止させた。



「この魔道具はまだ使えるだろ?」



俺がそう尋ねると、会議長は「はて?」と呟いて地面に放置されたままの魔道具を覗き込んだ。



「普通、魔道具は使い捨ての物が多いですし、この魔道具も先ほど使用したことで魔力を使い切ってしまったと思うのですが……」



「でも、途中で水を掛けて火を消しただろ?

まだ魔石の魔力は残ってるはずだ。

全く同じものでなければ安心できないんだ。」


「もし心配でしたら、これと新しい物を見比べて頂いても結構ですよ?

刻んでいる術式は全く同じものです。


……確認しますか?」


そこまで言ってくるのであれば、新しい魔道具に何か細工を仕掛けてある――という訳

でもないようだ。


どうやら心配のしすぎか……



ただ――



「いや、これをそのまま使わせてくれ。」



念には念を入れたい。



すると奴はそんな俺を見て、しばし不思議そうな顔をしてみせるも――



「まあ……別にいいですが……」



案外あっさりと許可してくれた。



……よし。



「ですが……急にどうしたのですか?」


会議長がキョトンとした顔で俺の顔を覗き込んでいる


「いや……」


俺は奴とは視線を合わさず、ただ取り繕う様に……




「まあ、何となくな……」




そう――



何となく……



……アンタらの事が信用できなかったんだ。



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