16話 第五章 悪者
その日から――
俺達は毎日のように悪党集団のアジトを取り締まっていた。
とある寂れた建物。
俺は入り口のドアをぶち破った。
「……⁉
誰だッ⁉」
アジトに突入すると、そこには腕に傷の入った男たちが数人。
「やい!お前ら!御用改めである!」
俺が大根役者のように声を張りあげる。
「な、何だテメエらは⁉」
「私たちは会議場から派遣された者よ。
貴方たちが例の犯罪組織だという情報が入っている。大人しく会議場まで同行しなさい。」
クリスタが厳しく言い放つ。
「俺達は犯罪組織の一員なんかじゃねえ!
し、証拠はあるのかよ⁉」
「証拠なら、左腕にあるでしょ。」
彼女の言葉に、彼らは一斉に口ごもった。
「そ、そうだぞ~。左腕に傷がある奴は……その……
悪いやつ……なんだぞ~。」
俺が剣をフラフラと男たちに向けて、そう言い放った。
「く……バレてんなら仕方がない――」
お、ドンピシャだったのか?
「どうせ顔を見られたんだ……!
やられる前にやってやるッ!」
そう言って奴らは一斉に襲い掛かってきた。
何で戦おうとすんの⁉
「マイトさん!私に任せてください!」
そう俺に笑いかけて、飛び出して行ったクリスタは、即座に魔法の詠唱を開始する。
「水よ。その姿をツララへと変え、敵を貫け!」
いつものように、無数の水球が現れると、真っ白な煙を上げてたちまち冷気を帯びていく。
そして次に姿を見せたときにはそれは鋭いツララとなって、一斉に発射されていった……
「今日もやりましたね。マイトさん。」
クリスタは血まみれの部屋の中で、俺にそう笑いかけた。
「……ああ。そうだね。」
「どうしたんですか?元気ないですよ?」
彼女は心配そうに俺の顔を覗き込む。
彼女は純白の衣に身を包み、汚れ一つ付いておらず――
この血生臭い景色の中にはあまりに場違いに、美しかった。
「いや、別に……。」
魔法は遠距離から敵を攻撃できる。だから敵の返り血を浴びないんだな。
「では、早く兵士達に今回の事を報告しに行きましょう。」
彼女がそう言って部屋から出ようとしたとき……
「ん?これは……」
その部屋のテーブルに置かれた一つの小袋が目に入った。
「これは何でしょうか?」
俺の様子に気づいたクリスタも足を止め、その小袋を覗き込む。
中を覗くと、そこには相当な数の金貨。
「すごい大金ですね。彼らの活動資金でしょうか?」
不自然な額の大金もそうだが、俺がもっと気になったことは……
「この袋……どこかで見覚えがある様な。」
ふと俺は自分の懐からあるものを取り出す。
そして中から出してきた物は――
以前貴族達から報酬としてもらった金貨の入った小袋だった。
「これは……マイト様の持っているものと一緒です。」
一見、一目では見分けが付かないその小袋。
しかし、上質な布で作られたそれは、そこらで見かける市販の物とは違い、よく見れば明らかな異彩を放っている。
「こんな上質な布に金貨を入れている奴なんて……そうそういないよな?」
俺が独り言のように呟くと、彼女もそれに同意した。
「特にこの袋は会議場が褒賞を与える際に渡す、特別なものです。
最近で褒賞を貰った人と言えばマイトさんと……」
……ッ⁉
俺はそこで、昨日彼女が言った言葉を思い出す。
もしかしたら……
俺達が会議場に戻ると、いつものように報奨金の授与が行われた。
「勇者マイト様。今日も貴方は犯罪組織の討伐を完了された。
それを讃え、ここに報奨金の授与を行なおうと思います。」
俺が斜め上に視線を流すと、その先にいたクリスタがニコリと俺に向けて笑いかける。
すると、ふと……
「しかし……それにしても次から次へと犯罪組織が湧いてきますなあ……」
会議長が、どこかぼやくような言い草で――
しかし、皆に聞こえるほどの声で、言葉を放った……
「例えばどこかに――元凶となっている者がいるのかもしれません……」
確かに……普通これだけ悪党を討伐すれば、他の者たちは恐れ、悪事を働かないはずだ。
なぜわざわざ命を落とすようなことをする?
「セタスよ……」
そこで、会議長はおもむろに、俺の隣に立つセタスへと声を掛けた。
「私どもはかねてより、もしかすれば犯罪組織を支援する輩がいるのではないかと疑っているのだ。それも――
割と近くにな……」
会議長はなにやら意味深な口調で、セタスに問いかける。
「なあ……いったい、どこにいるのであろうかな……?」
しかし当然、セタスは否定するだろう。
「い、いえ……私には、皆目見当が付きません。」
だが、そう答える彼の口調は、どこか余裕のない様子に見えた。
「そう言えばセタスよ。そなた……左腕の傷は戦で負ったものなのかの?」
「――ッ⁉」
その一言に――
セタスの顔色が明らかに変貌する。
当然、セタスの左腕は服の袖に隠れ、見えるものではない。
しかしどうして知っているのか?
いや、恐らく……
俺が再び斜め上へと視線を向けると――
そこにはやはり――先ほどとは打って変わって厳しい表情でセタスを睨むクリスタの顔があった……
「はい……もちろんこれは戦場で負ったものであります。」
「ならば今ここで見せてみよ。そなたの歴戦の証を私どもも拝見したくてな。」
セタスは緊張を隠す様に息を一つ吐くと――
「かしこまりました。」
一言呟き、服の袖を――
捲って見せた……
「うわ……」
それは――
――抉れた様なおぞましい傷の後。
俺は思わず声を上げてしまう。
会議場にいる貴族一同もざわめき立っている。
だが、その古傷というのは――
正直戦場で受けた傷と言われても何も差し支えが無いような、そんな傷だった。
というよりかは……
俺から見れば犯罪組織の左腕の傷なんて皆それぞれ違うように見えて、どこに共通点があるか分からない。
セタスの傷も犯罪組織の一員であるという証拠になど成り得ないだろう――
と、普通なら俺もそう考えていたはずだ。
だが……
「それは違うわ。お父様。」
口を挟んだのは、やはり――
クリスタだ。
「申してみよ。クリスタ。」
会議長はセタスを睨んだまま、許可を出す。
「恐れながら、本日の見回りにて、ある犯罪組織の集団を討伐した際、このようなものがありました。」
彼女の手元にあったのは、あの犯罪組織の連中がいた所に置いてあった小袋。
それを見たセタスは、もはや観念したかのような悲壮な表情をしている。
「それは……我々がこの二人に与えた報奨金。」
会議場内がまたざわめき出す。
「確か……この二人以外に報奨金を与えたのはいつ頃だったであろうか……」
会議長が誰に聞くともなく、呟いた。
「この二人以前では、約百年前の勇者であったと記録されております。」
他の貴族が会議長にそう伝えた。
「ふむう……」
会議長は吟味するかのような目つきでセタスを見つめる。
「勇者マイト様……」
そしてセタスに視線を置いたまま、俺の名前を呼んだ。
「大変恐れ多い事ではありますが……
マイト様の小袋を確認させては頂けませんか?」
俺は言われるがままに、懐から小袋を取り出した。
「会議長様。マイト様の小袋は私も確認しております。
この小袋はマイト様のものではないでしょう。」
俺の小袋を確認する会議長に、ダメ押しとばかりにクリスタの擁護が入る。
「それでは……今クリスタの手にある小袋は貴様の持ち物だという事になるが……」
当然、そうなるだろう。
「どうなのかね?セタスよ。」
追い打ちをかけるように会議長は再度確かめる。
すると、セタスも――
「はい。私の物で、間違いありません。」
目を閉じ、そう、頷いた。
「するとそなたは犯罪組織に金銭的に支援をしていた――いや……
犯罪組織の一味であったという事で間違いないだろうか?」
そう念押しする会議長だったが――
しかし、セタスは最後の部分については否定する。
「会議長。恐れながら、私は犯罪組織の一味ではありません。」
セタスは弁明するも、当然皆が納得するはずがない。
「じゃあどうして犯罪組織の者どもに金銭の受け渡しなどしたんだ⁉」
「恐れながら申し上げますが……
私が金銭を渡したのは隔離区の人間に対してです。」
依然、憮然とした表情の会議長達。
するとセタスは――
「会議長様。いや、貴族の皆様――」
そんな彼らに対して、訴えかける様に語り始めた。
「どうして犯罪組織が無くならないかを……
貴方たちは考えたことがありますか?」
眉をひそめる会議長。
「ご存知の通り、隔離区の人間たちは食う物に事欠き、皆死を待つのみの状態なのです。」
それは俺が初めて聞いた話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます